第694話
前哨基地陥落後、翼の騎士団はマップ中央に構えた拠点で臨時の作戦会議を行っていた。
「ということは、敵戦力は戦国時代の武将達と三国志の武将達、そして円卓の騎士……」
「西の森には大量のモンスターが彷徨いてたらしいから、下手したらスタンピードが起きて大災害になる可能性もあるよ」
「そうでなくとも、前哨基地がほぼほぼ壊されてしまっているからな。今頃、天の声となって上からゆっくりと観戦していることだろう」
実際には、翼の騎士団や他のクランの会議を見ていたりバトルを見たり、なんてことはせずにアマネとユーリ達のライブの練習を観てのんびりしていたのだが、そんな事は知る由もない。
兎に角、翌日の攻撃の有無も含めて急いで方針をまとめないと、結果としてゾディアックの一人勝ちになってしまう。
「とはいえ、あの戦力を前にして勝つのは難しいところだな……」
「上手く釣り出して、拠点の戦力を空にするか?」
「いや、向こうがそれに乗るか分からねぇし、そもそも向こうの全戦力がどれくらいになるかも明確にはわかってねぇんだぞ?」
「軽く見積もっても全プレイヤーの倍はいると考えた方が良さそうだからなぁ……」
敵戦力の詳細は不明。ただ、兎に角数が多いこととこちらより遥かに強い武将や騎士が揃っているということは分かっている。
その上で、こちらの戦力は烏合の衆とハッキリ言われたとしても否定が出来ない。
現に、サムライブレイダーズも我々も自身の感情をコントロール出来ずに突っ込んで敗戦しているのだからな。
「他のクランの士気は?」
「まだ何とか。言っちゃアレですけど、東門で戦ったプレイヤーは名のある武将や騎士に討たれた人も多いみたいですからね」
「正門や西の森を攻めたプレイヤーはちょっと消沈気味みたいだな。まぁ、東門と比べたら殆ど何も出来なかったらしいし無理もない」
「でも、一部は『武将ぶっ倒す!』ってかなり燃え上がっているみたいですけどね」
聞いた話によると、名のある有名な武将に倒されたプレイヤーが、主に正門や西門のプレイヤーに自慢したことで一部の怒りに触れているらしい。
その怒りに身を任せて、それなら俺達でその武将を倒してやるよ! という大言壮語を吐いて、そこからはもう出来る出来ないの水掛け論で無限ループの有様なんだとか。
まぁ、やる気があることはいいことなので、後はそれが同士討ちにならないように軌道修正をすれば問題はないだろう。
「エリゼ様からは、改めて全戦力を投入した上で東門の突入を、と。正門には動きの速いプレイヤーで無駄玉を撃たせつつヘイトを集め、その間に東門を集中攻撃ってことらしいです」
「東門側の城壁は射撃があまり飛んでこないんだったか。島津家のような突撃隊がいたからそうなった可能性もあるが、確かに攻め込むならそちらだな」
正門側は開けた場所で投石や砲撃まで飛んできたという話なのだから、大軍を指揮したところでそれらにより消し飛ばされるだけだ。
それならば、向こうから門を開けたという東門を攻撃する方がまだ砲撃や射撃に悩まされることが少ないのではないかと思われる。
「前哨基地跡に物資を輸送しないとな。今のところ、敵方は既に撤収しているのだろう?」
「そうみたいです。般若党の人に見てもらいましたが、中のクリスタルを運び出しただけでそのまま残してありますね」
「なら、明日に備えて前哨基地跡に再び集合だな。デスペナが無くなったら一斉に移動しよう」
リスポーンしたプレイヤーの多くはデスペナ中。ステータスは通常時の半減と言っても差し支えない程に落ちてしまっている。
それが回復してからの移動の方が、もし万が一他クランによる奇襲を受けたとしても撃退が出来る分安全になる。まぁ、そんなクランが出ない程に惨敗だったから心配は無いだろうが。
そんな、翼の騎士団のフロリアの思いは違う形でフラグとなり、そして終わりに向かう始まりが訪れることになる。
各地で始まる物資の準備。ありったけの材木や食料を用意していると、段々と傾いて落ちていく夕日。
フィールドを包み込む夜が訪れて、各クランが明日の準備を整えている。そんな、束の間の平和な一時に誰も彼もが気を緩めていた。
「お、デスペナ解けた。日付変わったみたいだな」
「よし! 最終チェックしたら、さっさと前哨基地に行こうぜ!」
日を跨いだことにより解除されたデスペナ。ステータスの数値は元に戻り、荷物や装備の最後のチェックをして、いざ出発…………そう考えていた、その瞬間だった。
