第664話

 サタンとルシファー対グレガリオの戦いは、ノーダメージでグレガリオが勝利した。いや、ホント強いねグレガリオ。


 喉に剣を突き付けられていた二人は、そのままバタリと倒れて動けなくなっている。時々痙攣したように震えているから、もしかしたら感電して麻痺してるのかもしれない。


「なんだ。二人共麻痺してるのか」


「スゲェな。サタンの馬鹿は兎も角、ルシファーの奴は状態異常の耐性クッソ高ぇだろ?」


「サタンも精神的なもの以外には強い。尤も、アレを前にしては紙を破る程度の障害にしかならなかったようですがね」


 どうやら、サタンもルシファーも麻痺などの状態異常に対してはめちゃくちゃ高い耐性があるらしい。


 それを貫通して麻痺させているグレガリオがつくづくヤバいように思えるが……いや、ホント何者なのグレガリオ?


「ほれ、ベルフェゴール。お前の寝床に乗せてやれ」


「やるならこっちに投げて。こっちは別に汚れてもいい方だからさ」


 麻痺した二人を浮かせたソロモン陛下は、そのままポイッとベルフェゴールの出した焦げ茶色のクッションの上に投げ捨てる。


 ところで、私の側にグレガリオが控えているわけなんだけど、友人帳にあるグレガリオのページに新しい写真と解説が増えてるんだけどさ。


 その名前が【グレガリオ『レイカードフォルム』】ってなっているのはどうツッコんだらいいんだろうね?


