第717話

 信長達が帝国海軍と帝国の要塞や拠点を制圧している時、彼らはその地に再び姿を現した。


『信長様!!! 西に新たな船団を確認!!!』


『敵か。それとも味方か』


『味方ではあります! ですが、彼らは!!!』


 軽く混乱しているのか、いまいちハッキリとした答えを返せていない伝令を訝しげに見つつ、信長は船団が現れた方向を向く。


『……ふむ、そういうことか』


 帝国の艦船や天使を攻撃する船団。それを見れば、伝令が混乱したのも無理はないと納得がいく。


 何せ、そこで戦っているのは我らが治めるよりずっと昔にスメラミコトを治め、そして既に死んだ筈の武士達であるのだから。


「オイ!? まさか、彼奴等は……!」


『ククッ! どうやら、件の英雄は我等以外の武士達も呼び起こしたらしい!』




「な、なんだコイツ!? なんでこの距離を一飛びで――――ギャッ!?」


『……あれあれ? 僕の八艘飛びって、それなりに有名だって聞いてたんだけどなぁ……?』


 小さな和船から一飛びでガレオン船に飛び乗った武士は、近くの海兵を両手に持つ刀で斬り裂きながら、不思議そうにそんな言葉を溢した。


『ちょっと、大将!? 一人で突っ込まんでくだせぇよ!?』


『そんなこと言ったって、このまま突っ立っていたら向こうの武士達に取られちゃうよ?』


『だからって一人で行くこたぁねぇでしょう!? 昔っから色々と無鉄砲過ぎますぜ、義経様ァ!?』


 烏帽子が似合いそうな若武者の後を必死になってついてきた武士が、義経様と呼んだ主君に文句を言いつつ、近くに寄った海兵を槍で突き殺す。


 そう、この若武者の名前は源義経。嘗てスメラミコトを治めていた源氏の武士であり、当時スメラミコトを襲撃した主神教徒を撃退したスメラミコトで知らぬ者無しの英雄である。