人数にして百人程度の小さなクラン。その拠点に無数の火矢が撃ち込まれ、更に油壺も投げ込まれて大炎上。物資もプレイヤーも焼かれ、辛うじて逃げ出せたプレイヤーは外に集まった『それ』を見て絶望する。
「う、嘘だろ……なんで、ここに……!?」
そこにいたのは、自分達が攻め込んだクランホームの防備を固めていた筈の武将達。拠点は囲まれ、矢を番えた武士が一斉に弦を引いて矢を放つ。
避ける間もなく全身に矢を突き立てられて息絶える哀れなプレイヤー。その間にも延焼は広がり、彼らの拠点はガラガラと崩れながら炭と灰と瓦礫の山へと形を変えていく。
『結晶は持ち出せたか?』
『庭の木の下に隠されておりました。事前情報通りですな』
武士が担いでいるのは、今回のイベントに於けるクランホームの心臓であるクリスタル。所属するプレイヤーが全滅し、クリスタルがクランホームの範囲外に持ち出された事で、このクランは陥落となりプレイヤーは天の声となって観戦することになる。
勿論、陥落したのはこのクランだけではない。各地で武将や騎士による夜襲が行われ、抵抗しようとしたプレイヤーは次々と凶刃に倒れて散っていく。
小規模のクランは碌な抵抗も出来ず、辛うじて数名のプレイヤーが燃え上がる自分達のホームを見ながら、暗い夜闇に紛れて前哨基地跡を目指して逃げ出していたくらい。
その逃げ出せたプレイヤーも、近くのクランに頼ろうとした者はその行き先となったクランを囲む兵士達によって討ち取られる。
前哨基地跡を目指したプレイヤーも、運悪く遭遇した騎馬隊や騎兵隊によって刈り取られていく。
特に大手クランには主戦力とも呼べる大軍が差し向けられており、他のクランと比べるとその戦力差も殺意も雲泥の差。
「てっ! 敵襲!!! 敵襲ぅぅぅぅぅッ!!!」
「アレは……まさか、曹操!?」
『逃げる者は追わずとも良い! 我らに抗う輩だけは全て斬れ!』
サムライブレイダーズの拠点に強襲を仕掛けたのは、曹操が率いる曹魏の軍勢。
「な、なんだ!? アレは…………」
「とっ、徳川葵紋!?」
『各々方、油断はするな! 焦らず、確実に仕留め、結晶を持ち帰るのだ!』
『端の者は追わんでいい! 邪魔な奴だけ斬り捨てろ!』
働く男達の本拠地を攻めたのは、徳川家康率いる徳川軍と、伊達家や最上家といった武家の軍勢。
「くっ!? は、離しなさい!!!」
「ここはもう駄目です! エリゼ様だけでも、前哨基地へ!!!」
『随分と派手に燃えとるのぅ……』
『乾かしていた材木に火が付いたようですね』
花鳥風月のクランホームは、豊臣秀吉が率いる大軍勢により瞬く間に炎上。そのまま残された資材などと共に多くのプレイヤーが炎に飲まれていった。
「アチャチャチャチャ!?」
「ヤベェ!? リングが燃え上がってやがる!!!」
『うーん……くじ運がいいのか悪いのか……』
「悪くは無いでしょう。かなり大きいクランのようですからね」
新世界プロレスの拠点は、リングが大炎上して大混乱となり、消そうとしたプレイヤーがどんどん引火し燃え上がって消えていく。
それを遠くから見ていたアーサー王が漏らした言葉は、苦笑するランスロットによって返される。
「心頭滅却すれば火もまた涼し!!!」
「んなこと言ってる場合か!?」
『馬鹿が仲間割れしそうになってんじゃねぇか……』
『面白いと言えば面白いと思うがな……』
若干仲間割れしそうになっている筋肉同盟を見て、何とも言えない表情を浮かべた孫堅ら孫呉と劉備ら蜀漢の軍勢。ただ、張飛辺りは大笑いしているので空気感はそこまで悪くはなかった。
「うわぁぁぁぁっ!?」
「なんだ!? 壁がぶち破られた!?」
「オイオイオイ!? ヤベェマッチョが攻めてきたぞ!?」
「何処のマッチョだ!?」
「「「「知らねぇマッチョだ!!!」」」」
「ンー! 中々いい反応のようですねぇ!!!」
『おい、弥助ぇ! お前ばっかやり過ぎんなよ!』
『逆らう者は撫で斬りにしろ!!!』
「第六天魔王の本領発揮、だな」
情報組の拠点には織田信長率いる織田軍が攻め寄せる。何やら愉快なやり取りも繰り広げられたようだが、そんなことはお構い無しに武闘派の武士が燃える拠点内で暴れ回っていく。
――――ドォォォォォォォォォッ!!!!!
「な、なんだ!?」
「門がぶっ壊された!?」
「――――御用改である!!!!!」
そして、翼の騎士団のクランホームにも、揃いの羽織を着た男達が一斉に突撃していく。
第三回公式イベントであるクラン対抗戦は、着実に終焉に向かって進み始めていた。
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