第669話

 流石に神々の歓待までユーリ達で対応可能かどうかがわからないので、一回クランホームに戻ろうかと考えている次第。


「クランホームとはアマネの拠点か。なら、二次会はそちらでいいな?」


「アマネちゃん、魔法使い一名追加してもらっても大丈夫かい?」


「あ、別に大丈夫ですよ! 多分、現地の混雑具合で言ったら増えたところで対して変わらないでしょうし」


 現場作業員が兎に角多いし、周辺には色々と動物やら植物やら虫系やらと、下手な水族館、動物園が比にならないレベルでサファリパークしちゃってるからね。


「アマネの家に土産を持っていかんとな……」


『あぁ、そうか。新築祝いを用意してやらねばならんか……』


「え? いや、そんな気にしなくていいですからね?」


 残っている神々がそう言ってるけど、神々の新築祝いってワードがめちゃくちゃ怖過ぎる!?


 いや、多分言い方として悪いだろうけど、不穏な気配しかしないんだよ! だって、私の知ってる神の一部って俗に言う『邪神』の部類だから!


 ニャルラトホテプの新築祝いとか、絶対受け取りたくない代物しかイメージ出来ないもん!


「……クランホームが壊滅する前に、先に向こうで歓待の準備をしとかないとなぁ」


 うっかりワンコ組が構って構ってと集まってしまったら、付き合った神々がワンコ組と激戦を繰り広げる事になりかねない。それでクランホームが壊れることはないとは思うけどね。


 ただ、近隣住民の方には迷惑だろうから、可能性の目は先んじて摘んでおかないと駄目な気がする


 え? シュラコング? いやぁ、アレは不幸な事件でしたねぇ……














「わぁ……めっちゃ完成してるじゃん」


 転移陣が置いてある場所の関係で、転移先はいつもの私の部屋だ。しかし、いつもと変わらない部屋から見る外の景色は大きく様変わりしていた。


 窓の外に増えていたのは、この拠点を囲むように作られた大きな城壁。和洋折衷の様式で、内側から見ているから外からどう見えるのかは分からない。


 ただ、外の城壁でコレなのだから、新しく建てられている屋敷もきっと素晴らしいものになっている。そう思って、私は部屋を飛び出してすぐに階段を下りていく。


「えっと、こっちの方だね」


 今回新たに建てられた御屋敷は、クランホームの訓練場を中庭にする形で建てられている。上から見ると、訓練場をコの字で間に挟んでいるような形だ。


 で、広くなった訓練場に出ると、そこでは大勢の人達が家具やら何やらを担いだり持ち上げたりして運びまわっていた。


「あ、お姉! おかえりなさい!」


「ただいま、ユーリ! 家、完成したんだね!」


「ついさっき全部完成してね! 今は家具とか素材とかの移動をしてるんだ!」


 屋敷が完成したのは私がアトラスに会う少し前くらいだったらしく、予め買い揃えていた多種多様な家具を中へ運び込む作業が今行われているそうだ。


 チラッと運ばれている家具の一部を見てみると、アンティーク調のテーブルや柱時計だったり、革張りの立派なソファーだったりと、かなり高そうな代物もちょくちょく混じっている。


 また、クランホームの倉庫も新館の地下に移されたらしく、生モノ以外の素材の搬入も行われている。


「しかしまぁ、外装もだけど随分と凝った意匠になったねぇ……なんか、東京駅っぽい?」


「窓も多いからね。中は宿泊できる部屋多めで、地下一階に生産施設を全部移してきてるよ。二階からが倉庫だね〜」


 外装にはレンガを多く使っているようで、赤ともオレンジとも言える明るい色合いなのが高得点。窓枠は白だし、中心部には大きな時計もくっついているので、時間の確認も簡単に出来そうだ。


 一応、旧館となる以前の拠点にも左右の回廊で繋げられていて、そちらは赤ではなく白を基調とした石やレンガ作りになっている。何にせよお洒落な事には変わりない。


「おぉ! これはまた、随分と美しい屋敷を構えたもんじゃのぅ!」


『うむ。これならば、ちょくちょく遊びに来ても充分な歓待を受けられるだろうな』


「あ、ミシャグジ様もマーラ様も早いですね!」


 暫く訓練場からのんびりと新館の外装を眺めていると、ミシャグジ様とマーラ様がヒョコッと姿を現す。勿論、神としてのフルサイズではなく、成人男性くらいの身長でだ。


「いやはや、これ程良き屋敷に住めるとは、アマネが羨ましい。儂のところは、堅苦しい社かちっさい祠しか無いからのぅ……」


『我もアスラの国の外で暮らすとなると、どうしても声が荒れてしまうからな。神域があればこれもどうにかなるのだが……』


 そこまで言って、いいことを思いついたと言わんばかりの笑顔を浮かべてこちらを見るマーラ様。


 私に神域をどうこうする力は無いんだけど、一体何を考えているんだろうか……?


