第679話
ライブが始まり、ボスのHPがガリガリと削れて半分を過ぎた頃、ここで急に緩慢だったボスに大きな動きが見られた。
船団の方を向いていたボスが、向きを変えてアマネのいるステージへと顔を向けたのだ。
背中の甲羅部分から放っている空の鯉のぼり型飛行バイクへの攻撃は止めず、ただステージの方を向いて口を大きく開く。
「おい!? またあの砲撃をやる気だぞ!?」
「幾ら何でもステージ上じゃ防げないんじゃ!?」
「誰か、ヘイト集められないか!?」
「集めたら真っ先に骨共が集ってくるだろうが!」
その攻撃の破壊力を知っているからこそ、他のプレイヤー達は慌ててヘイトを集められないかと騒ぎ始めていた。まぁ、ペンライトを振る手は止まっていないのだが。
「ユーリ!? アレは大丈夫なのか!?」
「大丈夫! だってお姉の船だもん!」
「それの何処に安心できる要素があるんだ!?」
ユーリが放った謎の信頼についていけないフロリア。他のプレイヤーで聞こえた者も、思わずユーリの方向に「え!?」という声が聞こえそうな表情で目を向けていた。
そんなことをしている間にも、格納した砲口をステージに向け、一度に何十もの砲弾がアマネのステージを破壊しようと空を切る。
『そんな攻撃、受けるかYO!!!』
尤も、アマネ側からしたらそんな事は想定済み。飛んでくる砲弾が船に迫るより先に、大量に放たれたロケット花火……の見た目をしたミサイルが、次々と砲弾を爆散させていく。
更に、当たらなかったミサイルはそのまま大口を開けたままのボスへと飛んでいき、着弾して満開の炎の花を咲かせる。
その威力は凄まじく、甲羅の上の砲台が巻き込まれて木っ端微塵になる程。弾薬にも誘爆して、ボスは砲弾の代わりに苦悶の叫び声を大口から吐き出した。
「す、スゲェ……てか、めっちゃ派手だ……」
「あの船欲しい! てか、めっちゃ乗りたい!」
「和風なのか近未来兵器なのかハッキリしてくれ」
「「そんなのどっちでもいいでしょ!!!」」
圧倒的な火力を有するステージにボスの攻撃は何もかもが後手後手となり、周りのスケルトン達もプレイヤーを狙うべきか、それともアマネを狙うべきかで統率に乱れが生じる。
だが、ボスの後背から現れる大量の敵が現れると、スケルトン達の動きが大きく変わり始めた。
「アレは……ガーゴイル!?」
「デモンガーゴイルの大群だ!!!」
「闘技大会の時に出てきた奴じゃねぇか!?」
空を飛んでいるのは、闘技大会の時に出現したガーゴイルの大群。わらわらと現れるガーゴイルは、飛び回る飛行バイクを落とすべく空中戦を繰り広げ始める。
尤も、飛行バイクの速度はガーゴイルより速い。多少小回りが効きにくいところもあるが、初速と加速の速さで向かってくるガーゴイルを次々と撃墜していく。
但し、ガーゴイルが現れたことでボスに与えていたダメージは著しく減少した。攻撃役の飛行バイクが、ガーゴイルの迎撃に集中し始めたからである。
更に、海上には上陸部隊を乗せたサメに加え、遊撃役らしきジャベリンを構えたスケルトンの騎兵も現れ始めた。
彼らの向かう先には、アマネが歌い踊るライブステージがあり、プレイヤーではなくアマネを狙う為の部隊が動き出しているのがすぐに分かる。
「……! 皆! お姉から追加の連絡来たよ! 全員傾注〜ッ!!!」
最早、このライブに参加している者で彼女の言う『お姉』が誰なのかが分からない者はいない。
スケルトンを倒す手は止めずに、一言一句聞き逃さないように妹であるユーリの言葉に集中する。
「今から海上戦が出来る騎獣が、あの船から沢山出てきます! 余力のあるプレイヤーの皆さんは、船の側を通る騎獣に飛び乗ってください!」
「騎獣…………騎獣!?」
「マジで!? 海を移動できる騎獣!?」
プレイヤーの騎獣は大半がウマであり、一部のテイマーやサモナーと呼ばれる職業のプレイヤーがウマ以外の生き物を騎獣にしている程度。
当然ながら騎獣を持っていないプレイヤーもいるし、海の上を移動できる騎獣など現状では誰も有してはいない。
