第678話
口上の終わりと共に大音量で流れ始める軽快な音楽。何処かお祭りのような雰囲気を感じさせる曲と眩いばかりの照明が、誘蛾灯に惹かれる虫のようにボスの注意を惹き付ける。
「な、なんじゃこりゃァァァァッ!?!?!?」
「ふ、船!? ライブステージ!?」
「世界観どうなってんだコレ!?」
彼方此方のプレイヤーから上がる困惑の声。奇しくもこの様子を見ていた『運営』という名の人々も同じような声を上げていたが、この場にいた者にそれを知る由はない。
「うわぁ〜!!! え、マジ!? お姉、マジでここでライブすんの!?」
そんな中、事情を知る歌姫の妹はこの船の出現に対して明らかに普通ではない反応を返している。
「ッ! おい、ユーリ!? アレが何なのか知ってるのか!?」
「いんやぁ〜? 乗ってるのがウチのお姉だってのは知ってるけど、あんなのがあるってのは全然知らなかったもんね〜!」
詰め寄るフロリアに対して、ニヤニヤと笑いながらそう返すユーリ。自分の姉の晴れ舞台に、嬉しさと喜びの笑みが隠し切れなかったようだ。
ただ、その表情もすぐに元に戻すと、周囲の船に乗るプレイヤーにも聞こえる声で指示を出す。
「全員傾注!!! 今からウチの姉がめちゃくちゃ歌ってあのボスとやり合います!!! 皆は、これから届けられる装備を使って応援してね〜ッ!!!」
「はぁ!? 応援って、そんな事をしている間なんてあるわけが――――」
フロリアの反論が響くより先に、空を飛ぶ錦の魚が船団の上を通過する。それも、船の上に様々な装備をバラ撒いて。
「よっしゃキターッ!!!」
脇差しを納刀し、降ってきた装備を掴み取るユーリ。かなり長い棒状のソレを掴んで持ち手を握ると、長い棒は一瞬にして明るいペンライトへ姿を変える。
「全員棒振れ〜ッ!!! 振れば振るほど、お姉のステージにパワーが溜まるぞ〜ッ!!!」
「……おいおい、冗談だよな?」
まさか、長いペンライトが装備なのか?
そんな困惑から思わず漏らしてしまった声は、当然ながら他のプレイヤーにも波及するのだが……
「ちょっと待て!? コレ、今の俺等の武器よりめちゃくちゃ強いんだが!?」
「は!? 光属性!? しかも、使える属性によって色が変わる!?」
「ライブ限定って、なんだこの謎制限!?」
試しに装備してみたプレイヤーの驚愕の声により、プレイヤーが抱いた困惑はあっという間に払拭されていく。
音に気を取られて動きが止まっていたスケルトンをペンライトで攻撃して、何処ぞの光セイバーのようにスパッと斬れると分かった途端、歓声と共にプレイヤー達はペンライトで次々と戦闘を再開する。
このペンライトは『ペンライトセイバー』というセウトな名前の武器なのだが、その性能は大勢のプレイヤーが持つ武器の中では最高峰。
ライブ中にしか使えないという制限はあるものの、基礎火力が現状の武器の三倍近くあり、アンデッド特攻でもある光属性も付与されている。
ペンライトとしての機能もかなり高性能で、使用者の使える属性によって、ペンライトの色を自由に変えることも出来る。
これにより、火属性なら赤、水属性なら青、風属性なら緑、地属性なら黄色と、様々な色のペンライトがスケルトンを斬り裂いていくという中々異様な光景がアチラコチラで見受けられる様になった。
「何の冗談かと思えばガチとはな!!!」
「アタシらの隠し玉がバレちまったけど、どうせイベントの時には露見するしな!!! それなら、楽しめる今が一番のバラシ時だ!!!」
「ヤッベェェェェ!!! ペンライト超強い!!! めっちゃ楽しい!!!」
一般プレイヤーに混じったエルメの声の通り、イベントが始まればアマネの存在は否応無しにプレイヤーにも運営にもバレる。
そういう意味では、運営が手を出し難くしたこのライブはアマネの勝利であると言えるだろう。勿論、それには色々な意味を内包しているのだが。
「魔法使いの皆さんはこっちの武器を使いましょうね〜!!!」
「なんだコレ……うわっ!?」
「コレ、吹き出し花火かよ!?」
「こっちは連発花火だ!?」
恋華が魔法使いや僧侶などのプレイヤーに渡しているのは、パンパスロッドという名前の手持ち花火。
こちらも使える属性によって色を変えたり鮮やかにする事ができるのだが、当然ながら武器としての性能も破格。
吹き出し花火がスケルトンの体を溶かすように焼き払い、連発花火の玉が小さな爆発と共にスケルトンの体を木っ端微塵に吹き飛ばす。
