第670話

 なんか、言われた通りにやって人外認定されそうになってることに納得いかないまま不満気な顔を晒していると、完全にフリーズしていたマーラ様が漸く動き始める。


「お、おおぉ……」


「どうした? 筋肉痛の若者みたいな動きになっとるぞ、マーラ殿?」


「す、済まんな。送られた信仰が神力に変換された瞬間、量が多過ぎて少しオーバーフローしてしまった」


 どうやら、マーラ様が普通に活動出来るくらいの神力が溜まった様子。その声も、以前アスラの国の宮殿で聞いたようなハッキリとした声に戻っている。


 ただ、それ以上にこの拠点を中心として広がった多重魔法陣について、詳しい情報を教えて欲しいところだ。二人なら多分すぐにわかるだろうし。


「しかし、これはなぁ……冗談のつもりで言ったんじゃがなぁ……」


「帽子があれば脱がねばならんな。まさか、本当にこの地に神域を作るとは」


「……えっ!? ここ、神域になっちゃったの!?」


 私が驚くより先にギョッとするユーリ。まぁ、自分の拠点が明らかにヤバい領域になったって言われたら、こんなリアクションになるのも当然だ。


 と、そんな事を考えていると、ヤケにバタバタと騒がしくなり始めるクランホーム。なんか、何かが慌ててこっちに来てるような……





――――――おい!!! アマネはいるか!?





「うぇっ!? こ、ここにいますけど!?」


「そこかぁぁぁぁぁっ!!!」


「ヒェッ!? な、何何何!? 何が起きてるの!?」


 なんか、人の姿のハスター様やアンラ・マンユ様、その他大勢の神々がこっちに向かって詰め寄ってきたんだけど!?


「アマネ、やってくれたなぁ!!!」


「やったって何をですか!?」


「この神域も含めて、アマネと縁ある神々の力が増しているのだ。聞けば、スメラミコトで同じように神々の力を溢れさせて軽く混乱させていたそうじゃないか」


「えぇ!?」


 もしかして、友人帳を介して色々な神様の力がチャージされてしまったんだろうか。いや、話しぶりから察するにチャージしちゃったんだろうなぁ。


「悪い事ではないが、急に力が満ち溢れてくるものだから驚いたんだぞ!?」


「まぁまぁ、そう怒らんでもいいじゃろ。別に悪い事じゃないんじゃろ? なら、カッカせずに甘んじて受け入れれば良かろうて」


「それはそうかもしれんがな。こうも迂闊だと、例の神に勘付かれてもおかしくないぞ?」


「その時はその時よ。溢れ出る神力を使いに使って、其奴らを叩き潰してしまえばいいだけの事」


 なんか、ミシャグジ様とマーラ様、アンラ・マンユ様の会話がちょっと物騒な気がします。いや、相手が相手だから別にいいとは思うけどさ。


「まぁ、やってしまったものは仕方無い。それにしても、随分と立派な屋敷を構えたものだな」


「ハスター様……そうですね。多くの本を所蔵した図書館もあるので、もし暇でしたら御利用なさっては如何でしょうか?」


 音楽関係の本もあるけれど、風土記とか絵巻物とか、色々な国の物語や書籍が御土産としてこちらに運び込まれているから、沢山の本を仕舞える図書館を作らざるを得なかったんだよね。


 ただ、その中には魔術とか魔法に関係する本だとか、生産活動に使える各種素材の効果一覧とか、後はモンスター関係の図鑑も数多く含まれている。


 因みにだけど、アタちゃんやコカちゃんみたいな子供向けの絵本も沢山納められている。大人達が無邪気な二人の為に買ってきてくれるんだよね。


「図書館か。それはいいことを聞いた。ウチにある写本も幾つか寄贈してもいいかもしれんな」


「なら、儂らは赤表紙や黄表紙だけでなく、建国初期の風土記や歴史書の類の写本を納めるとするかの」


「あ、思兼命様!」


 朗らかに笑う思兼命様も、ここの図書館に写本を納めてくれるみたいだ。というか、建国初期の風土記ってかなりヤバい代物じゃなかろうか……


 そんな事を考えていると、旧館の裏口から次々と色々な国の神々が人の姿で訓練場に来て、私に挨拶をして屋敷の中へと入っていく。なんか、馴染むの早いような気がするのは気の所為かな?