それを考えれば、ユーリの発言で驚愕するプレイヤーが出てくるのも何ら不思議はなかった。
「因みにだが、どんな騎獣が来るんだ?」
「えっとね。分かりやすいから騎獣って言ったけど、正確には騎獣が乗り物を引っ張ってくるから、私達はそれに乗るって感じかな――――こんな風に!!!」
フロリアからの質問に答えながら、甲板から飛び降りるユーリ。
船の横には金や銀の装飾が施された装甲を身に纏う大きなサメが通過しようとしており、その後ろにはワイヤーで繋がれた手すり付きのベーゴマのようなワゴンが引かれていた。
そのワゴンに飛び乗ったユーリは、手すりを左手で掴みながら右手に持ったペンライトを構えつつ、遊撃手であるスケルトンに向かい直進していく。
「タイミングは…………ここッ!!!」
ジャベリンを構えて突撃してきたスケルトンに対して、穂先を避けるように軽く身を翻しながら、すれ違いざまにペンライトでスケルトンの体を両断する。
胸骨から横にスパッと斬られたスケルトンは、そのまま騎獣であるサメの背中から崩れ落ちるように海へ沈んでいった。
「――――見ていたな! 私達もユーリに続け!」
「いよっしゃぁ! これ絶対に楽しい奴じゃん!」
「サメさん早く来てくれ〜ッ!!!」
「こっちはいつでも準備万端だぞ〜!!!」
ユーリの勇姿を見ていたプレイヤーは、直ぐ様船の甲板から海を覗き、次のサメが到着するのをワイワイガヤガヤと待ち始めた。
勿論、待ってる間に乗り込んできたスケルトンは片っ端から片付けているし、上陸部隊を輸送するサメが見えたら、そのサメ諸共吹き飛ばすバズーカ持ちのプレイヤーもいる。
「オイオイ!? あのデカいカメ、もしかしてパーティ用じゃないか!?」
「なんか背中にデッカい機関銃が見えるんですけど?」
「もしかして、アレぶっ放せるの!?」
サメが運ぶワゴンに飛び乗るソロプレイヤーが増える中、サメより大きなウミガメが今度は機関銃が備え付けられた大型のワゴンを運んでくる。
一部のプレイヤーの発言通り、これはパーティ用のワゴンで、備え付けられた機関銃はよく見てみると連発花火をガトリングのように円形に並べたものだとわかる。
「ウミガメは対空攻撃も可能だ! 出来るやつは、機関銃を使って空のガーゴイルを撃ち落としまくれ!」
「マジで!? 乗る乗る、めっちゃ乗る!!!」
「俺も乗るぞ!!! お前ら、早くしろ!!!」
「あのカメは私のものですわァァァァァァッ!!!」
「ちょっ!? トリガーハッピーが暴走し出したんだけど!?」
「「「絶対に抑えとけ!!!」」」
何処かのクランリーダーが一人でワゴンに飛び乗ろうとするのを抑えるプレイヤーが現れたりしたが、準備の出来たパーティから次々とカメが引くワゴンへ飛び乗っていく。
左右と後方に付いた機関銃をプレイヤーが動かし始めると、引き金を引いて空を飛ぶガーゴイルに弾幕を張り始める。
最初は飛んできた弾を避けようとしていたガーゴイル達だったが、連射速度も弾速も速い弾幕を避け切ることは出来ず、翼や体に大穴を開けられて次々と海の中へ落ちていく。
危険だと判断したガーゴイルやスケルトン達がそのワゴンを沈めようと動くものの、それもまた弾幕を前にして撃ち抜かれ沈んでいった。
中には海中から強襲しようとするスケルトンもいたようだが、弾幕を受けてサメと共に海の藻屑となったり、弾幕が当たらずとも他のプレイヤーが持っているペンライト等で迎撃されて沈むことになっていた。
「イヤッホォォォォォォォォォッ!!!」
「ヤベェ!!! クッソ楽しい!!!」
「どんどんぶっ放せ!!! こんなん真面目にやる方が馬鹿らしいわ!!!」
「ヒィヤッハァァァァァァァァァァァァッ!!!」
「トリガーハッピーがヤバ過ぎる!?」
海上に色とりどりのペンライトの軌跡が残り、空には大量の花火が次々と打ち上がっていく。
アマネのライブは、大勢のプレイヤーを巻き込んでより一層熱量を増して盛り上がっていった。
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