第698話
全てのプレイヤー達を敵に回した私達は、ほぼほぼ被害無しでこのイベントを乗り切ることが出来た。
ただ、予想外というか予定外だったのが、イベント期間が思った以上に早く終わってしまったことである。ゲーム内時間で一週間の予定が、その半分程度の日数で終わってしまったわけだからね。
「ということで、若干の無茶をしてもらったわけなんだけど……」
「まさか、プレイヤー全員巻き込んで宴会とか、お姉のスケール色々とバグってない?」
システム系の子達に頑張ってもらった結果、天の声となって観戦していたプレイヤー達を復活させて、今回の健闘を称えるような形で大宴会が始まっている。
流石に場所が足りないので城壁の外から旧館周りまで使って人を入れているわけだが、見たことのないモンスターや、有名な偉人や武将と関われてかなり好評の様子。
特に動物好きなプレイヤーは、私が旅先で出会った様々な種類のモンスターと戯れながらモフモフを楽しみ、その毛並みの良さに至福を感じている。
「取り敢えず、私は外の方からゆっくり見回ってこようかな〜って思ってるんだけど?」
「私もお供するよ! お姉がヤバいことしないように目を見開いて監視しないとね!」
そう言って、私についてくる気満々のユーリ。私の歌姫モードを見てから、妙に私の側に居ようとするようになった。
まぁ、妹に愛されていると考えれば悪い気はしないんだけどね。心配させちゃってることに関しては、ちょっとだけ罪悪感は感じてるかな。
「にしても、随分と馴染めるもんだねぇ……」
「お祭り騒ぎが大好きなのはプレイヤー全員に共通する特徴だからね!」
第一城壁の上から外を眺めると、ゾウやキリンなどの大型のモンスターと戯れるプレイヤー達の姿が直ぐに目に入る。
体の大きなモンスターは流石に拠点内に入れることが出来ないが、その分外の土地なら勝手気ままに歩き回れるようにしている。
だからこそ、プレイヤーとしては将来の敵として戦ってみたい。そんな欲求があったらしいが…………
「普通に遊んでるだけだよね、アレ?」
存外懐っこいモンスター達は、戦いではなく戯れという選択肢を取ってしまうくらいには、プレイヤー達の心を魅了しているようだ。
自分の騎獣に乗って、他のモンスターと一緒に駆け回る姿を見ていると、プレイヤーの適応能力の高さに感嘆を隠し切れない私がいる。
「私も大概だけど、モンスターだから敵! っていう意識は案外薄いのかもね」
「どちらかと言えば、やられたらやり返すってスタンスじゃないかな?」
大人は勿論の事、子供のモンスターに対してもプレイヤー達の行動は変わらない。寧ろ、幼いモンスターの方が、主に女性達から可愛がりを受けているようにも見える。
尤も、子供心からか構ってくれる人に対してそれ相応の反応を返す幼獣達。保護者である親御さん達も、その姿を見て安心して子供を預けているようだ。
「そう言えば、お姉。幼獣達ってテイムとか出来るの?」
「一応出来るよ。ただ、親御さん達にもある程度認められていること、その子自身が一緒にいたいと願うこと、そして子供だからまだそこまで強くない事を許容出来ればだけど」
というか、コレに関しては前々からモードレッド達に興味本位の形で問われた事がある。
その答えを返すとするならば、テイム自体は可能。条件はあるものの、満たすことが出来れば将来的にめっぽう強くなる仲間が加わることになる。
勿論、子供ではなく大人をテイムすることも可能ではあるのだ。ただ、大人な分遥かに強いし基本的には勝てる実力がないと不可能に近い。
「ぶっちゃけ、子供達が色々な所に行って、色々な経験をするのは親御さん達も望んでいるみたいだけどね。それはそれとして、信頼に足らない相手に任せるつもりはないって言うのもある」
「まぁ、当然だよね。私だって、可愛いモフモフを虐める奴にうちの子を渡したくないし」
「いつからユーリの子になったのかな?」
そんなツッコミを入れつつ、今度は城壁の内側。大勢の武将や騎士、兵士や傭兵等のいるエリアを見る。
「あぁ、飯がウメェ……」
「和食と中華、こっちに来てから初めて食ったなぁ……」
「そういや、フランガの方にはまだ流通してねぇのか?」
『マルテニカは多いが、フランガまでとなると関税やら何処ぞの敵国やらが喧しいからな』
「帝国だっけ? 取り敢えず、碌でも無い国なのは分かったから近寄らんとこ」
「終わったら掲示板にも一応書き込んどくか。来れてない奴も少数だけどいるだろうし」
