第594話
フライング・ダッチマンの残骸は、燃えているものもいないものも次々と水底へ沈んでいく。亡霊船と同じ扱いなら、船長不在のフライング・ダッチマンも当然ながら海に還る。
「いやぁ……終わったねぇ」
後に残るものは何も無い。あるとしたら海上の要塞と化しているヤマトが、代わりの護衛と言わんばかりに近くを航行していることくらいだろうか。
押し寄せる波が返り討ちにあって弾き返されている鋼鉄の巨城は、どんな敵が現れてもいいように砲塔を動かしている。
「……お姉? 私は何を隠し持っているのか素直に全部吐いちゃった方が楽だと思うんだ?」
「機密情報なんで駄目。流石にコレはどうしようもなかったけど、他の情報は出したら色々ヤバい」
ギガンティック・ノヴァは完成しているらしく、その分の人員を列車や軍事衛星、飛行戦艦に回しているそうだ。
目の前のヤマトもほぼ完成状態で、後は武装の試験運用とチェックを済ませてしまえば良いという段階に進んでいる。
「……『アビスフォート・ヤマト』ですって。改造されてスッカリ名前が変わっちゃったわねぇ」
「でも、ヤマトの部分は同じなんだよね」
アイアンシップ・ヤマトはその名前をアビスフォート・ヤマトに改名しているらしい。
まぁ、グレードアップとかで名前が変わるのはよくあることだし、正直変わっても『ヤマト』って略すことになるからあんまり変わんないかな。
「三連装砲……ミサイル……魚雷……滑走路……?」
「すっごく近代兵器してますね〜」
「……コレ、アマネの個人所有物なの?」
「ん。だとしたらアマネはプレイヤー初の船主。しかも超弩級戦艦」
「お姉、お願いだからちょっと自重して?」
いや、ヤマトを改造したのは私じゃない……いや、そもそもヤマトを生み出した大元は私だった。
でもまぁ、戦力としてなら心強いことこの上ないでしょ。ほら、現にフライング・ダッチマンが消し飛んでるわけだしさ。
「この火力の砲撃で攻撃したら、まず間違いなく地形が変わるわよ」
「そうだね。威力的に山の一つや島の一つは余裕で消し飛ばせるだろう」
「アマネ。ポンポン撃たせないように伝えておいてくれるな? 特に最後のアレは」
「あっはい。それは勿論です」
物凄く真剣な表情でワシントン氏に釘を差されてしまった。確かにあの威力の攻撃を乱発されたら、流れ弾的な意味でも恐ろしい。
一応、一回撃つと暫く冷却時間が必要になるので、そうポンポンと撃てるような代物ではないんだけどね。
「取り敢えず、ドレイク達の代わりにヤマトが近くまで護衛してくれるそうなので、早くアラプトに向かいましょうか!」
「まぁ、そうだな。あの巨艦がいれば、並大抵の相手は警戒してこちらに攻撃などしないだろう」
ヤマトの攻撃力だとドラゴンやシーサーペントなんかも一発で倒せるだろうからね。
……あ、でも天使に見つかったらヤバいか。やっぱヤマトには隠れてもらわないと駄目かな?