『てか、弁慶は何処行ったんだろうねぇ?』


『話題を変えんで――――』




「お呼びですか!!! 義経様ッ!!!」




『『おぅわァァァァァァッ!?』』


 ズドン! と、軍艦の甲板に着地する巨大な僧兵。義経の言葉に誘われたその男は、足元にいる海兵を蹴散らしながら、邪魔な砲やマストを蹴り壊して主君の下に馳せ参じる。


『べ、弁慶!? なんかすっごくデカくなってない!?』


「ハッハッハ! 私だけ先に蘇ってしまいましてな! 新しい体は面白い仕込みが多くて楽しいですぞ!」


 そう言って、腕部に格納していたガトリングガンを掃射する弁慶。薙ぎ払われた軌道上の帝国兵は、放たれる弾丸の嵐を受けて木っ端微塵に吹き飛んでいく。


 更に、背中の木箱の中からミサイルを発射すると、それらは高く高く空に登り、そしてほぼ垂直に隣の軍艦の甲板へ突き刺さって爆発する。


『うっわぁァァァァァ!? 凄い凄い! 弁慶、めっちゃカッコイイ!!!』


『弁慶の旦那!? なんか無茶苦茶やってねぇですかぁ!?』


「相変わらずうるさいな、継信。もう少し落ち着きを持ったらどうだ?」


『こんなん見せられて落ち着けるかァァァッ!?』


 そう言って、佐藤継信という武士は八つ当たりのように海兵を槍で殴り、倒れたところを滅多刺しにする。


『何処にも苦労人というのはいるものだな……』


『それ、大将が言えた口じゃないでしょう?』


 そんな様子を見ていたのは、源頼光と呼ばれし武士と、頼光四天王と呼ばれた渡辺綱。彼らもまた、義経程ではないが船が近くなった時点で甲板に飛び乗っていた。


 一応、近くに居た海兵は抜き放った太刀の一振りで確殺していたが、今のところそれ以外で二人に襲い掛かる敵はいない。というのも、だ――――



『ハッハッハァ!!! 小鬼より弱い賊共が!!! とっとと死に晒せやァァァァァァッ!!!』


 身の丈を超える太刀とマサカリを振り回して海兵を蹂躙する坂田金時と――――


『ふむ。土蜘蛛の脚の方が余程硬いな』


 撃ってきたマスケット銃の銃弾を斬りながら、下手人を切り捨てる卜部季武――――


『つまらん!!! これならば、まだ酒呑童子とやり合った方が楽しめる!!!』


 そんな事を話しながら大太刀を振り下ろして甲板諸共敵を両断する藤原保昌に――――


『やれやれ。皆様、暴れ過ぎると大将の獲物が無くなるでしょう。少しばかり加減しては如何かな?』


 諌めるフリをしながら、大鎌を振り回して海兵の首を次々と刎ねていく碓井貞光といった、頼光縁の武士が暴れていたからだ。



『これ、私要らなくないか?』


『……いざとなれば、他の船に乗り移ればよいでしょうな。尤も、乗り移った先に敵がいるとは限らなくなってきましたが……』


 そう言って、渡辺綱がチラリと見た軍艦の上では、また別の武士達が刀槍を振り乱して帝国兵を蹂躙する姿が見えていた。


 彼らは頼光より後の時代の武士であるが、それでも己の四天王と引けを取らない剛の者であると、その太刀筋や戦い振りで即座に分かる。


『ほほぅ? こりゃまた、随分と剛の者が集まっているようだなぁ?』


『……急に現れるのは止めていただけませんか、吉備津彦命様?』


 スッ、と頼光の背後から手でひさしを作るようにして甲板を眺める吉備津彦命というみずらが特徴的な壮年の男。


 嘗て悪逆非道を尽くした温羅と戦い、三日三晩戦い抜いて勝利した武士であり、スメラミコトの皇族でもあるその男は、時折空を舞う天使に目を向けながらも、堂々と船の上で余裕に満ち溢れた姿を晒していた。


『確か、北畠顕家と楠木正成。それと新田義貞で良かったかな? 足利尊氏殿?』


『左様。傾き掛けたスメラミコトを立て直した、忠義の士達で御座いますよ』


 打刀で海兵を斬り裂いていく北畠顕家に、長巻で薙ぎ払うように上下に両断する楠木正成。そして、その二人の背中を守る槍使いの新田義貞と、隣の軍艦もかなりの強者が揃っている様子。


 その様子を見ている足利尊氏もまた、手持ち無沙汰なのか脇差しを遊ばせながら、偶にこちらに近寄ろうとする海兵に対して、足元の木片や小物類を蹴り飛ばして怯ませている。


『空の上はどうですかな?』


『問題無いでしょう。スメラミコトの妖魔共も集まっているですし、何より弓の名手である那須与一殿、源為朝殿、俵藤太殿が揃っていて仕損じることはそう御座いませんよ』


 義経が誇る弓の名手である那須与一は、的確に天使達の頭を居抜き、次々と海の底へその遺体を沈めている。今のところ、射た矢を外した様子は無いようだ。


 ただ、その後の源為朝と俵藤太の両名に関しては中々酷い。


 というのも、二人の武士が使う大弓は何人もの力自慢を集めて漸く弦を張れる代物。それを片手で軽々と引いて矢を放っているのだから、その威力もまたとんでもないものになっている。


 天使を狙って射れば、二人の矢は天使の体を貫通し、その後ろにいる天使を一撃で仕留めて撃ち落としているのだ。


 場合によっては三人目に到達することもあるし、盾で防ごうにも構えた盾すら貫いて体を撃ち抜かれる天使も出てきている。


 時折、小船で逃げようとした帝国兵の船を矢で沈めている姿を見られるくらいには、二人の弓の威力というものは凄まじかった。


『しかしまぁ、指揮官がこうして乗り込んでいるのも、あまり宜しくないように思えますな……』


『指揮は頼朝、清盛、それと常陸坊海尊とかいう僧に任せている。この状況ならば、余程の愚か者でない限りは負けはせんだろう』




『義経ェ!!! 貴様ばかりに功は稼がせんぞ!!!』


『ハハッ! こういうのは早い者勝ちなんだって、周りの人に言われなかったのかな~?』


『ならば、此処から先は早い者勝ちとして、全て私が平らげるとしましょうか!』





『……アレは、清盛んところのと頼朝んところの奴じゃねぇのか?』


『……まぁ、この状況で護衛が必要になるとは思えませんからな』


 本来であれば主君を守る為に傍に控えているはずの、平教経と畠山重忠という武士もまた、両手で握った太刀を振り、煽った義経に負けない勢いで海兵を斬り捨てている。


『島の方は向かわんでよいのか?』


『既に後身の者と妖魔共が暴れておるようなのでな。我らはこちらの雑兵共を潰せばいい。尤も、ゆっくりしているとその後身の者共に漁夫を狙われそうではあるがな』


 そう言った頼光は、チラリとこちらに進んできている信長達の船団を見て、ニヤリと笑いながら太刀を構え直す。


 それに応じるかのように、渡辺綱も刀を構え、次いで尊氏と吉備津彦も刀を抜く。


『それじゃぁ、俺等も漁夫られる前にこの船全部ぶっ潰すとしようかねぇ!!!』


『船は沈めんでくださいよ? この船使ってそのまま本土に上陸するんですから』






――――こうして、混乱した船団は蘇った武士達により次々と食い散らかされることとなった。

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