第613話

 クレオパトラ様を無事にパラディオーナの宮殿に送り届ける事ができたので、しれっと転移陣を設置しておいて、クレオパトラ様とニトクリスさんを今度はナールカロの宮殿まで送り届けた。


 で、私達はやることが全て終わったということでクランホームに戻ってきているわけなんですが……


「えーと、これは一体どういう状況?」


「まぁ、こういう状況だなぁ……」


 クランホームには、信長公を筆頭とした戦国武将組に加えて、劉備達三国武将組。更にキングゥやローラン、芹沢さんやドレイクまで勢揃いしていた。


「いや、多分そっち伝いで広まったんだろうけど……」


「クラン対抗戦、どういうものか説明してくれるんだよね?」


「あ……」


 そう言えば、次のイベントはそんな感じの内容だったか。私もそこまで詳しくは知らないので、説明に関しては全てユーリ達に丸投げすることにしよう。


「一応、ユーリ達が戻ってきてから話すって事になってたからな」


「そういうことだ。逃げ場は無いと思ってくれ」


 ソファーに腰掛けながら、のんびりとコーヒーを飲むノーベルがそう返す。


 どうやら、ユーリに逃げ場はもう無いらしい。モードレッド達も詳しく聞きたいようなので、これはもう諦めて説明してもらうしか無い。


「えー……まぁ簡単に言えば、異界人の拠点を使ったチーム戦を近々やるんですよね」


「拠点って、要はココを使ったチーム戦ってことよね? つまり、攻城戦ってこと?」


「そういう認識で構いませんね〜」


 レンファの認識が正しいと、恋華が肯定する。まぁ、ここまで言えばどういうイベントなのかすぐに分かるよね。


 第三回公式イベントであるクラン対抗戦は、専用のフィールドにプレイヤーを集めて、それぞれのクランに分かれて戦うという実にシンプルなイベントとなっている。


 クランリーダーには購入したクランホームを拠点として設置出来るアイテムが用意されていて、使うことでフィールドの好きな地点にクランホームを構えることができる。


「成る程。つまり、このクランホームを専用の界に運び、その場所で展開して居を構える、と……」


「一度設置したら外せないから、そこは慎重に考えないといけないわね」


 そうして設置されたクランホームには三本のフラッグと、コアとなるクリスタルが自動的にセットされるそうだ。


 一応、このフラッグとクリスタルがスコアに関係するものとなっていて、フラッグはリスポーン地点として使えるらしい。


「なんだ、復活できるのか?」


「勿論、ステータスは下がりますけどね~」


「イベント内の時間で翌日になれば下がったステータスも元に戻る。ま、死ぬ事前提の突撃は不用意に出来ないってことだな」


 重要なのはフラッグではなくクリスタルの方で、これはリスポーン地点だけでなく、クランのランキングにも関わる重要なものになるらしい。


「クリスタルは拠点内から持ち出すことは出来ず、壊された時点でリスポーンする事が出来なくなるんですよ~」


「つまり、そのクリスタルを守りつつ他のクランの拠点を陥落させるってことか。成る程成る程、全部理解出来たぜ」


「ん。小さいクランは同盟を組んで、上位陣のクランに挑む。掲示板の流れを見るとそうなってる」


 所属人数の少ない小規模クランは、イベント時には他のクランと同盟を結んで大規模クランに挑む流れが生まれているらしい。


 現状で大規模のクランは翼の騎士団、花鳥風月、サムライブレイダーズ、筋肉同盟、新世界プロレス、働く漢達、情報組など。


 忍者系クランの般若党はサムライブレイダーズ。農民系プレイヤーの集まりである北条連合は生産系プレイヤーの集まりである働く漢達というクランと同盟を結んでいるそうだ。


「ウチも何処のクランと同盟を組むのかって翼の騎士団と花鳥風月のリーダーに詰め寄られたが、ウチらはウチらで同盟を組むつもりはないって答えてきた」


「ま、有象無象を味方にするよかいいだろうな。んで、何か策は考えてんのか?」


 それは私も気になるところだ。このクランのプレイヤーは総勢六名。他のクランは少なくとも三十人以上いるのが普通なので、私達だけで他のクランに対抗するのは難しいとしか言えないのだが……


「それがなぁ……」


「クランホームって、テイムしたモンスターですとか、特定のクエストをクリアして親密度が上がった人やモンスターを守備兵として配置することが出来るみたいなんですよ〜」


「あ、そうなんだ……えっ!? そうなの!?」


 ちょっと待って!? その条件だとここにいる人とかモンスターって、もしかして……!?