光属性に加え火属性も付与されたこの武器は、勿論ライブ中にしか使えない。が、MP消費もなく乱発出来る事から、何処かのクランリーダーは両手持ちで連発花火を乱射している。
「え、何それ?」
「ん。打ち上げ花火」
「いや、打ち上げ花火なんて何処で使うんだ……」
「てか、花火っつーかバズーカじゃね?」
弓月が担いでいる大筒型のバズーカは、フレアワークキャノンと言い、当然ながらライブ中にしか使えないかなり強力な遠距離武器だ。
「これは、こう!!!」
「「「「おおおおお!?」」」」
大筒の先端から放たれた花火玉が飛んでいくと、一定時間で大爆発。色とりどりの火花を散らして宙に眩い花を咲かせる。
が、一番凄いのはその火力。タイミング良く放たれた花火はサメを一撃で丸焦げにし、スケルトンは火花に触れて瞬く間に炎上し灰となっていく。
「ガンガン撃って。射程は短め。範囲大!」
「いよぉっし!!! これでスケルトンを運んでくるサメ共を追い返すぞ!!!」
このバズーカもMP消費は無く、射程もそこまで長くはないが攻撃範囲が広い。海から飛び出してくるサメだけでなく、甲板で固まっているスケルトンにさえぶっ放していくプレイヤー達。
フレンドリーファイアも起きてしまうが、アンデッド特攻だし巻き込むことも想定済なので、他のプレイヤーに対するダメージはかなり低かった。
「おいおい、前夜祭にしては随分と豪華過ぎるんじゃないか!?」
「どうせバレるなら派手にやっちゃえってね!」
フロリアもペンライトを持ち、赤くなった刀身で次々とスケルトンを斬り裂く。自前の大剣だと殴った時のような衝撃を感じていたが、ペンライトだとその感触も一切無くなっていた。
「ひゃぁぁぁ!? こ、これ、色々とヤバいことしてないッスかねぇぇぇぇぇ!?」
「アッハッハッ!!! 気にするだけ野暮ってもんだ!!! 折角のライブ、思う存分楽しんで暴れりゃいいんだよぉ!!!」
「アァァァァァァァァァァァッ!!! 最ッ高ですわァァァァァァァァァァァァッ!!!」
「ちょっ!? トリガーハッピーがハッピーになってんぞオイ!?」
船上の形勢はあっという間にプレイヤー有利に書き換わる。お祭り騒ぎが好きなプレイヤーのモチベーションも、ライブということで跳ね上がるのが止まっていない。
「これヤバいね。めっちゃ楽しいわ」
「ねーねー? そっち何使う〜?」
「私は杖にしよっかな〜!」
和気あいあいとしたプレイヤーは使う武器を選ぶことに悩むくらい。何せこれらの装備は必要なスキルや職業の制限が無く、どんなプレイヤーでも自由に使うことが出来る。
なので、魔法使いのプレイヤーがペンライトを振り回して近接戦闘をしていたり、厳つい戦士が吹き出し花火を両手に持ってスケルトンを焼いていたり、小柄な僧侶がバズーカでサメを破壊したりと、かなりカオスな戦場に移り変わりつつあった。
『エネルギー充填率30%だ!!! まだまだ盛り上がりが足んねぇぞ!!! もっとテンション上げてけ上げてけ!!!』
――――オォォォォォォォォォォォォッ!!!
DJの声に当てられて、ペンライトをより一層激しく振り回すプレイヤー達。
そんな中、エネルギーがチャージされたことで船の動きが変わったのか、次々と宙を飛ぶ錦の魚の数が増えていく。
「……なぁ、アレって良く見たら鯉のぼりじゃね?」
「え? ……あ!? マジじゃん!?」
「鯉のぼり型飛行バイク!?」
「何だそのネタ騎獣!?」
背中に人形を乗せている飛行機体は黒や青、赤の車体を有する立派な鯉のぼり……ではなく、鯉のぼりの見た目をした飛行バイク。
シュー、という音を立てて空を飛ぶバイクは、プレイヤーに渡す武器を投下した後、海上に浮かぶボスに対して次々と攻撃を仕掛けていく。
その攻撃方法だが、何とレーザーキャノン。大きく空いた口から放たれる高出力のレーザーは、チャージすることで破壊力抜群の砲撃となる。
百を超える鯉のぼりの群れに集られるボスは、放たれるレーザーに苦しみ身悶えているのか、唸り声を上げながら背中に抵抗するための大砲を出現させて、空に向かい乱射していた。
当然ながら、レーザーキャノンと船の大砲では射程距離も火力も彼我の差が存在する。ましてや機動力に優れた鯉のぼりに、物理法則に従って弧を描き始める砲弾が当たる筈がない。
派手なライブが始まり、ボスのHPはどんどん削られていく。尤も、このライブはまだまだ序盤で、未だに終わる様子が見られないのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます