第702話

 帝国の宣戦布告を受けたフランガ王国は、国王夫妻不在の中で、第一王女であるティリエラを一時的なトップとして動き始めていた。


「ティリエラ、とんでもないことになったね」


「ホントにね! マリーとのんびり語らうことも出来ないみたいよ!」


 城にはディルガス帝国の外交官から直接手渡しで宣戦布告の文書が届けられた。帝国の外交官というのはその為だけにあるような役職なので、運んできた外交官も忌々しそうにその文書を睨んでいた。


 それよりも、帝国の軍備についての情報の方が王国としては重要だ。外交官もそういったものが帝国内で研究されているとしか知らないが、どうやら帝国はゴーレムやキメラといった人造モンスターの導入を進めているらしい。


 具体的な情報が無い分、推測しか出来ないのが歯痒いところだが、それでもあると分かるだけマシだ。何も知らない状態なら、そもそもの対策さえ建てられない。


「聖教国は帝国の行いを批難し、フランガ王国に対して最大限支援すると声明を出しました」


「同じく、オルンテス共和国もフランガ王国に対して最大限の支援をするとのことです。まさか、聖女の護衛で帝国との戦に巻き込まれるとは思いませんでしたがね」


「ごめんなさいね、ユニア。後で共和国にはボーナスを出すように言っておくわ」


 聖女マリーと、共和国から派遣された護衛であるユニアも、本国の声明をティリエラ王女に伝える。


 聖教国は帝国の教徒を認めておらず、オルンテス共和国は帝国による海賊行為に悩まされている歴史があるのだ。フランガ王国に助力する理由は充分であると言えた。


「帝国海軍の警戒もしないといけないし、それに国内の物資の問題も――――」


「案ずるには及ばないよ、若き王女殿」


 考えることが多いと頭を抱えたくなっていたティリエラ王女に話し掛けたのは、つい先程城に文書を持って到着したマルテニカの外交官。


 その隣にはケーニカンスと見慣れない国の外交官も立っていたが、恐らく悪い報ではないのだろうと判断できる。


「もしや、物資の提供を?」


「それも行いますが、主題は違いますな」


 主題は違う……一体、何を考えているのだ?






「我々マルテニカ連邦は、今この時を以てディルガス帝国に宣戦布告することを決定致しました」


「同じく、ケーニカンス獣王国もディルガス帝国に対し宣戦布告することを決定した」


「ウォルク朝も同じく、ケーニカンス獣王国と共にディルガス帝国に宣戦布告を行いました。我々も共に戦いますよ、ティリエラ王女」




 ウォルク朝は聞いたことが無いが、マルテニカ連邦とケーニカンス獣王国が帝国に宣戦布告か!


 マルテニカ連邦は帝国の山賊行為に頭を悩ませていたと言うし、ケーニカンス獣王国は奴隷狩りの被害を受けている。確かに、帝国に宣戦布告する理由として不足はない!


「マルテニカ連邦は南西部から北東に向かい侵攻致します。また、必要な物資をフランガ王国に供与することも、常識的な範囲であれば可と伺っております」


「ケーニカンス獣王国はウォルク軍と共に北上し、帝国南部の攻略を行う。帝国の賊軍共は、我々の手で根絶やしにしてみせよう!」


「何とありがたい! では、我々も――――」


「おっと、お話中すみません。アラプト本国より、丁度今文書が届きましてな!」


 話中に入ってきたのは、マルテニカ連邦の王族と婚姻を結び、友好関係を結んでいるアラプト王国の外交官だ。確か、マルテニカ連邦と同じ大使館を使っていると聞いたことがあったが……


「我々アラプト王国も、ディルガス帝国に対して宣戦布告致しました。直接フランガ王国に協力することは難しいですが、植民地とされた島々の奪還という意味では、海軍と交戦することもありましょう」


「おぉ、何と――――!」


 アラプト王国もディルガス帝国に宣戦布告したのか! 確かに、一部の諸島群は元々アラプト王国の領地であって、今も帝国海軍が進駐して実効支配を行っていると聞いたことがあるが……


 何にせよ、対帝国でこれ程多くの国の助力を得られるのはありがたい!


