第684話

 はい、クラン対抗戦が始まることになりました。締まらない終わり方をしたアマネです。


「あー……コレ、食後の後片付けって一体どうなるのかな?」


「取り敢えず、クランホームを設置してからじゃない?」


 専用のフィールドの何処かにクランメンバー全員が転移するという話だったし、一応転移したらクランホームを即設置! ではないから、多少場所選びの余裕があるはず。


 それと、小規模クランはフィールドの外周に転移しやすくなるらしい。これは人数の多いクランを真ん中寄り、少ないクランを外寄りにすることで、大手クランによる蹂躙が起き難くなるようにしているんだとか。


 ウチの規模で小規模クラン扱いなのもちょっとおかしな話ではあるが……まぁ、所属してるプレイヤーの数は少ないからね、うん。


「取り敢えず、山寄りの地形の方がいいのかな?」


「クランホームの土地は湖や露天風呂のある山側にも及んでますからね〜」


「多分、山も一緒に転移してくるんじゃない?」


 そうなると、設置する向きさえ間違わないようにすれば堅城の完成! って感じかな。


 と、そんなことを考えていれば、眩い光と共に辺りの風景が一転して青空が綺麗な草原に変わる。どうやら、無事フィールドに転移したみたいだ。


「ユーリ、向き間違えないでね?」


「だ、大丈夫! 予め正面がどっち方向かは見れるからさ!」


 そう言って、水晶玉のような丸い結晶を掲げるユーリ。結晶が一際大きく輝くと、あっという間にこの草原のど真ん中にクランホームが山と一緒にドンッ! と現れる。


 そして、そのクランホームの旧館の中へ転移した私達は、直後に現れる大勢の転移の光に目を瞬かせた。


「……やぁ、なんか不思議な感覚だね」


「あ、やっぱりちょっと違うの?」


「特異な領域の中にいるとわかるな。少しばかり落ち着かんが、暫くすれば馴染むだろう」


 モードレッドやオデュッセウスがそう言っているが、どうやら彼らもこの場所が特殊なものであると体感出来ているらしい。


 普段と違う感覚で少々落ち着かないようだが、暫くすれば落ち着くとも言っているので、私達で気にする必要は無いだろう。


「それで、場所的にはここはどうなんだ?」


「マップの端っこみたいね。角ではないけれど、攻めてくる方向は予想しやすいわ」


 ルテラの言う通り、マップを開いてみると全体の右側。境界線側に山があるような形でクランホームが存在しているようだ。


 防御という意味では角の方がいいのだろうが、コレはコレで背後からの強襲の恐れがないので、結果的には良かったと言える。


「で、意気揚々と動き始めている武将組をどうセーブさせようかね?」


「初日で壊滅は可哀想ですからね〜」


 何だかんだ武将連中は武闘派が多く、旧館からすぐに表に出ては、各方面の城壁に次々と戦力配備を進め始めている。


 火縄銃を持った足軽達を率いているのは、確か信長さんのところの橋本一巴さんと、雑賀衆を率いている雑賀孫一こと鈴木孫一さん。そして、狙撃を得意としている杉谷善住坊さんだ。


 弓兵隊にはロビンも参加しているみたいだが、大島光義さんや吉田重賢さん、吉田重政さんに小笠原長時さん等の戦国武将から、夏侯淵さんや黄忠さん、太史慈さんといった三国武将の弓の名手が集まり始めている。


