第682話

 いやぁ、ホントに楽しいライブだった……! 私的には過去一で盛り上がったかもしれない!


 歌った曲は十を超え、二十から三十曲くらい熱唱したんじゃないかと思う。ATAKEのDJスキルが高いお陰もあって、我ながら充分に燃やし尽くしたような気もするしね。


「お疲れ様、お姉。派手なライブだったねぇ」


「まぁ、ATAKEがこうなってるのは予想外だったんだけどね」


 今はDJ.ATAKEとして名乗っているのだが、本体はこのライブステージと化している船自体。元々安宅丸という船だったのだから、当然と言えば当然だ。


 船自体の正式名称は『超未来鉄鋼和船』天花。私がライブステージとして使えるようにと考えられた、ある意味究極のライブシップである。


 搭載している兵器類は演出用としての用途が主目的であり、実際かなりの攻撃力を有していながら演出としても素晴らしいものになっていたと思う。


「取り敢えず、クランホームに戻ろっか」


「だなぁ。ここにずっといたら質問攻めで大変な事になりそうだ」


「アマネのライブのお陰で、いい感じに沈静化している今がチャンスですね〜」


 アフターライブも終えたことで、プレイヤー達は皆のんびりとした帰宅ムードが漂っている。


 ただ、あんまり時間を掛けていると正気に戻ったプレイヤーによる質問攻めが始まることは想像に固くないので、出来るだけ早くここを離脱した方がいいだろう。


『アマネ。控室に転移陣が置いてある。俺は後はこのままスメラミコトに戻るから、アマネ達はそれを使って一足先にクランホームに戻っとけ』


「わかった。ありがとね、ATAKE」


「この船、やっぱり転移陣があるのね……」


「ん。いつかここで私達も!」


「それは楽しそうですね〜」


 弓月がここでライブしたいらしいし、落ち着いた頃には一般開放を目指して動こうかな。


 プレイヤーにも吟遊詩人が集まったクランがあるって聞いたことがあるし、ソロだけど同好会みたいな感じでこの世界でオリ曲を歌ってる人もいるみたいだしね。


「じゃ、早々に退散ッ!」


 そんなユーリの声と共に、私達は転移陣を使ってクランホームへと戻っていく。















「っと!? 戻ってくるのは、旧館の玄関口なんだね!?」


「私の部屋にセットしてあるからかな? 後でちゃんとしたやつ置いとこっか」


 あっという間にクランホームまで戻ってきたわけだけど、鼻腔には絶対に美味しいであろう料理の香りが充満してくる。


 全員で旧館の拠点の中に入れば、出来立ての湯気を漂わせている料理が山程用意されていて、そして既に空になった大皿も山積みになっていた。


「お、今回の主役が帰ってきたか」


「お疲れ様。料理はこっちで作っておいたから、適当に食べ始めちゃっていいわよ」


「有り難いけど……待つって選択肢は無かったの?」


 ユーリの言いたいことも分かる。どうせ料理を用意するんだったら、私達が戻ってくるまで待ってても良かったような気がする。


 と、そんなことを思っていたけど、いつの間にかリビングの壁に設置されている大型のテレビモニターを見てすぐに吹っ飛んだ。


「……もしかして、観てました?」


「試運転に丁度良かったってさ。戦場の様子を一秒のズレも無く観れるのは便利だね」


 どうやら、ただ料理を食べていたのではなく私のライブを観ながらのんびりと応援をしていてくれたらしい。


 周りをよく見てみれば、いつぞやの精霊お手製のペンライトや、オリジナルのうちわがアチラコチラに点在していた。


「まぁ、それなら私は許しますよ」


「正直に言うと、観ていた私達も楽しくなっちゃってね。潰れている人もいるから、生き残った人達で既に二次会の様相だよ」


 潰れているってことは、もしかして酒まで飲んだのか……いや、モードレッドは普通に出迎えてくれたから、ここには飲んでる人と飲んでない人がいるようだ。


 多分、飲んでそうなのはドレイク達海賊組と、下戸じゃない戦国と三国の武将組。後は、酒飲みってことを考えるとゴリアテも飲んでそう。


 もしかしたらバーには酒飲み達の撃沈した亡骸が散乱しているかもしれない。いや、本館の和室や洋間に転がってる事も考えられるな……


「取り敢えず、今日はお疲れ様。アマネもゆっくりしておきなよ」


「そうですね。じゃぁ、ちょこちょこと摘みながら最終調整といきましょうか」


 そう言って、近くの席に座って取り皿と箸を受け取ると、大きなテーブルの上に用意された大皿の唐揚げやフライドポテトを皿に乗せていく。


「おぉ……寿司! それに焼きおにぎり!」


「餃子も肉まんもあるじゃんか!」


「皆の手に取れるものを沢山作ったからね! 師匠のキムチもよかったらどうぞ!」


 中華料理はクイナと李徴さんが、寿司などの和食は龍馬達で作ってくれたらしい。唐揚げなどの料理はモードレッドやティアマト様が作ってくれたそうだ。


