第666話
ということで、大勢の妖精達を引き連れて洞窟探索と相成った現在。精霊も参加希望者が多かったので、広い筈の洞窟が若干狭く感じられる。
「これは……古い遺跡のようだな。記録上にもこのような様式の都市は無かった筈だが……」
「エーディーンの様式に似ていますね。方舟は様々な地に渡っていますから……」
恐らくだが、エーディーンの方舟の成れの果てがこの洞窟なのではないかと思われる。都市を丸ごと地中に封印するような真似は、嘗てエルドラドと呼ばれた都市で前例があるからだ。
あの時は山を使って蓋をしていたが、ここも似たような方法で押し潰されたのかもしれない。海に行けば孤島の類は幾らでもあるだろうからね。
「わわ!? この先、ガーゴイルがいっぱいいるのですよ!?」
「アマネの言う通りかもしれんな。ガーゴイルは、ものによっては悪魔除けとして家屋敷の屋根や塀の上に飾られる事がある」
「長い年月を経てモンスターと化しましたか」
アーチ状の橋や三階建てくらいのレンガや石造りの建物らしき跡が見受けられる通りに出ると、アチラコチラで重い物が動く音が聞こえ始める。
ビクッと体を震わしてビビるシルキー達が言った通り、ここには大量のガーゴイルが未だに街を守り続けていたようだ。
武器を担ぎ、或いは手に持ってこちらに歩いてくるガーゴイル達。得物はそれぞれ違うものの、石像自体は共通した意匠であるように見える。
「量産型、というには大分強いな」
「モルガン様がそう言うのなら、ここのガーゴイル達は余程の猛者というわけですね」
モルガンの評価が『大分強い』というレベルなので、多分だがキャメロットの騎士相手に引けを取らないか、ワンチャン騎士の中でも精鋭である円卓勢とまともにやり合える程の強さかと思われる。
さて、そんなガーゴイル達だが、使っている得物によって別々の種類に分けている模様。まぁ、職業別で分けているようなものと考えれば理解は出来る。
まず最初に近付いてきたのは、デスサイズガーゴイルという大鎌を背負ったガーゴイルだ。
その鎌は刃の部分に加え、持ち手となる棒の先端と石突には鋭く尖った槍の穂先があり、更には鎌の刃が付いた反対側には破砕用の戦鎚も付いている。
「斬るだけでなく、戦鎚部分で兜や盾を砕くことも出来る、か」
「……草刈りのお手伝い、してくれないかな」
ちょっと感嘆しているモルガンに対して、シルキーの漏らした言葉の安穏さが凄い。まぁ、草刈りって大変だろうからね。
続いて前に出てきたのは、ジャベリンガーゴイルという矢筒のようなものを背負った槍持ちのガーゴイルだ。
見て分かる通り、持っている槍が武器で近接だけでなく投げる事で遠距離攻撃も出来るという、敵としてはかなり厄介なガーゴイルである。
投げたら武器が無くなって弱くなるんじゃないかと思ったが、背中の矢筒のような部分から魔力を使うことで幾らでも補充出来るらしい。偶に二刀流の子がいるのはそのせいか!
「槍使いとしても充分に強いな。投槍の腕前も中々のようだし、何体か私の城に来て欲しいところだ」
「レッドキャップ達も投擲は得意ですが、重い物は投げ難いそうですからね〜」
レッドキャップも投擲はよく行うそうだが、投げるのは短剣や手斧、石礫が殆どで、致命傷狙いというより牽制の意味合いが強いらしい。
その分、ジャベリンガーゴイル達なら一投一殺も狙えるだろうか。もしかしたら、場合によっては貫通して二殺くらいは出来るかもしれない。
「それで、こっちの子はフレイルガーゴイルとチャクラムガーゴイルだそうです」
「フレイルとチャクラムか。随分と癖のある武器を使うものだな」
モルガンに紹介した二種、フレイルガーゴイルとチャクラムガーゴイルは、何方も遠近両方の戦闘を得意としている非常に厄介な個体だ。
フレイルガーゴイルは名前通りフレイルと呼ばれる鉄球付きの棒を使うガーゴイルで、その攻撃は破壊力に優れている。
長い鎖を短い棒の両端に繋いでいて、端には分銅のように棘付き鉄球がくっついている。棒の部分を持つこともあるが、基本的には首の後ろに棒を乗せて鎖を直接掴んで振り回すことが多いそうだ。
ジャベリンが刺突、フレイルが打撃。なので、チャクラムガーゴイルは斬撃担当の遠距離役。大きなチャクラムはまるでフラフープのようだ。
腕輪のような小さめのチャクラムも身に着けているガーゴイルだが、その攻撃は当然チャクラムによる遠距離攻撃。投げたチャクラムはブーメランのように戻ってくるらしい。
その斬れ味はまるでバターのように硬い石材も斬り裂ける程で、上手く弾かないと盾諸共体が真っ二つになることもあり得る。