「取り敢えず、例の対抗戦には観戦するつもりで参加するつもりだ。手を出されればこちらも反撃はするが、あの面々が揃う拠点でそのような事態も早々起こりはしないだろう」


「まぁ、そうでしょうね……」


 現状でも過剰戦力にさらなる戦力を注ぎ足しているような状態なのだ。神様レベルのヤバい相手が来たとしても、やろうと思えば撃滅さえ出来る。


 正直に言うと、ウチの拠点を攻略出来るクランどころか、プレイヤーが束になっても蹴散らされて終わるだけな気しかしないんだよね。


「さて、それじゃぁ私は次の場所に向かうとしましょうかね」


「おや? 何か用事かい?」


「キャメロットの魔女様からのご連絡が御座いましてね。妖精達を集めた茶会をするそうですよ」


 グレガリオが二人をボコボコにしていた最中に、アルビオンの城主であるモルガンから友人帳伝いのメッセージが届いたのだ。


 何でも、あの近辺に住む妖精や精霊を集めた茶会を行うので、是非私にも参加して欲しいとのこと。邪妖精についても話すそうなので、不参加の選択肢はすぐに消え去った。


「モルガン殿か、成る程な。確かに、妖精に関しては我らよりもかの魔女殿に聞いた方が詳しく知れるだろうよ」


「悪魔に関してなら我らが専門ですからね。もし聞きたいことがあれば、気軽に呼んで頂ければお答え致しましょう」


「対価は貰うが、アマネがおるなら飯より歌の方がいいかもしれんなぁ……」






「「「「「ベルゼブブが、飯以外を!?」」」」」





「喧嘩売ってんのか御主らぁ!!!」







 なんかすっごい大喧嘩になりそうな予感がしてきたので、ここらで一端退散とさせていただこうかな……


「それじゃぁ、ニトクリスさんは任せます」


「勿論だ。キッチリと里に送り届けておくさ」


 大罪の悪魔達が闘技場の舞台に移り、物々しいオーラを噴出させ始めたので、余波を食らう前に私はアルビオンへと転移した。
















 アルビオンへと転移して早々に、私は城の管理をしているシルキー達に連れられて近くの森へと案内されていた。


 シルキー達はクラシカルなメイド服に身を包み、白い髪には少し灰色っぽいカチューシャを付けていて、それはもう美少女としか言いようがない。


「着きました! ここが今日のお茶会会場です!」


 そんな彼女達が案内した先には、色とりどりの花が咲き乱れる森の広場があり、中央には立派なテーブルとお洒落なチェアが用意されていた。


「あ、アマネ! 久し振り〜!」


「ウンディーネ! 貴方達もここに?」


 そんな広場で私に声を掛けてくれたのは、昔地底湖で出会ったウンディーネ達。あの時よりも明瞭な声で、私に手を振り駆け寄ってくれた。


「ここは精霊や妖精の故郷とも言えるの。だから、私達の声も他の場所より届きやすくなるし、力も沢山湧いて出てくるのよ!」


「へぇ~! だから、皆とっても元気そうなんだね!」


 水の精霊であるウンディーネもそうだが、風の精霊であるというシルフという緑の羽衣を着た少女達も笑いながら飛び回っている。


 また、そこかしこの小さな切り株の椅子には、ノームやノッカーという地の精霊が腰掛けて歓談していた。


 因みにノームは庭の置物で売られている姿とまんま瓜二つで、ノッカーはそれの黒髭版。よく見てみるとノッカーは大きなハンマーを背負っているようだ。


「アマネ! 態々来てくれてすまないな!」


「あ、モルガン様! お久し振りです!」


 そんな中、様々な容姿の妖精らしき人達を連れて、モルガンがこちらに軽く手を振りながら歩いてきていた。


 また、向こうは気付いていないようだがオベロンとティターニアも、他の人と歓談しながらテーブルの並べられている広場へ案内しているようだ。


「アマネ。紹介は後でするから、今は先に席に座って待っていてくれ」


「はい! わかりました!」


 私の席はモルガンやティターニア、オベロンの近くの席であるらしく、割と上座寄りであることが何となくわかる。


「おぉ!? アマネ、いらっしゃいだな!」


「久し振りですね~! 元気にしてましたか〜?」


 オベロンとティターニアは座っている私に気付くと、他の客人そっちのけでビュンと飛んできて、クルクルと私の周りを飛び回りながら元気良く話し掛けてくる。


 それを見て笑いながら自分の席に座る客人の妖精達。茶会とは言うけれど、実際は顔見知り同士で一緒に茶を飲みながら色々と駄弁ろうってのが主目的らしいよ。


「はじめまして、アマネ殿。私はタルイス・テーグ。この近くの湖で暮らしている妖精族達の長だ」


 タルイス・テーグと名乗った妖精は、金の髪がとても綺麗な美人さん。宝塚で主演も出来そうな程の整った容姿は、今まで会ってきた美女にも負けない程。


「タルイスに先を越されちゃったわね。あ、私はシブよ。向こうの風がよく吹く丘の上に住んでいるわ」


 青緑の髪は肩甲骨の辺りまで伸びていて、風が吹く度にサラサラと揺れている。シブは丘の上で妖精達の守護者として、飛んできたドラゴンの悉くを水に沈めたらしい。


「ふふ……はじめまして、歌姫さん。私はヴィルデ・フラウと言うのよ」


 ヴィルデ・フラウは結構危険な妖精で、気に入った子供や男性を自分達の里に連れて行って、永遠とその里でお世話をするそうだ。


 荒野に住んでいる妖精で、総じて髪が長い一族であるらしいが、幾ら家庭的とはいえ連れ去った子供や男性を自分達の里に幽閉するようなことをされると、こちらの方が悪い妖精に思えてしまうね。


「まぁ、妖精や精霊は存在が生活に反映されやすいからな。風の精霊なら旅好きが多いし、ウンディーネだと人の世話をするのが好きな者が多い」


「良くも悪くもありのままで生きてるのよ。だから、邪妖精達は私達以上に危険な存在なの」


 朗らかだった妖精達は、雰囲気こそ変わらないが真面目な口調で、お茶とお菓子を楽しみながら私に言い聞かせるように話し始める。


「妖精に区分される種族は存在や本質が自分達の生活や行動に反映されるの。子供好きと言われれば子供の世話が好きになるし、家を守ると言われれば人の家に住み着くようになる」


「その点、邪妖精達は決別の時に明確に我らよりも優れているという意識に囚われ、甘言や虚言を用いて人を騙す事を悪と思わなくなった」


 邪妖精が生まれた原因は、選民思想に染まったハイエルフと呼ばれている者達と、そのハイエルフが生まれるように甘言を囁いたゼウス達。


 妖精が周りの影響でその在り方を変えるというのならば、ゼウスやハイエルフ、そして腐りきった帝国の人間の思想に染まった彼らがどのような存在になっているのか、想像するに難くない。


「アマネ。もし、自らを妖精と名乗る者が何かしらの取引を持ちかけてきたとしても、絶対に応えるんじゃないぞ」


「妖精のイタズラというものも存在によって変わるものなのだ。邪妖精の悪意がどれ程のものなのか、最早私達にも想像できない」


「わかりました。妖精と名乗る相手からの取引には応じない、ですね」


 私の言葉に肯定を返すモルガン達。その顔は、まるで我が子を見るような、とても優しいものだった。

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