第680話
大勢のプレイヤーを巻き込んだアマネのライブ。ボスのHPが減る速度は大分落ちたものの、その分応援によりチャージされるエネルギーは増していた。
それもまた当然のことで、プレイヤーが海上戦を繰り広げる際に振っているのはペンライトであり、乱射しているのは連発花火なのだ。
攻撃時にはそれが応援という形でステージにエネルギーを送っていて、既にエネルギー充填率は80%を超えていた。
エネルギー充填率が増えれば増える程派手になるステージ。照明はより一層輝きを強くして、音楽も激しく大きくスピーカーから飛び出して響き渡っていく。
ただ、アマネを応援しているのはペンライトを振り回して戦っている彼らだけではなかった。
乗せていたスケルトンを失ったサメ達は、新たなスケルトンを背に乗せる為にボスのところへ戻ろうとしている。
ボスがスケルトンやガーゴイル、サメ達を生み出すのは無限ではなく、使えば使うほどその力を消耗してしまうのだ。
だからこそ、スケルトンを失ったサメ達を特攻させるなり何なりで使い潰すことは出来ず、スケルトンを補給しに戻ってくるように指示していたのだが……
プレイヤーの目が届かない海中。スケルトンを背に乗せたサメも乗せていないサメも、アチラコチラで泳ぎ回っている危険な海域。
その海の中で、大勢のモンスター達がサメ達を追い掛け回して喰らいつき、次々と海中でサメの体をズタボロの藻屑へと変えていく。
モンスター達が戦う理由は至極単純なもので、まず縄張りに現れた余所者を追い出そうというもの。そして、アマネという歌姫を応援しようというもの。
本来ならばボスの気配を察知して身を潜めるか、一時的に他のエリアに移動する筈のモンスター達。個々の力も強いわけではなく、サメと戦えば大半はそのまま餌になってしまう程。
だが、アマネの歌声を聴いたモンスター達は逃げる選択肢を捨て、縄張りを荒らすサメやスケルトン達を撃退することを選んだ。
それには、アマネの歌に魅了された上位種がいるということも影響していた。
徹甲マグロのタックルが正面からサメを貫いてスケルトンを破壊し、爆砲ホタテの砲撃がスケルトンを木っ端微塵に吹き飛ばす。
クラーケンの触手がサメを締め付け、或いはビンタでスケルトン諸共弾き飛ばし、ホーガやオロボンと言った巨大魚が一口でサメ達をスケルトンと一緒に食らっていく。
特に強力なのはブループであり、その大きな口を前にしたサメ達は逃げることも出来ず、ブラックホールに吸い込まれるようにブループの体内へと呑み込まれていく。
そうして呑み込まれたサメ達は、ブループの体の奥へ進む強い流れに逆らう事ができない。やがて、全身を襲う強い圧力によってサメ達はその体をミチミチと圧縮され、丸い球体となって尚その身を押し潰されていった。
『エネルギー充填率、90%!!! いいぜいいぜぇ!!! 最高潮まで後少しだお前らァァァ!!!』
DJブースで演奏の補助をしながら、テンションを高くしているATAKEがプレイヤー達を煽る。
既に盛り上がりで言えば最高潮に近いが、プレイヤー達の性格を考えればもう一段階くらいは盛り上げることも可能だと判断したんだろう。
実際、ATAKEの煽りに乗って歓声を上げるプレイヤーもいるようだしね。あ、ユーリも一緒にペンライトを振りながら声を張り上げてる。
「……ふふ。なんか、私もテンション上がっちゃったかもなぁ」
今また一曲を歌い終え、間奏とも呼べる曲の繋ぎをATAKEが手を動かし、そして他のプレイヤーを引き続き煽りながら流している。
その間に湧いてくるこの感情。忘れていた本当にしたかった自分の感情が、心の奥に押し留めていた感情が、連鎖爆発を起こしてどんどん私の気分を高揚させていく。
あぁ、そうだ。そうだった……私が本当にやりたかったことは――――
「DJ! もっとブチ上げていくよ!!!」
――――――大勢の人の前で、私の歌を聴いて喜んで、そして楽しんでもらうこと。
『HAHAHA!!! いいゼいいゼ!!! 付き合ってやるYO!!!』