「腕に付いたチャクラムも投げれるそうですし、何ならそれで近接戦闘も出来るみたいですよ」
「格闘戦か……」
「こ、こんなのが付いた腕で殴られたら体がズタズタになっちゃいますよ!?」
石で出来た体は当然硬いし、ラリアットなんてしようものなら、腕輪代わりのチャクラムによって物凄い裂傷を敵の体に刻んでくれる事だろう。
しかし、これはこれでウチのクランホームの防衛戦力がどんどん増えているように思える。ガーゴイルなら塀の上にあってもそこまで違和感無く溶け込めるだろうからなぁ。
と、そんな事を考えていると、今度は長物を担いだガーゴイルが、翼を広げて丁度私の前に着陸した。
このガーゴイルはグレイブガーゴイル。お墓のガーゴイルではなく、グレイブという薙刀のような槍を扱うガーゴイルだ。
マチェーテをそのまま槍の穂先にしたようなグレイブを使うガーゴイルは、槍の柄で打撃も行ってくる。長物の弱点は懐に入られる事だが、入られても即座に短く持って棒術で対応出来るのは流石というべきか。
「アマネ様! この子の名前は何ですか?」
「えっと、ジャマダハルガーゴイルだって」
そんな中、シルキーとブラウニーに囲まれているのはジャマダハルガーゴイルという一見すれば無手のガーゴイル。
実はこの子の武器はジャマダハルという三角刃の短剣で、ナイフというより格闘寄りの武器に近い構造なのだ。
その為、戦闘になると手の甲からシュッと三角刃を飛び出させて、それで敵の体に何度も突き刺すような形で戦うらしい。
まぁ、現在は戦闘状態で無いこともあり無手のガーゴイルにしか見えない為、他のガーゴイルよりも威圧感が大分抑えられている。だから、他のガーゴイルより妖精達がよく集まっているのだ。
「アマネ、アレは……」
「あ、ここのガーゴイル達のボスみたいですね」
多種多様なガーゴイル達が、訪れた妖精や精霊達と軽く戯れていると、ガーゴイルというにはかなり物々しく武装されたボスがこちらにゆっくりと歩いてくる。
材質こそわからないものの、黒い金属鎧に身を包んだそのボスの名前は『石龍剣士』ドラゴイルブレイダー。他のガーゴイルが悪魔っぽい様式に対して、彼は竜人のような姿をしていた。
ドラゴイルブレイダーの武器は巨大なクレイモア。ゴリアテが使うような身の丈を超える大剣を、まるで木の棒を振り回すように軽々と使いこなす。
その剣技は円卓の騎士相手にも引けを取らないどころか、相手と場合によっては勝つこともあり得る程の使い手であるらしい。
多分、モードレッドなら正面から戦っても勝てると思う。後はランスロットやアーサー王もイケるだろうし、アロンソさんなら軽々と一蹴出来そうだ。
「……それで、貴方がここの案内役ということでよろしいのでしょうか?」
私の言葉にモルガンがキョトンとして口を開こうとした瞬間、パチパチと響き渡る拍手の音。まぁ、ずっとこちらを見ていたのだからわからない筈がないよね。
「お見事。龍が言っていただけはあるねぇ、アマネさん」
「はじめまして、ですね。何とお呼びすれば?」
「なら、アレイスターと。もしかしたら、そこの魔女さんは知っているかもしれないけどね」
赤いローブを纏ったオレンジ色の髪の男性は、モルガンを見ながらそう言って笑う。シトリンのような黄色い瞳は、何処か吸い込まれるような感じがする。
「……まさか、帝国に大罪人として討ち取られたとされる『法王』アレイスターか!?」
「御名答。人の世を見る時にはその名で過ごしていたんだけどね。ちょっとやり過ぎて目を付けられちゃったんだよ」
アレイスターさんは嘗て『法王』の二つ名で知られていた魔術師で、この世界でも『魔術王』や『塔の魔術師』並みに有名な術者であるそうだ。
今の帝国がこの大陸に襲来し、現在の帝国領となっている場所を侵略した際、アレイスターは帝国軍に討ち取られたと喧伝されていたという。
「いやぁ……向こうの端の神や天使をふっ飛ばしてさ。時間稼ぎの為に暴れるだけ暴れて立ち去ったら、向こうで勝手に討ち取られた事になってねぇ……」
「爆炎と閃光に消えたというのは……」
「あ、それは最後にぶっ放した魔法。どうせ転移するからって置き土産に向こうの要塞消し飛ばしたんだけど、それで死んだと間違われたみたいだね」
どうやら、アレイスターさんは立ち去る時に思いっきり帝国の要塞を人や天使諸共ふっ飛ばしたらしい。
というか、多分アレイスターさんって色々とヤバい人だよね。ソロモン陛下に聞いたら詳しい話とか聞けないだろうか?
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