「ほほぅ……? つまり、俺達もそのイベントって奴に参加出来る、と?」


「というか、アマネがいる時点でいざとなれば大量召喚っていう選択肢が出来ているのよ」


「ん。もし攻められたとしても、アマネが呼び出したモンスターで簡単に撃退できる」


 どうやら、クランホームの防備は知らず知らずの間に完璧になっていたらしい。


 いやまぁ、以前から「もしここが帝国に攻撃されたとしても、陥落することは有り得ない」とか言われていたけどね。


『となると、ここの守りをより固めることが必要となってくるな』


『この拠点の改築の件はどうなっている?』


「――今から急ぎでやってやるよ。勿論、人員不足なんでそこら辺の手は貸してもらうがな」


 信長公と劉備の話に答えを返す甚五郎。頭に鉢巻を巻いた姿は、熟練の大工の雰囲気を醸し出している。


「大使館の建設はいいの?」


「知り合いと弟子に任せてきた。ウチの殿様がその話を聞いてすぐに手を貸してやれってな。設計図も既に描いてあるから、人手と材料だけ用意してもらえればすぐに作り始められる」


『なら、暇な連中を全て駆り出すとするか』


『ウチも力自慢は多いのでな。暇潰しにも丁度いいだろう』


「資材に関してはここに貯蓄分もあるとは思うけど、一応こちらでも幾らか提供させてもらおうか」


「石材の切り出しはゴーレムを使えば良い。彼らなら体の一部を切り落とす形で、かなり上等な石材が手に入るからな」


 そうと決まれば善は急げと、一斉に動き出す甚五郎や信長公、劉備達。キングゥは資材の提供もしてくれるようだし、ノーベルはノーベルで資材の当てを教えてくれる。


「ルテラ、主要なクランを教えてくれ。出来るならそこの人員と、兵科の種類もだ」


「え? まぁ、幾らかは出来なくもないけど……」


『何時までも防衛戦を続ける訳にはいきませんからね。打って出るとしても、敵の戦力が把握出来なければ痛いしっぺ返しを食らうことになる』


『というわけだ。知ってる限りでいいから、情報の共有をしてくれると助かるよ』


 オデュッセウスら軍師組に捕まったルテラ。クラン対抗戦に備えて作戦会議と言うが、諸葛亮孔明に竹中半兵衛、黒田官兵衛、陳宮に司馬懿と、人材の層があまりにも厚過ぎる。


『防衛戦となると矢と弾か。門上には楼閣を作るとして、兵らが詰める櫓も用意せねばな』


『いや、何方かと言えば狭間の方が悪くないかもしれん。確か、キャメロットやマギストスの城には歩廊と呼ばれる場に狭間があるのだよな?』


「そうだね。いざとなれば身を隠す盾にもなるし、射撃兵を詰めるというのならその構造の方がいいかもしれないな」


 モードレッドが真面目に城壁について考えているようだが、この面子で城壁って明らかにヤバい予感しかしないんだが?


「まぁ、こうなったら諦めるしかないよね……」


「ねぇ龍馬、後で稽古してよ。流石にクランのリーダーやってるわけだし、鍛え直しておかないとバカにされる」


 おっと、ユーリも何か火が着いたようだ。自分から稽古を頼むことは珍しいんだけど、戸惑うことも無い辺りかなり真面目に考えていると思う。


「ふむ、いいだろう。鴨、少し手を貸してもらってもいいか?」


「ウチの連中も借りたいってことだろ? まぁ、俺もアマネの嬢ちゃんには借りがあるからな。好きなだけ扱き使ってくれて構わねぇよ」


『儂等も混ぜてもらおうか。儂等はこれでも門弟を抱える道場主であるわけだからな』


 龍馬と芹沢さんのやり取りに混ざるのは、嘗てスメラミコトで道場主をやっていたり、各地を巡って修行の旅を行っていた剣豪。


 その人の名は新免無二といい、他にも上泉信綱というお爺さんや、塚原卜伝というお爺さん。それと伊藤一刀斎という若い人に、林崎甚助という居合の達人だという武将の方も顔を出していた。


 これは多分、かなりハードモードの特訓になりそうな予感がする。頑張って生き延びてね、ユーリ。

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