「かぁ〜っ! こりゃまた随分と大勢集めてきたもんだなぁ!」


「それを言えた口ですか、芹沢さん?」


 ぞろぞろと槍を持ち刀を携えて城壁に向かう武将や兵士達を見ていると、新選組の青い羽織を着た芹沢さんが、圧巻と言わんばかりの態度で配置につく人達を眺めていた。


 そして、随分と大勢集めてきたなと言っておきながら、芹沢さんも新選組の面々を引き連れてここに来ている事にツッコむ。


「まぁ、ここぁタダ酒、タダ飯にありつける場所だからなぁ。そこを守るってんなら、これくらい大した事はねえっての!」


「タダ飯やタダ酒狙いで遊びに……まぁ、来てもいいか。ぶっちゃけ余りに余ってるわけだし」


「お? なんだ、お許しが出るとは思わなかったな! ま、ツケで飲み食いした分しっかり働くつもりだし、そこは安心してもらって構わねぇよ」


 そう言って「下見!」と大声を出しながら城壁に向かう芹沢さん。よく見ると他の隊士の方々は先に城壁へ向かっているようなので、遅刻しているのは芹沢さんだけのようだ。


「これは……攻める側が可哀想になってくるな」


「この壁を越えるのは厳しいだろ……」


「あ、アシュヴァッターマンさん! それにキングゥも!」


 続いてここに現れたのは、ヴェラージのアシュヴァッターマンと、ウォルクのキングゥの二人組。


 何処となく雰囲気の似た二人は、この拠点を囲む城壁を見て「不要だったかな」と思わず言葉を漏らしている。


「まぁ、折角の手伝い戦だからな。程々に働かせてもらうさ」


「オマケに勝ち戦なのが目に見えてわかるからね。勿論、手を抜いたりはしないよ?」


 そう言った二人も、やっぱり「じゃ、城壁の方に行ってくるよ」と言ってそちらの方へ歩いていく。


 程々に働くと言っているが、果たして二人の出番があるんだろうか? タダでさえ武将組の人数が過剰気味であるというのに……


『おー! ここが今回の戦場かぁ! 不思議な空気で面白いなぁ!』


「お久し振りです、アマネ様」


「はい、お久し振りです。ランスロット様」


 面白そうに辺りを見回すアーサー王と、それに付き従うように現れたランスロット。騒がしさから察するに、他の円卓の騎士も続々と集まってきているようだ。


「モードレッドが楽しみにしていてな。円卓の騎士全員に参加しろ参加しろと、専用の場所に運ばれるから時間も気にしなくていいとまで言われて、誰も断れなかった」


「それは……」


「まぁ、我らもアマネには恩義があるからな。今回は恩を返す格好の機会ということで、結局全員が集まったぞ」


 モードレッドが円卓の騎士を集めていたらしいが、武将組だけでもかなり多いのに、円卓の騎士まで揃えたら過剰戦力が過ぎるだろう。


 まぁ……それだけ、今日という日を楽しみにしていたんだと考えたら、ちょっと微笑ましく感じなくもないけどね。


「敵が来るとしたら向こうの城壁の方だな? 円卓の騎士の力、存分に味わわせてやるとしよう」


『ということで! いざしゅっつじ~ん!!!』


 バタバタと駆け抜けていくアーサー王と、その後ろ姿を見て苦笑しながらゆっくりとついていくランスロット。


 他の円卓の騎士達も城壁の方へ向かっているようだし、最早これ以上の増員は必要無いんじゃないかってくらい防御力が高まってるような気がする。


「お、お姉……来客が止まんない……」


「モンスター達は皆、西側の森の方へ移動しちゃってますね〜」


「オークとかゴブリンとかの亜人系の奴らもそっちに行ってるみたいだな」


 西側の森には動物や植物、鳥や虫に亜人など、様々な種類のモンスター達が控えているらしい。


 まぁ、確かに彼らは城壁で防衛戦というより、森の中で襲撃や奇襲、強襲を行った方が強いだろう。それに、モンスターまで城壁に配備すると戦力過多が更に過多になってしまう。


「山側にも大型のモンスターとか鳥系のモンスターが多く控えてるみたいよ」


「ん。万が一に備えてる。それと、地味に射線と視界も取れてる」


 拠点の北側となる山側にもモンスターは多く、主に大型の個体や空を飛べるモンスターの一部が見張りも兼ねて山にいるみたいだ。


 射線が通っているって事だから、いざとなれば山の上から敵に向かって攻撃もするつもりでいるんだろう。流石に彼らの出番はない…………ないよね?


「アマネ様。敵の前哨基地が出現しました」


「早いね。ガラティア、場所は何処?」


「楼閣門のある正面、拠点の南側になります」


 ガラティアに案内されて、第二城壁の櫓の上から望遠鏡を借りて見てみると、木立に囲まれた小高い丘の上に石造りの壁を有した屋敷が建っており、中で活動するプレイヤーらしき人影も見える。


 ユーリにも見てもらうと、アレは恐らく翼の騎士団の傘下のクランで、私達のクランホームを攻略する為の前哨基地としてあの場所に拠点を設置したものだと思われるそうだ。


「よく見てみると他の場所から集まってきてるプレイヤーもいるみたいだし、抜け駆けとか先駆けするプレイヤーがいなければ、向こうの人が揃うまでこのまま睨み合いかもね」


「本格的な戦は起きるとしたら今日の日暮れ前にあるかと思われます。尤も、今は招かれざる客がもう一派いるようなのですが……」


 ガラティアが言い淀んだ通り、クランホームの第一城壁の前に広がる草原には、開始直前に襲撃してきていた大量のニワトリ達が集まってきていた。


 その種類もクランホームの改築が終わったからなのか多種多様で、明らかに只者ではないオーラを漂わせている個体も紛れ込んでいるそうだ。


「う〜ん……多分、千は余裕で超えてると思うんだけど、草むらに隠れて見えないのもいるみたいだしなぁ……」


「このままだと、プレイヤーより先にニワトリ達がここに攻めてきそうね」


「あ、ヒビキ。そう言えば、偵察は夜だっけか」


 斥候や忍者の人達は、今夜中に各クランホームの位置を探る為に偵察任務に赴く。ヒビキやレンファさんも、そのメンバーの中に名を連ねているのだ。


「えぇ、そうよ。それと、ニワトリが動きを見せているみたいだけど?」


 肯定と共にニワトリ達を指差すヒビキ。私もそちらの方を改めて見ると、群れのボスらしきニワトリがゆっくりと群れと城壁の前に進み、ジッとこちらの拠点を目に焼き付けるように睨みつける。


 そして、そのボスと目があった、そう感じた瞬間――――






 コケェェェェェェェッ――――――!!!!!









 ボスは高らかに雄叫びを上げ、群れ全体を率いて反転し、プレイヤーの前哨基地がある方向へと駆け出していった。

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