第681話
シュウゥゥゥゥ……と、口から蒸気を吐く黄金の龍。アマネの歌声を乗せた音波により、冷却が少々間に合っていなかったようだ。
まぁ、何にせよこの一撃でボスの鎮圧は成功。ライブも最高の盛り上がりで終えることが出来た。
『プレイヤーの皆!!! 応援感謝だぜ!!! 今回用意したグッズは全部持って帰っていいぞ!!!』
「マジで!? コレ、持って帰っていいの!?」
「ライブの時にしか使えないけど、コレはコレでめちゃくちゃいいしなぁ……」
「あ、武器として使えるのはライブの時だけだって。よく見たら説明にそう書いてあるわ」
「おー! ってことは、ペンライトとして使う分には自由なのか!」
「杖もバズーカもダメージ無しでMPを使うようになるけど、今後は玩具として使えるようになるみたいだな」
ライブ限定の品を手に入れて、ホックホクのいい笑顔なプレイヤー達。戦闘時に使うことが出来ないとしても、今回のライブの記念品として貰えるならそれはそれでいいかってなっているようだ。
「アマネちゃ〜ん!!! 後でグッズ作るから品評よろしくね〜っ!!!」
「あ、は〜い!!! 楽しみに待ってますね〜!!!」
生産職のプレイヤー達もファングッズを作るとアマネに声を掛ける。ちょっと恥ずかしいような気もしたが、それ以上に嬉しい気持ちが勝ったので私も認可することにした。
と、そんなことをしている間に戻ってくる飛行バイクや騎獣達。ワゴンに乗っていたプレイヤーは船に戻っているようだが、御捻りなのか代わりに小銭が乗っているワゴンが多い。
『お姉! ライブお疲れ様! 後の質問攻めとか諸々の後始末はこっちでやっとくから、先にクランホームに戻ってていいよ!』
「『わかった、ありがとう』っと……」
ユーリから届いたメッセージに感謝の言葉を返すと、先程から海に浮かんでいるボスに目を向ける。
私の歌声を乗せた波動を体の隅々まで浸透させたボスは、その目を青く落ち着いたものに変えていて、一度こちらを見てからゆっくりと海の中へと潜り始めていく。
恐らくは、あのまま海の何処かをゆっくりと揺蕩いながら、自由気ままな生活に興じるのだろう。
因みに、ボスの名前はガレオニス・タイラントというらしい。友人帳に名前が記されたことでわかったが、大悪魔の力を完全に吹き飛ばしたことで生存することが出来たようだ。
ということは、普通なら倒されることが前提のボスだったんだろうか……いや、これは私が色々なフラグを踏んだせいかもしれない。
本来なら、プレイヤーの船が充実して色々な場所を訪れて戦えるようになり、そこで様々な装備を充実させてから戦うようなボスなのだろう。
……もしかしたら、モードレッド達が片付けたあの大悪魔もそういうボスだったんだろうか。昔過ぎてもう名前も覚えていないけど。
そんなことを考えながら、用意されたコップの水を一気に飲み干す。マイクスタンド同様、必要なら私の近くに下からテーブルなり何なりでニュッと出してくれるのが有り難い。
……しかし、これで終わるのも何か嫌というか、燃え尽きた筈だがもうちょい燃やせるような気がしてならないというか。
「ねぇ、ATAKE? もう少しイケる?」
『ん? ……あー。まぁ、バトるわけじゃねぇし、やりたいなら付き合ってやるよ』
よし、ならもうちょっとやっちゃうか。メインライブはボスの鎮圧で終了したわけだし、ここからはアフターライブに移るとしよう!!!
『歌姫様がアフターライブを御所望だ!!! こっからは普通に応援してくれると嬉しいぜ!!!』
「最後まで聴いていってね~!!!」
……アレは自分が満足出来なかったのか、それとも不完全燃焼だったのか。それとも、まだ燃やせる余力があると判断したのか……コレっぽいなぁ。
ボスとの戦闘も終わり、後は公式イベントの開始までゆっくりするだけとなった今現在。アフターライブにプレイヤー達が再び湧き、早速ペンライトを振り回して応援を始めている。
「全く……とんだ隠し玉があったものだな」
「本当なら、イベントが始まるまで隠し通すつもりだったんだけどねぇ」
流石に今回のイベントまで隠し通せるとは思っていない。前回のモードレッド達も危ういラインだと思っていたが、結局誰にも突かれずに終われたのは運が良かったとつくづく思っていたし。
声を掛けてきたフロリアを見てみると、すっかりアマネのファンになってしまった団員達の姿を見て、苦笑を浮かべながら近くの樽を椅子代わりにして腰掛けていた。
「同盟に加わらなかったのはコレが理由だねぇ」
「ずっとそっぽを向くものだから、一体どんな隠し玉があるのか気になっていた。まぁ、蓋を開けたらとんでもないものが出てきたわけだが……」
「でも、楽しかったでしょ?」
私がそう問い掛けると、何とも言えない表情でプイッと顔を背けるフロリア。近くにいたからわかっているが、襲ってくるスケルトン相手にペンライトを振り回して楽しんでいたのはわかっている。
というか、あのライブ中に楽しんでいないプレイヤーがいるか探す方が大変なくらいで、そもそも0かもしれないんだから数える必要は無いんじゃないか、って思ってたり。
「まぁ、兎に角だ! 今回のイベント、私はゾディアックを最大の敵と見做す!」
「私、花鳥風月もそこの脳筋団長と同じく、ですわね」
「あ、エリゼ……」
機関銃も杖も使いまくってヒャッハーしてた花鳥風月のエリゼも、フロリアに同意するように私達ゾディアックに対して宣戦布告する。
「一応言っておきますが、コレは私達花鳥風月と翼の騎士団だけでなく、情報組やサムライブレイダーズ、筋肉同盟や新世界プロレスといった大手クラン全員も同じですわ」
「小規模クラン連合も情報組が引き入れている。ユーリ、お前のところの味方はいないぞ」
「……へぇ〜、やっぱりそうなるんだねぇ」
正直に言えば、この展開は既に予想済だ。違う点があるとしたら、最初から狙われるか途中から狙われるか、程度のものか。
プレイヤー全員が集まったとして……大体五万から六万くらいだって言ってたっけ。その内の二割か三割くらいは生産職とかだから、実際に攻めてくる事になるプレイヤーの数は大きく減ると思う。
「……随分と余裕そうですわね」
「まぁ、コレを想定して無ければお姉の御披露目なんてしないかな〜、って」
「……頑なにクランホームへの来訪を断っていたのは、お前の姉を隠す為じゃなかったのか?」
その意図が無いわけじゃなかったが、それ以上に戦力や防備という意味でクランホーム自体を隠したいくらいだったからね。
私の態度を見て硬い表情をするフロリア達を見ていると、やがて二人は互いに目を見合わせて大きくため息を吐き、改めてこちらを見直した。
「今回は、私達が挑む側になりそうだな」
「えぇ。そう安々と負けるつもりは御座いませんが、当日を楽しみに待たせて頂きますわ」
「うん、そうして。きっと、色々な人達が最終的に笑えるようになると思うから」
今のお姉のアフターライブみたいに、全て終わればきっと全員が楽しく笑い合って終われる宴になるはずだ。というか、お姉がいるのにそうならない未来が見えない。
『HAHAHA! いいゼェ! もっともっと盛り上がっていけテメェラァ!!!』
――ワァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!
お姉のライブに歓声を上げながらペンライトを振るプレイヤーの姿を見ながら、私はそう思っていた。
――――お姉の、あの姿を目にするまでは…………
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