昨日の敵は今日の友、というのに近いだろうか。料理とお酒ですっかり打ち解けたプレイヤーは、親しくなった武将や騎士達と歓談しながらワイワイと騒ぎ始めている。
特に使う武器や戦い方が似ている者同士の話はかなり弾んでいるようで、軽く手解きを教えているところも少なからず見受けられる。
「いい感じに師弟関係が結べてそうだね」
「プレイヤーの実力が上がっちゃうなぁ……」
「頑張って逃げ切れ。というか、モードレッド達に鍛えられてるのに簡単に追いつけるわけがないでしょ」
というか、これでアッサリと抜かれたら色々とキツい修行に連れて行かれることになるだろう。そうならない為にも、ユーリ達には頑張って欲しいところ。
「おお〜……こっちは武闘派が集まってるね」
「え、めっちゃ楽しそうじゃん! 私もやりたい!」
「ユーリは何時でも出来るでしょ」
場所を移して第二城壁の上。その壁の内側では、広い土地を活かしてプレイヤーと武将や騎士、モンスターがバトルを繰り広げていた。
「ゴフッ!?」
「ちょ、待っ!?」
「ヤバいヤバいヤバい!? ふざけて挑んだけどコレ絶対ボス級だって!?」
「ヘルプ!? マジでヘルプ!?」
「残念だけど、これで通常モンスターなんだよねぇ……」
「「「「終わったァァァァッ!?」」」」
戦っていたのは、標準的なプレイヤー四人組。相手はアーマーセンチピードで、どうやら試しに挑んだけど直ぐに蹴散らされてしまったようだ。
「はっやっ!?」
『まだまだ遅い。もっと振りを速くする事、そして立ち止まらん事を意識しろ』
「カカッ!!! こりゃァ楽しいなァ!!!」
『いいな!!! 貴様、中々見所がある!!!』
遠くから見た感じ、モンスターと戦うプレイヤーと剣豪に勝負を挑んでいるプレイヤーで半々といったところだろうか。
戦っているのはサムライブレイダーズの人が多いが、その他にも腕自慢のプレイヤーが戦いたいと挑んでは、人それぞれの結果を出している。
剣豪にアッサリと斬られて負ける人、いい感じに攻撃を防いで耐えている人、そして斬り合いになって何気にいい戦いをしている人と、ホントに千差万別。
というか、プレイヤーの中に剣豪と正面から戦える人がいること自体に驚きだ。一応、現実でも武術や武道の心得がある人はその傾向が強いみたいだけどね。
「あの人、サムライブレイダーズの強い人だね。辛うじて耐えているのも、翼の騎士団の隊長クラスって言われてる人だよ」
「やっぱりトップクラスのクランって実力者が揃ってるんだねぇ……」
…………あ、フロリアが酒呑童子と正面から戦い始めている。互いに剛剣使いだから、色々と映えるなぁ。
と、そんな事を考えていると、飛行可能なモンスター達がプレイヤーを乗せて城壁の上を通過した。
北の山まで登ったプレイヤーは、特別にそこで待機しているアルゲンタヴィスやロック鳥のような大型飛行モンスターの背中に乗って、風の気持ちいい遊覧飛行を楽しめるようにしている。
空を飛べるモンスターなら一緒に並走する形で飛べるので、飛行可能なモンスターをテイムしているプレイヤーは特に楽しんでいるらしい。
「この後の仕事の事を考えると、ホントにキツくなりそうだなぁ……」
「頑張れ、交渉役!」
「お姉、今回だけリーダー代わらない?」
「残念だけど、私はこの後ライブやるから」
この宴の最中になるか、イベント終了後になるかはわからないけれど、兎に角ユーリはウチの代表として大手クランと色々な交渉や話し合いをすることが決定している。
内容としては色々あるだろうけど、今やってるプレイヤー達の師事とか、モンスターのテイム関係とか、後は素材等の物流関係とか…………
まぁ、楽な仕事ではないだろうけどまとめられない話ではない筈だ。いざとなれば、拠点にいる政治的に強い方々の力を借りることも出来るだろうからね。
「私も頑張るんだからしっかりやりなよ、妹」
「わかってるよ。お姉の為にも、ここは一回真剣にやらせてもらうからね」
それでこそ我が妹だ。私だって何だかんだ色々な国の王様とか高官の方々と出会ってお話してきたわけだし、ユーリにその素質が無いわけがない。
「ただ、いざという時はお姉を頼るからね?」
「――――プレイヤーに私の立場がどれだけ通用するかだなぁ……」
世界的な影響力のある立場ですけど、プレイヤーにそれが効くんだろうか…………
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