第627話

 さて、ここで予想外だったのはこのキャラバンにラーディンの群れまで加わってしまったことだろうか。


 元々、グレーエレファントはヴェラージの人々と仲が良く、場所や地域によっては村落で彼らの食べる食料を用意して、それを与える代わりに力仕事を手伝ってもらったりしていたという。


 その為、人里の近くに下りることに対してそこまで忌避感が無いのだ。まぁ、敵対した相手には一切の容赦はしないので、そこまで不用心って訳でもないが。


「というわけなので、彼らも味方ということで……」


 さて、何故そんな話をしていたのかと言うと、実はスタンピードと誤認されてちょっとした騒ぎになってしまったからだ。


 私が先頭にいなかったら普通に攻撃されていたかもしれないけど、偶々話が分かる人がその町の中にいたのでどうにか衝突は免れた。


「いや、助かると言えば助かるんだが、急に大勢引き連れてこっちに来られると心臓に悪いから、先触れでも伝言でもいいから知らせて欲しかったな」


「す、すいません……」


 まぁ、その話が分かる人っていうのはアシュヴァッターマンのことなんだけどね。


 丁度、レン国から派遣された義勇軍の第二陣が到着したらしく、それ関係のお仕事でこの港町アレベロまで来ていたそうだ。


「まぁ、そういう理由なら問題はない。この場所はヴェラージと他国を繋ぐ要所だ。その守りをより固められるのなら諸手を挙げて歓迎しよう」


『あぁ、任せてくれ。既に依頼料をたんまり貰っちまってるからね。ここに限らず、護衛の手がいるなら幾らでも貸してやるよ』


 ジョンとアシュヴァッターマンは互いに笑みを浮かべて顔を合わせており、ハッキリ言って初対面の筈なのに知己の友のような雰囲気を醸し出している。


 これは、お互いに歴戦の猛者であるから同族的な意味で親しみを感じているとかそんな感じなんだろうか。


 まぁ、そんな事は別にいいか。仲が良い分には問題無いわけだしね。


 ちょっとざわついた港町も、特に敵意があるモンスターが攻めてきた訳ではないと分かると、すぐに落ち着いて元の生活に戻っていく。


 というか、港町に集まったコボルド達を相手に料理や消耗品の類を売り付けようとしている辺り、商魂逞しいというかなんというか……


「それにしても、義勇軍の人達の評価は悪くないんですね」


「あぁ、そうだな。ヴェラージも国土と言う意味ではそこそこ広い分、義勇軍という戦力が来てくれた事で警戒網の穴を塞げるようになったからだ」


 元々監視の兵士を帝国領となった南部との境に配していたのだが、純粋な兵士は居らず所謂民兵や自警団程度の者が国境警備についていた。


 ただ、ハッキリ言って専門でもない民兵や自警団で厳重な警戒網というのは実現不可能。場合によっては正面衝突が起きて戦争の火種にもなりかねない。


 その為、警備というのもあくまで都市部を中心としたもので、村落や小規模の町にまでは手が回っていなかったらしい。


「義勇軍のお陰で幾らか警備面の強化も出来たし、入り込んでいた賊も大分駆逐できた。今じゃ何処も彼処も義勇軍が来ると歓迎の宴を開こうとするくらいだ」


 どうやら、義勇軍はヴェラージの人達の英雄のようなポジションを獲得したらしい。


 当の本人達も悪い気はしないらしく、中には現地の人と恋人になったり、孤児の子供を家族に迎え入れようかと考えていたりもしているそうだ。


「レン国に向かった難民や出稼ぎの民も多いが、向こうでも壮健なようでな。家族や恋人に宛てた手紙も届いていて、文官連中が仕分けに頭を抱えていたよ」


「ふふ。そこはまぁ、現場の人に頑張ってもらうしかないですよね」


 レン国にヴェラージの難民の面倒を見てもらってるようなものなのだから、その後のフォローくらいはヴェラージで対応しないと駄目だろう。


 と、そんな事を考えていると、今度は港側が少し騒がしくなってきたような気がする。


「……何でしょうね?」


「ちょっと待っててくれ。今確認してこよう」


 そう言って、港側に近くの人を送り出すアシュヴァッターマン。人をかき分けて向かった確認の人は、すぐに人混みの中から出てきてアシュヴァッターマンの元に戻ってきた。