「よっ! 相変わらず好き勝手やってるみたいだなぁ、姫さん」


「あ、トラロック様! もしかして、そちらにも行っちゃいましたか?」


「あぁ、そうだな。お陰で例の奴らとやり合うときも、全身全力でぶっ潰しにいけるってもんだ」


 そう言ってニカッと笑うトラロック様。緑のベストを羽織っているが、その下の鍛え上げられた鋼の肉体は隠し切れていない。


「お、またアマネの知り合いか」


「おう。俺ぁトラロックって言うモンだ。姫さんにはデケェ恩があるんでな。その関係で、ちっとばかし仲良くさせてもらってんだ」


 そんなトラロック様に気付いたのは、大きなカカシを持ち上げて運んでいるエルメ。確か、あのカカシはチュートリアルでサンドバッグにされている設備の一つだっけか。


「はぁ〜……やっぱアマネって凄いんだなぁ」


「まぁな。にしても、随分と面白いモン持ってんじゃねぇか。ちょっとそこに置いてみてくれよ」


「え? あぁ、別にいいけど……」


 訓練場の真ん中に置かれるカカシ。ボタンの目と糸で縫って作られた口があるトルソーのような見た目をしているが、耐久値は無限らしい。


 そのカカシの前に立つトラロック様は、大きく腕を後ろに引いて、強烈過ぎる右ストレートをカカシに向かって打ち出す。




――――ダガァァァァァァァァァァァン!!!




「うおわぁっ!?」


「んにゃっ!?」


 あまりの爆音にビクッと体を震わせて変な声を出すエルメとユーリ。なんか、ワンパンでカカシの首が弾け飛んだんですけど?


「カッカッカ! 随分と面白え声出したもんだな!」


「ま、マジか……ワンパンでほぼ六桁のダメージって、アタシ初めて見たぞ……」


 どうやら、あのカカシにはダメージを表示する機能もあるらしい。ほぼ六桁ってことは9のゾロ目だったりしたんだろうか。


 そして、弾け飛んだカカシはシュウシュウと音を立てて元の姿に戻る。耐久値無限って、幾らでも再生するから無限ってことなの?


「ってことで、次はアンタにパスするぜ!」


「よっしゃ! あんな派手な一発見せられちまったんなら、俺も本気でブチかますしかないよな!」


「んじゃ、俺はその次にやらせてもらうかね。太歳星君、お前はどうする?」


「じゃ、悟空の後でいいよ。偶にはこういうのも悪くなさそうだしね」


 トラロック様にパスされた気合十分なアエーシュマが、ゴキゴキと首と手を鳴らしながら再生したカカシの前に向かう。


 その後には斉天大聖こと孫悟空が控え、その次に太歳星君が待つという、カカシが過労死しそうな面子が順番待ちを始めている。


「ちょ、この人達ってヤバい人じゃないの!?」


「人って言うか神様だねぇ」


「――――――ッシャァァァァァァッ!!!」




――――ッバァァァァァァァァァァァァン!!!




 アエーシュマの右ストレートを受けて、カカシは風船が割れたかのように弾け飛ぶ。尚、この間にも待機列にはトール様とスサノオ様が加わって……あ、人モードのクトゥグアも増えた。


「エルメ、止めるなら責任持って止めなさいね」


「無茶言うなや!? パンチ一発で10万超えのダメージ叩き出すような相手とか止められるわけねぇだろ!?」


「まぁ、他の物を壊さないなら自由に遊んでて構いませんからね」


 流石に他所様の家の物を勝手に壊すようなことは神様なんだからしないだろう。あ、例外が帝国にいるのを忘れてたな……


「それよりお姉。家の中も見に行こうよ」


「そうだね。それじゃ、後はよろしく!」


「え、ちょっ!? 丸投げかよぉぉぉぉぉっ!?」





――――ということで、訓練場の神様の相手をエルメに任せて、私とユーリでクランホームの中へ入っていった。

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