『アマネ! 一曲素晴らしい歌を歌ってくれ!』


「え、まさか神域が出来るような歌を希望してるんですか?」


「それが出来たら脱帽もんじゃの。マーラ殿が考えているのは、何時ぞやの神楽舞の時のような供物に近い形での歌の奉納を希望しとるんじゃろ」


『その通り! アマネが我に歌を捧げれば、それが信仰となって我の力となる! そうなれば、我の声もクリーンになること間違い無しだ!』


 あぁ、そういうことか。確かに、神楽舞の時にガチで歌ったら物凄い量の神力になって大変なことになったって言ってたね。


 要は、それとおんなじ事をここでやればいいってことみたいだし、流石に神楽舞程の力を送れるかどうかもわからないけれど、希望されたのならやり遂げてみせないと歌姫の名が廃るってものだ。


「よっし! ヒビキ〜! カモ~ン!」


「――そんな変な呼び方しなくても来るわよ」


「わぁ……お姉がこんなにいきいきしてるの、久々に見たかも……」


 うん? あぁ、そっか。ユーリの前でこんなに楽しそうな姿を見せるのも、私が部屋に籠もるようになってからは無かったっけ。


 我ながら、妹にそんな感情を抱かせる姉ってどうなんだという思いが湧いて出てくるが、あんま考えてると鬱になるからここらでやめておこう。


 それに、この世界に来て望外の楽しみを得られているからね。最初考えていたプランとは全く違うものになってしまったけど、今の方がハッキリ最高って言えるし。


「うん。なんか色々と元気出てきた。ヒビキ、まだちょっと疲れてるかもしれないけど、演奏お願い」


「……止めても無駄ね。ハァ、頭が痛くなりそ……」


「お姉! どうせやるなら派手にやってよ! なんかこう、魔法陣的なの展開してさ!」


「えぇ……? 何その無茶? まぁ、やれるだけやってみるけどさ……」


 歌と演奏が合わさればワンチャンそれっぽい事は出来るかもしれないけど……あ、阿国さんみたいに舞も加えればいけるかも。


「あら、アマネ。踊るんならこの服着てもらってもいいかしら? アラプト風の踊り子をイメージして作ってみたの」


「わ! ありがとうございます! 早速着てみますね!」


 外に出てきていたアリアドネさんが、ベリーダンス衣装と呼べるような翡翠色の服を渡してくれる。花をあしらった露出抑えめの衣装で、着ていてもあまり恥ずかしくない。


 こういう着替えはシステムの機能でパパッと出来るので、そこは本当に楽な部分だよね。あ、態々隠れられるように私の周りに壁を作ってくれた。多分、察知してた誰かがやってくれたんだろう。


「ユーリ、どう? 似合ってる?」


「おっふ……お姉、魅惑の踊り子って感じだよ!」


 うん、褒めてくれている事がわかるので良し! 元気も服も貰っちゃったし、ここは一つ派手に舞い踊り歌い綴らせてもらおうかな!


「……のぅ。これ、ホントに焚き付けてよかったやつかのぅ?」


『……もう既に遅いだろう』







 ミシャグジ様とマーラ様の二人が陰でこそこそ言っているのを無視して、私は訓練場の真ん中で演奏に合わせて声を出し、四肢を動かす。


 私が歌うのは神に捧げる為の歌。でも、日本風ではなく民族調の曲だ。ミシャグジ様なら日本風でいいだろうけど、マーラ様だと噛み合わないからね。


 ヒビキがコーラスの一部を私の声に重ねる形で歌ってくれるが、ハッキリ言って満足出来るクオリティに達してる気がしない。


 なので、出来るかどうかはわからないけれど、歌っている間だけでも私が複数人いるようなイメージを……






「お、姉が、増え……!?」


「んな……!? ば、馬鹿な……!?」


『き、虚実が混ざった幻影だと!?』





 私の思いに応じるかのように四方に跳ぶ四人の『私』が、私を中心としてくるりくるりと入れ代わり立ち代わり、神に捧げる舞を踊る。


 その足が地を叩く度に、私を中心として淡く輝く魔法陣が広がり、重なり、連なり、何重にもなって高く高く上へと伸びていく。






『――――――等しく、光りあれ…………』






 私が歌の最後を口にすると、四方に立つ『私』は中心に立つ私に頭を垂れて膝を突き、淡く輝く魔法陣は薄く広く屋敷の周りへ広がっていく。


「お姉……だよね……?」


「お姉ちゃんですよ?」


 なんか、ユーリがこちらを見る目線が人外を見るようなものになってる気がするんですが?


「おかしいわね。人外は私だった筈なのに……」


「ねぇ? ヒビキもおかしくない?」


「いや、アレは人外と言われても仕方無いじゃろ」


 モノホンの人外なヒビキとミシャグジ様には言われたくないんだけど!?


 え、何なの皆? 私、この世界に来て化け物にでもなってるのかって!!!


「ごめんお姉。それ、否定出来ない」


「否定してよ!?」

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