 試しによく焼かれたウィンナーを取り皿に乗せて一口齧ってみると、パリッと皮の破れる音と共に熱々の肉汁が口の中に満たされていく。


 唐揚げは衣がサクサクで、程よい熱さの肉汁がとても美味しい。焼きおにぎりは醤油で焼いたものと味噌で焼いたものの二種類があるようだ。


 お腹が空いていることは間違いないので、どちらも取り皿に乗せて確保しておくと、まだ温かいそれに齧り付く。


「ん〜! うまぁ〜!!!」


「簡単な料理ばかりだったけど、大丈夫かい?」


「コレで簡単な料理ってんなら、イベント後の打ち上げはもっと美味いものが食べられそうだな!」


 エルメの言う通り、イベント後の打ち上げの宴となれば、出来立てな上に既に食べられてしまった大皿の料理も楽しむことが出来そうだ。


「そう言うと思って、一部の食材は既に仕込みを始めてるんだよね」


「ホント!?」


「勿論だ。カレーとか麻婆豆腐とか、ケーキなんかのスイーツも準備するよ」


「それは楽しみですね〜!」


「ん。コレも十分に美味しい。だから期待できる」


 そんな話をしながら料理に舌鼓を打っていると、新館の方から素面の信長と光秀が部屋の中に入ってくる。あ、今回は鎧姿じゃなくて着物姿なんだね。


『ようやった、アマネ。中々に良き歌だったぞ』


「ありがとうございます。もしかして、光秀さんも観ていたんですか?」


「……まぁ、安宅丸を出してくれって言われて気になってしまってな。何か問題があれば向かうつもりだったが、杞憂だったようだ」


 どうやら、光秀は形勢不利と判断したら介入するつもりでいたらしい。本人は杞憂だったと言ってるけど、その気遣いがとても嬉しい。


「あ、信長さん。ごめんなさい、プレイヤー全員が此処に攻めてくる事になりました……」


『元々異界人全員を相手するつもりで動いていたのだ。オデュッセウス殿もそうだが、軍師連中は戦っている時には既に酒を飲みながら計画の見直しをしていたぞ』


「まぁ、そうだとしても此処の守りを抜ける者など異界人にはいないだろう。正直言って、私だって此処を攻略しろと言われたら、主君の首を取って逃げる」


 そうなんだよねぇ……ここ、プレイヤー全員集めたところで多分余裕で勝てちゃうんだよね。


 だって、織田信長とか豊臣秀吉とか徳川家康とか、めちゃくちゃ強い戦国武将が勢揃いしてるのに、劉備や関羽、曹操や孫堅といった三国武将までいるんだよ?


 オマケに、他にも参加希望の人達って大勢いるわけだしさ……ほら、丁度今来たっぽいし。


『やぁ! お疲れ様だね、アマネ!』


「お疲れ様です、アーサーさん。エクスカリバーは返してもらったんですか?」


『いや、カレトヴルッフがあるし別にいいかなって。あ、この唐揚げ美味しそうだね! もーらいっと!』


「あ、アーサーって、もしかしてアーサー王!?」


 アーサー王の急な登場に驚くルテラ。まぁ、急に来て唐揚げ摘んでたらそりゃ驚きもするか。


『一応、ワイルドハントの友人知人には声を掛けてきたよ。当日参加ってことで、その日になったらここにお邪魔するってさ』


「そうですか! それじゃぁ、打ち上げの料理はもっと沢山作らないと駄目ですね!」


「スカアハ殿も来ると言っていたし、新選組も当日の来訪を予定しているって言っていたよ」


 うん、過剰戦力だとは思うけど、色々な人達が態々援軍としてここに来てくれるのはとても嬉しい。問題があるとしたら、会場のキャパシティーに余裕があるかどうかだろう。


「そう言えば、このテレビって……」


「私が設置して、ゴーレムが衛星に接続したものになります」


「あ、ガラティア! 来てくれたんだね!」


 しれっとリビングのソファでくつろいでいるガラティア。テレビに関しては設置をガラティアが行い、衛星への接続をゴーレムが行ったらしい。


 因みにこの衛星というのは、宇宙空間で建造していたイグニッションフレアという名の宇宙ステーションのことだ。


 他の巨大兵器も大半が完成しているらしく、試運転こそ出来ているのはヤマトくらいなものだが、実戦投入もデータ上は可能という結果が出ているらしい。


「ところでアマネ様。現在、拠点の外部に大量のニワトリが出現していますが、如何致しますか?」


「……ニワトリって、もしかして襲撃?」


「え、このタイミングで!?」


 クランホームの改築中には来なかったと言うけれど、完成したからここに突っ込みに来たんだろうか。


 まぁ、予行演習としては丁度いいかもしれない。取り敢えず、動ける人達でちゃちゃっと討伐を――――








『時間になりました。これより第三回公式イベント会場へと転移致します』




「え? あ、ちょ――――――」












 こうして、私達は何とも締まらない形で第三回公式イベントである『クラン対抗戦』に挑むことになった。

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