私の言葉に応じて、ATAKEの演奏が徐々に激しいものへと変わっていく。盛り上がりという意味では最高の演奏だ。
ボルテージが上がる体。胸と腹の奥底から感情の乗った声を吐き出して、照明が点滅し演出を盛り上げる。
その熱量は凄まじく、熱気そのものが近くに来たスケルトン達を吹き飛ばしている程。しかも、スケルトンどころかガーゴイルやサメでさえ、熱気を受けてその身を燃やしていた。
「ウォォォォッ!!! 盛り上がってきたァァァッ!!!」
「ヤベェよコレ!? マジでガチもんのプロじゃね!?」
「スゲェ……え、コレどっかで配信とかしてるの?」
「ヤバい、延々と聴いていたい」
「「「「「わかる!!!!!」」」」」
アマネの歌声はテンションの乱高下というものを破壊して、最高潮に向かって振り切ろうとする。抑えようという事もせず、ただ己の内側に溜まる熱を全て外に出すために、全ての加減や制限を焼き払って歌声を轟かせていく。
最早、圧巻という言葉が限界を迎えそうな程の歌声に、ステージ側が熱暴走でダウンしてしまいそうな勢いだ。
『HAHAHA! 焼き加減はベリーウェルダンってとこか!? いいゼェ! もっともっと燃え上がっていこうじゃねぇか!!!』
有り余る熱量の行き場として、ステージに吹き出し花火が展開され、天高く様々な色の炎を噴き上げていく。
アマネの歌に合わせた演出として何度も空へ噴き出す炎は、飛び散った火花に掠ったガーゴイルやスケルトン達を一瞬で焼き尽くす。
正しく、光と音と熱の暴力。スピーカーから迸る歌声は、全てのプレイヤーのステータスを跳ね上げた上でそのテンションを湧き上がらせていた。
「うわ、バフヤベェ事になってる」
「マジだ……なんだコレ、倍どころの話じゃねぇぞ」
「え? 吟遊詩人ってアレ目指さないといけないの?」
「んな無茶な……いや、確かに憧れはするけど」
圧倒的な歌声とそれに伴う強力なバフ。全力全開のアマネの与えるソレは、現環境に於けるバフの最大値と呼ばれていた数値を遥かに超えていた。
しかも、そのバフの最大値というのは『各ステータス』毎に分けられたものであり、全てのステータスが一度に最大値を更新したというのは、後にも先にもアマネ以外に出来なかった程だ。
そんな中、動きを見せるのはガーゴイルやスケルトン達を生み出していたボス。このままでは自分に勝ち目は無いと理解し、防ぐことの出来ない攻撃を放つ為の準備を始めていた。
口の中にはイソギンチャクのようになっていた大砲ではなく、紫色の禍々しいエネルギーが明滅しながらその大きさを増し始めており、相当な威力を有するであろうことが一目でわかる。
「オイオイオイッ!? マジで言ってんのか!?」
「流石にアレは防げないって!?」
「ヤベェぞ!? 大丈夫なのか!?」
騒めくプレイヤーがいる中で、歌う声を止めることはないアマネ。このライブのフィナーレは近い。
『HAHAHA! エネルギー充填率! 100を超えて200%だ!!!
「皆! 今日のライブ、聴いてくれてありがとう!」
間奏と共に開くは、ATAKEの上に存在する黄金の龍の口。中に隠されていたのは、とても大きなスピーカーで、その口自体はボスに向いている。
それと同時にアマネの前に出現するマイクスタンド。アマネはそれを掴むと、限界まで空気を吸い込んだ上で、その喉を震わし最後の歌声を放つ。
アァァァァ――――――――――――!!!!!
ボスの口から放たれる紫色の禍々しいエネルギー波は、黄金の龍の口から放たれた歌姫のシャウトに衝突して、木っ端微塵に弾け飛んでいく。
驚愕に目を見開くボス。避けるどころか口を閉じることも出来ず、極彩色の波動に消し飛ばされていく自分の攻撃を見て――――
――――その腹の奥底にまで極彩色の波動を注ぎ込まれて、全身から波動を噴出させながらゆっくりと崩れ落ちていった。
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