第725話
ゼウスの攻撃は古代龍達にとっても非常に危険なものだった。
無造作にバラ撒いた雷撃や電撃は古代龍の身に傷を負わせることは出来ないものの、古代龍達からブレスを放つ余裕を奪っていた。
理由などそう複雑なものではない。バラ撒いた雷撃や電撃が、チャージ中のブレスを阻害して龍の口内や体内で炸裂するような嫌がらせをしているのである。
雷撃自体のダメージが皆無に等しいのは、己の体を守る龍鱗や甲殻が着弾した雷撃より強いからだ。
だが、その守りの内側である体内までそのような装甲で覆われているわけではないし、強力なブレスがもし誘爆すれば、そのダメージは甚大なものとなる。
『――――鬱陶しいぞ、トビトカゲ共がッ!!!』
遠距離からチクチクと魔法による弾幕を張って妨害をしていた龍達。
その魔法に対し、ゼウスは怒りを乗せた覇気を放つことで木っ端微塵に吹き飛ばし、ゼウスから遠い魔法はその威圧に押し返されてあらぬ方向へ飛んでいく。
そこに放たれるのは、リヴァイアサンが吐く高出力の水流ブレス。
レーザーカッターのようなブレスは、回避したゼウスの鎧に大きな傷を付け、フサフサの白髪の端を斬り裂いて散らす。
だが、ゼウスもタダでやられているつもりはない。手のひらに雷を集めると、お返しと言わんばかりに手のひらを突き出して、リヴァイアサンに向かって極太のレーザーを撃ち返した。
『おっと、それは駄目だ』
『――――これまた面倒臭い鈍亀がいたものだな』
突き進むレーザーの前に飛び出したのは、装甲龍タラスク。自慢の亀甲でゼウスの放ったレーザーを受け切ると即座に甲羅に籠もり、リヴァイアサンの尾撃でゼウスに向かってかっ飛んでいく。
その攻撃に目を見開いたゼウスは、首を傾けて自分の頬を掠めていく巨大な甲羅に思わず目を瞬かせる。
『まさか、味方を打ち出すとはな!!!』
『あの程度の衝撃に耐えられなくて、古代龍なんざ名乗ってられっかって話だ!!!』
バハムートの爪を鎧の肩当てで受けるゼウス。衝撃で左前に軽く姿勢が乱れるが、無理矢理左腕を引き上げて裏拳を当てて、バハムートを大きく吹き飛ばす。
その瞬間、ゼウスの顔面を黒い霧が覆う。アジ・ダハーカの口から吐き出された劇毒の濃霧は、毒としての攻撃だけでなくゼウスの視界を奪うことの一助にもなっていた。
だが、僅かな息を空気砲のように口から吐いたことで、毒霧は敢え無く霧散。体内の空気を使ったことで、毒がゼウスの体を蝕むこともなかった。
『どうした、トカゲ共!!! 儂を殺すなどと大言を吐いた割には、碌な傷一つ付いてはおらんぞ!!!』
『――――落ちよ、流星の
猛るゼウスの頭上から火炎を纏って落下する巨大な流星。大山龍ズメイの放った一撃は、ゼウスの拳と衝突して木っ端微塵に吹き飛んだ。
だが、それだけで終わる龍ではない。飛び散った岩石を操作し、ゼウスを中心として逆戻りするように石礫が剛速球で飛んでいく。
それを体から迸らせた雷で砂粒程度に打ち砕いたゼウスは、雷を纏った拳で地面を叩き、地中から地上に向けて大量の雷槍を天高く撃ち上げる。
回避する古代龍達は、僅かな隙を狙って単発のブレスを何発も放っているが、火力の落ちたそれらでゼウスの鎧に大きな傷を付けることは出来ない。
岩盤を捲りあげて盾にし、そして使い終えればそのまま掴み上げて古代龍達に投げつけるゼウスは、正しく帝国の主神としての猛威を存分に振るっていた。
『ガァァァァァァァァァァッ!!!』
『アァァァァァァァァァッ!!!』
『オォォォォォォォォォォォッ!!!』
ファフニール、ガルグイユ、イルルヤンカシュの咆哮と共に放たれた三種のブレスが収束して巨大な光線となるが、雷槍を正面からぶつけたことで光線は裂けて散り散りに飛んでいき、そして大爆発を起こして土煙を巻き上げる。
その煙の中で、ベヒーモスの突進とタラスクのタックルが左右両面から迫るが、ゼウスの右腕がタラスクの甲羅を弾き飛ばし、左足がベヒーモスの頭を踏みつけて強制的に停止させた。
そんなゼウスの背に、黒化したニーズヘッグの高出力ブレスが直撃する。
が、光輝の鎧に守られたゼウスはそれを意にも介さず、足元のベヒーモスを右足で振り返りざまに蹴り飛ばしてニーズヘッグにぶつける。
そして、再び手のひらに雷槍を生み出すゼウス。タルタロスに幽閉したキュクロプスが鍛え上げ作り上げた神槍ケラウノスは、ゼウスの意思に応じて何度でも雷を元にして武器となるのだ。
ケラウノスを構え直したゼウスに、火炎弾や魔力弾を掃射して注意を引くアンフィスバエナとアイトワラス。赤い龍と黒い龍の比較的に小柄な体は、ゼウスの槍や雷を躱すのに適していた。
とはいえ、ゼウス相手では両者の攻撃はそこまでの効き目はない。