……と、この時の自分はそんな呑気なことを考えていたのだ。実際は、そんなレベルじゃ収まらない程の流れになっていたと言うのに。



「おや、丁度いいタイミングだったかな?」


「おぉ! 久方振りで御座いますね! 婚姻式の際には良き品を頂き感謝しておりましたよ!」



 続いて部屋に入ってきたのは、騎士鎧に身を包んだ金髪の青年。キャメロット騎士の証を下げていることから、彼が単なる一介の騎士でないことはすぐにわかった。



「闘技大会以来ですか。私はキャメロット騎士国、円卓の騎士が一人。名をモードレッドと申します」


「円卓の騎士……ということは、此度も戦場に参戦してくれるというのですか!」



 キャメロット騎士国は、フランガ王国とディルガス帝国の戦争の際には参戦してくれる事が多かった。


 あくまでも名分としては戦地で騎士が巻き込まれた。ということになっているが、キャメロット騎士国の参戦表明は非常に有り難い!



「えぇ、そうですね。キャメロット騎士国は、度重なるフランガ王国への侵攻を企て、そして実行してきたディルガス帝国に対し『宣戦布告』を行います」


「…………は? 宣戦、布告?」



 ち、ちょっと待って? キャメロット騎士国って、そんなハッキリと他国に対して宣戦布告したって言うような国だっけ?


「あぁ、それとフランガ王国内の通行許可をお願い致します。既に円卓の騎士全軍が、帝国領を目指して東進を始めていますからね」


「はっ、はいッ!?」


 円卓の騎士全軍!? 過去の記録でも数百人程度だったのに、全軍!? 嘘でしょ、どうなってるの!?


「おや、少し遅れましたか」


「なぁに、丁度いいくらいでしょう」


「そうそう。モードレッド殿がいるのなら、一番いいタイミングに来たと言えるだろうからな」


「貴殿らは……」


「やっと来たか、龍馬」


 モードレッド殿が龍馬と言う名の見慣れない国の者に話し掛けている。いや、他の二人も見たことがないと言えばないんだけれど……


「あぁ、先にこちらを渡しておきましょうか」


「これは……?」










「スメラミコト、レン国、ヴェラージは、ディルガス帝国に対し宣戦布告致しました。それは、フランガ王国に対するちょっとした親書のようなものです」




「ヴェッ!?」





 王族として出してはいけない声が出たようにも思えるが、そんな報告を聞かされたら声が出ないワケがない。


 確か、ヴェラージはディルガス帝国が国土の一部を植民地として有している国だった筈だ。レン国とスメラミコトはあまり聞いたことが無いが、恐らくヴェラージとそれなりに親しい関係なのだろう。


 いや! そんなことよりも、キャメロット騎士国もだがディルガス帝国に対する宣戦布告が多過ぎないか!?


 戦争の当事者である我が国は、言ってしまえば防御ばかりが得意な小国。軍事力で言えば帝国の半分どころか三割か四割程あればいい程度。


 帝国と戦って勝てているのも、帝国の補給面の弱さから耐え忍んでいれば自然と勝てるからであって、そんな何ヶ国も助けに来てもらえる程の大国じゃないんだが!?


「ま、マリー……一体どうなってるの……?」


「し、知らない知らない!? というか、なんで当事者のティリエラがわからないの!?」


「だって、私のところってこんなに色々な国が集まってくる程の大国じゃないし!?」


 自虐っぽいけど、ホントにそうなんだって!? そうじゃなきゃ、帝国も何度も何度も狙って戦争起こしてこないし!?


「おや、皆さん揃い踏みで」


「こりゃ、俺等のところが最後かもなぁ」


「え、えっと……何方の方でしょうか……?」







「あ、私はマギストス王国の者です」


「俺等はノルド皇国のだな」






……なぁ〜んで四大大国の中、三ヶ国もここに集まってるんでし「あ、外交文書はコレな。それと、俺等も帝国に宣戦布告したから」うわぁ〜い、ナカマが増えたぞ〜…………







「って、なるかぁ!?」


「よし、元気はあるな! なら、ちゃちゃっと帝国潰して終わらせるか!」


「そうですね。この戦力で負けるわけにもいかないでしょう」






――――もうなんか、色々とお腹いっぱいだよ!!!

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