「どうやら、港の周りに大型のモンスターが集まってきているようです!」


「……アマネ?」


「いや、知らないですよ? 知らないですけど、私じゃないと対応出来無さそうですよね」


 山側から来た私がどうやって海のモンスターに渡りをつけると言うのだ。いや、やろうと思えば出来なくは無いんだけどさ。


 まぁ、そんな事を考えていたって仕方が無いので、アシュヴァッターマンと一緒に人の集まる港へと向かうことにした。















 人が大勢集まる港には、大型の帆船も何隻も停泊している。が、一部は停泊しているというより、足止めさせられていると言った方が正しいかもしれない。


 何せ、沖合にはとても大きなウミヘビが身体をくねらせながら頭を出している。しかもそれが軽く見積もっても十か二十はあるのだ。


 そりゃぁ船が出られなくなって当然だ。特に、頭なんてアリゲーターガーみたいな形状になってるし、もし襲われでもしたら一溜まりもないだろう。


「で、目的は何だった?」


「……ティミン伝いで私の話を聞いて会いに来たみたいですね」


 ということで、実はこの騒動も私関係のアレでした。いや、正確に言えば下手人というか下手魚はティミンなんだけどさ。


「……やっぱりアマネが」


「いやいや!? 今回は何もしてない!? 私全然悪くない!!!」


「冗談だよ。ただ、出来るなら港の入口から横に退かしてもらえると助かるな」


「あ、それは確かに。ちょっと待っててくださいね」


 ということで、身振り手振りと声でそのウミヘビ達に横へ移動してもらうように促す。


 向こうもこちらを見ていたからすぐに理解してくれたようで、一度潜ったりしながら船の通り道をキレイに開けてくれた。


「ふぅ……コレで良し!」


「こういうところは流石だよな……」


 さて、今回集まっていた子達なんだけど、なんか海上に見える子達だけでなく、海中にも結構な数が集まってたみたいだ。


 そして、ウミヘビだと思っていたマカラという名前の子達なんだけど、爬虫類じゃなくウツボみたいな体の長い魚類だったことが判明。


 体が大きいので基本的には沖合か深海を泳いでいるらしいが、シーサーペントとは別種。


 というか、シーサーペントは息継ぎの関係上海面付近に多くて、マカラは魚類だから深海の方が多いらしい。後は、シーサーペントと鉢合わせて縄張り争いになると面倒だから深海にいるってのもあるようだ。


 まぁ、強さに関してはシーサーペントもマカラも大差無い。シーサーペントが数の力で、マカラが個の力ってくらいだろうか。


 それと、見えてはいないが海中にはティミンを食べるティミン・ギラという魚が泳いでいるようだ。


 スズキっぽいティミンを更に大きくしたのがティミン・ギラで、大きな口でティミンを一口で食べてしまうからティミンにギラという単語を付けた名前で呼ばれているらしい。


 ということで、そのティミン・ギラを一口で食べることが出来る巨大魚の名前もティミン・ギラ・ギラとなるわけで……


 一応、調べてみたらホントにそういう名前の魚の話があるようなので、名前に関しては手抜きではないらしい。パッと見手抜きにしか見えないけど。


 後は、ルスカという巨大タコがいるようだ。クラーケンの近縁種で、結構な頻度で海上の船も沈めているらしい。


 その黒っぽい表皮は非常に頑丈で、打撃や刺突は勿論、生半可な斬撃では斬ることすら出来ずに弾力で押し返される。


 また、口にはサメのような鋭く尖った牙が生え揃っていて、船どころか竜種すらバキバキと噛み砕いて餌に出来てしまうそうだ。


「海戦と海の警備はこの子達に任せちゃってもいいかもしれませんね」


「その前に、その巨体が邪魔にならない待機場所を用意してやらないといけないな……」


 それは私の仕事じゃないので、アシュヴァッターマンの方で頑張って欲しい。

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