あくまでもゼウスの注意を引く牽制。それをゼウス自身は理解しているが、だからといって一方的に撃たれ続けて放置出来る程の器はゼウスにはない。
『まとめて吹き飛ぶといい――――!!!』
ドンッ! と、鼓膜が破れんばかりの轟音と体が吹き飛んだと勘違いする程の衝撃が、ゼウスの周囲を揺らし乱す。
ゼウス自身を避雷針として落とした極大の落雷は、空を飛ぶアンフィスバエナらの体を蹂躙し、その翼に雷による強力な麻痺を付与して、次々と龍の体を地に落としていく。
『喧しいトカゲモドキが、図に乗るなよ……!』
『ガァァァァァァァァァァッ!!!』
そんな中でも、落雷を受けて全身に煙を纏ったファフニールは、ゼウスの喉笛を掻き切らんと黄金の爪牙を剥き出しにして迫る。
それを右の拳で迎え撃つゼウス。拳がファフニールの顔面を打ち、メキメキと鱗や甲殻がヒビ割れて砕ける音が鳴り響く。
だが、その瞬間にファフニールは尾に生み出した黄金剣でゼウスの右腕を斬りつけた。
ザックリと斬り裂いた腕からは血が滴り落ちるが、それに対して筋肉を隆起させることで簡易的に止血を行うゼウス。
『捨て身の攻撃も実に無力だなぁ、ファフニール?』
ゼウスの拳を受けて脳が揺らぎ、衝撃で傷付いた内臓がファフニールの口から血を吐き出させる。
ファフニールのカバーにガルグイユとイルルヤンカシュが背後から迫るが、振り返ったゼウスの拳がガルグイユの翼の付け根を打つ。
ベキリ、という音がガルグイユの翼から鳴り響くが、そんな事は構うこと無くガルグイユは獄炎を大口を開けて吐き出す。
それに対してイルルヤンカシュが風を巻き起こし、一気にその火勢を強めるが、ゼウスは不快そうに眉を顰めながらガルグイユの首を掴んで無理矢理ブレスを止めさせる。
そして、そのままガルグイユの体を鈍器として使い、イルルヤンカシュの体を打つ。オマケに、左手から雷を集めた光弾を直撃させて。
ガルグイユと共に吹き飛んだイルルヤンカシュは、そのまま帝国の山にぶつかって体を止め、そのままグッタリと崩れ落ちた。
それを見て激昂したのは、より一層黒く体を染め上げたニーズヘッグ。
長い首と体を使ってゼウスの腕に絡み、雷撃をその身に受けながらも鋭い牙を突き立てて、ゼウスの腕の肉を噛み千切ろうと目を血走らせる。
だが、鬱陶しいと感じたゼウスはニーズヘッグの横腹に雷槍を突き刺し、更にその状態で腕を大地に叩きつけ、地面に突き刺した状態で雷槍を爆破。
その結果、大地を破壊して土煙が舞い上がり、土砂と共に四肢がもげたニーズヘッグが、全身から血を流しながらゆっくりと落下していく。
『――――貴様も鬱陶しいなぁ、オイ』
その姿をジッと見ていたゼウスは、高圧水流のブレスを吐いたリヴァイアサンの顔面を、ブレス諸共雷光を纏った右拳で振り返りざまに殴り飛ばす。
吐き出した水に赤い血が混じり、更に胴に打ち込まれた蹴りがリヴァイアサンの長い体を二つ折りにして吹き飛ばした。
そんな中で、ゼウスの足に重い突進をぶちかますベヒーモス。片目は潰れて血が流れ出していたが、その状態でも足を止めることなく、己の硬い頭を使ってゼウスの脛を何度も打つ。
『――――邪魔だ』
それを、力強い踏み込みで踏みつけるゼウス。
バキボキと甲殻や鱗や、体内の骨が砕ける音と共にベヒーモスは口から血を吹き出し、そして邪魔だと蹴り飛ばされて、近くの山の上に不時着。
そこにトドメの雷槍を放ったゼウス。だが、それは許さないとタラスクが身を挺してそれを防ぐ。
古代龍であるユラン・ジラントやズメイらは、その間にもファフニール達を守る為に障壁を張って、ゼウスの一挙手一投足を見逃さぬように睨みつける。
『――――さぁて、死に損ないはとっとと片付けてやらんとなぁ?』
再び雷槍を生み出したゼウスが、ゆっくりと足を踏み出した――――――その瞬間だった。
『――――随分と好き勝手してくれたものだな』
空から放たれる、極光のブレスがゼウスを飲み込む。だが、そのブレスを無理矢理手で引き千切るように散らしたゼウスは、下手人に向かってその言葉を言い放つ。
『――――どうやら、トカゲ共の親玉が出てきたようだなぁ?』
『お前の言葉など、どうでもいい…………』
天を裂いて現れたのは、七つの頭に七つの王冠のような突起を有した、ズメイを遥かに超える巨龍。
『――――邪神、ゼウス。貴様は、今日この日に我が手で滅ぼしてやろう…………!』
その巨龍の名は『終焉龍』サタナエル。古代龍の王として君臨するかの龍を知る者は、もう一つの名を必ず語る。
――――その名を『黙示録の龍』という。
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