と思っていたら、徐々に水中へと潜航していくヤマト。そう言えば、水中でも航行可能でしたね……登場時のことをすっかり忘れていた。
「潜水艦の機能もあるってどうなってるの……?」
「……こうなってる?」
ぶっちゃけ、どういう技術が使われているのかはやらかした本人にもわからないので、聞かれても答えられません、ハイ。
友人帳にドレイク達の愚痴と文句が乱れ飛んでいた事以外は、特に大した出来事もなくアラプトの港町へと辿り着くことが出来た。
尤も、喫水線の関係でヤマトは途中からついてこれなくなり、残念ながら最後まで同行出来なかったけどね。
「丁度いい感じに朝方ね」
「新しい朝がキターッ!!!」
「ヤマトのお陰でゆっくり眠れたな」
ヤマトという戦艦は、周辺のモンスターにとっても恐れ警戒する対象だったらしい。
挨拶をしに来るモンスターが来なかったのはちょっと寂しかったけど、あの大騒ぎを見ていたからか寧ろ静かで眠りやすいなぁ……って意識の方が強かったりして何とも言えなかった。
「おぉ、見えてきたな。アラプトの港町エムレスだ」
「むぐ……彼処が、エムレスですか」
甲板で朝食を食べながらのんびりしていると、ワシントン氏が明るくなって見えてきた港町を指差す。
アラプトの港町エムレスは、ナールカロからかなり近い南側の港町で、私の影響もあってかここ最近は船舶の往来も激しいそうだ。
「向こうも気付いたようだが、まぁゆっくりする時間はあるだろう。ユーリ達も今のうちに軽く身嗜みくらいは整えておけ」
「……お姉は対象外なの?」
「アマネはいざとなればここに腕のいい仕立て屋を呼んで、すぐに衣装の一つや二つ用意してもらえるからね」
仕立て屋ってアリアドネのことだよね? そんな気軽に呼べる人じゃないんだけどなぁ……
まぁ、確かに呼べちゃうけど。何ならアラプトの布を使えるとか言ったら嬉々としてこっちに来る気がする。
「エムレスの名物は?」
「海産物はどの港町でも名物だが……珍しいものだと、食用サボテンのステーキという料理があるな」
カエサル様も一度食べたらしいが、サボテンとは思えない程味が良くて、しかもスパイスたっぷりのソースとの相性が抜群だったらしい。
また、サボテンフルーツのジュースもとても甘いドリンクだし、ナツメヤシの実をコーティングしたものはとてもいい甘味として有名なんだとか。
「御土産になりそうなものは多そうだね」
「調度品の類も独特なものが多いからな。今のうちに家具等を買っておいても悪くはないかもしれんぞ?」
「改築が終わってからレイアウトする形になるけど、アラプト風の部屋があるのも悪くないかも……」
ユーリがすっかり乗り気になっているけど、購入費用は誰が出すと思ってるのかな?
まぁ、私も気になるから全額出すつもりでいるんだけどね。だって絶対お洒落な家具とか調度品とか多いと思うし。
「おーい! そろそろ港に入るから、忘れ物がないかだけ確認してくれ〜、だってさ!」
「あ! 部屋にトランプ置いてきた!?」
「オイオイ……他所様の船なんだから、忘れ物とかしてくんじゃねぇぞ……?」
ゴリアテに注意されたユーリは、忘れ物のトランプを取ってくるために大慌てで船室へと戻っていく。
なんかもう、スッカリ修学旅行の気分だ。私は行ったことがないからわからないけど、多分こんな感じ何だと思う。
「……ユーリ達と遠くまで旅出来て良かったなぁ」
「アマネ? 勝手に終わらせないで頂戴?」
「まだ目的地には着いてませんからね〜?」
「王都まで行くっつってたろ!?」
あ、勝手に終わりの雰囲気を漂わせたら、ルテラ達から思いっきりツッコミを入れられてしまった。
でも、なんかこうして軽口を言えるような相手が出来るなんて、正直思いもしなかったな。
私がこの病になってから、家族以外の人で他愛無い話が出来るとは思ってなかった。医師の診断でも、治るかどうかは私次第ってことだったしね。
もう、私は一生分の運を使ったんじゃないかってつくづく思うよ。特に、出会いって意味での運をね。
「お姉! 帰ったら皆でトランプやろう! それと、ウノもあるから!」
「……ちょっと待って? なんかそのウノデカくない? 人生ゲームの隠語か何か?」
「通常の十倍の内容量の『大人数用ウノ』だよ! プレイヤーメイドの一点物だったんだ〜!」
何それ、絶対ヤバいやつじゃん。モードレッド達とやるとしても、絶対終わらなくなるって。
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