第578話
どうやら、この洞窟は元々エーディーンが存在していた大陸の洞窟らしく、ゼウスがここにプロメテウス神を幽閉した後、邪魔になるからとこちらの大陸へ投げ捨てたらしい。
「この熱波はプロメテウス神の体から出ていたものだったんだ……」
「あぁ、そうか。確かに私の体は大きな熱を発していたな。流石に暑いだろうし、少し抑えるか」
そう言って、赤っぽい肌が徐々に黒くなるプロメテウス。もしかして、熱を放出していたから全体的に赤くなってたの?
「さて、この洞窟は元々火山で、一応こちらの方に外へ出る穴が空いているのでな。何時までもここにいると暑さで参ってしまうだろう? この穴から外に出ると良い」
「ありがとうございます! えと、それじゃぁ誰を呼ぼうかな……」
「あぁ、それは不要だ。私と同じく、長き封から解放された友にその役目を任せよう」
私が空を飛べる誰かを呼ぼうとするのを止めたプロメテウス神は、軽く指笛を吹いて近くの横穴に目を向ける。
すると、その穴の中からとても大きなハゲワシが、赤っぽい体を少しばかり引き摺るようにして広間にゆっくりとやってきた。
「すまないが、傷を癒やしてもらってもいいか?」
「これくらいならお手の物さ」
ルジェが再び指を鳴らしてハゲワシの傷を癒やすと、元気になったハゲワシはバサバサと翼をはためかせて喜んでいる。
「このワシは……」
「エトンという、ゼウスによって私の腸を喰らうように呪われたハゲワシだ。あの十字架と紐付けられた呪いだから、コイツも解放されている」
このエトンというハゲワシは、封じられていたプロメテウスの腸を啄み喰らうようにゼウスに呪われてしまったそうで、火の神であるプロメテウスの肉を喰らって自らの身を焼いていたそうだ。
ボロボロの身体中にある傷跡は、噴出した血を浴びて負ってしまった火傷だという。体の内外から焼かれていれば、そりゃボロボロになって当然だ。
「怪我が治ってよかったね」
「外まではそのエトンが連れ出してくれるだろう。私は、この洞窟の中で来たるべき時に備えて体の疲労や鈍った腕を整えておく。必要があれば、遠慮無く私を呼んでくれて構わないぞ」
元気になったエトンが任せろ! と言わんばかりの眼差しでこちらを見ている。なら、遠慮無くその背中を貸してもらうことにしようか。
「じゃぁ、早く皆も乗ってね〜!」
「うっ、うん!」
ちょっと放心していたユーリ達も、モードレッド達が平然としてエトンの方に向かっているのを見て気を取り直したみたいだ。
駆け足気味でエトンに近付き、ゴリアテに背中へ放り投げられる形で上へ飛ばされて、次々と背中へ不時着していく。
「思ったよりいい羽根……これ、ここで寝れるかも」
「ちょっとゆっくり出来そうでいいですね〜」
「飲食自由だけど、食べこぼしはしないように。この子に迷惑が掛かるからね」
大鵬とは違うのでユーリ達に軽く注意だけしつつ、私は最後にプロメテウスの顔を見て口を開く。
「それでは、またいつか!」
「あぁ、またいつか、だな」
私とプロメテウスの言葉を聞き終えたエトンが、一息に翼を広げて飛び上がり、あっという間に外へ繋がる穴を通り抜けて外へと飛び出した。
「ここまででいいよ。それと、こんな遠くまで送ってくれてありがとう!」
久々に自由になって、気持ち良さそうに空を飛んでいたエトン。私達が乗っていると飛ぶのに気を遣うだろうから、途中で見つけた湖のほとりで降ろしてもらった。
多分、このままエトンは気が済むまで空を飛び回り、それからプロメテウスのところへ戻るのだろう。
「んじゃ、ここでちょっと休憩してから旅の再開って感じにしよっか」
「賛成! ちょっと早いけどみんなで晩御飯にしよう、晩御飯!」
流石に一息つきたいところなので、ここら辺で一度休憩を挟むことにする。料理関係はクランホームから食材を取り寄せて作るとしよう。
私が食材を取り寄せている間に、モードレッド達はテキパキと焚き火を作って火を点けていた。
「ここの湖に魚はいるのかな?」
「こんだけデカいなら大物も小物もいるだろう。取り敢えず、釣り竿と必要なら網も用意しておかねばな」
「アマネ! 倉庫に丁度いい銛がなかったか?」
「ありますあります! そこに置いておきますね!」
取り敢えず、野菜類の木箱と鶏肉の木箱、そして各種調味料と後は要望があった品々をポイポイと取り出して置いておく。
銛は恐らくだが釣った魚を仕留めるのに使うのだろう。この世界、大きい魚だとホントにクマとかよりデカいからね。
「なんか、すっごく準備が良いと言うか……」
「アマネの旅だとこんなの普通よ。あ、野菜切るから手伝って」
「おぅ、わかった。そっちの全部切っちゃっていいのか?」
「どうせ男共が綺麗サッパリ食べ切るんだから、多少作り過ぎたって構わないわよ」
用意の早さにちょっと困惑していたユーリ達も、ヒビキの指示に従って料理の手伝いを始める。
あ、ちなみに私はクランホームにあるお高いお肉を切っている。ユーリ達はまだ料理スキルが育っていないから、高レベル帯の食材は私じゃないと調理出来ないのだ。
「焼くだけならいけるから、串に刺したやつどんどん焼いちゃって」
「ん。わかった」
「どんどん焼いちゃいましょうね〜」
今回の夕食は野趣感溢れる串焼きをメインにしている。焚き火でバーベキューって中々出来ないよね。
「うっわ!? モロコシ硬ぇ!?」
「あ、それは私がやるわ。代わりにこっちのトウモロコシに醤油塗ってって」
「金網ってコレ使えばいいのかしら?」
「そうだな。今、網を乗せるかまどを作るから少し待ってくれ」
「どれ、もう少し焚き火を増やすか。このままだと焼き場が足らなくなりそうだからな」
そんな感じで全員で料理していたわけなんですが、約一箇所とんでもなく騒がしいところが御座いましてねぇ、はい。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!! これは大物の予感が来てるぞぉぉぉぉっ!!!!」
「いけいけいけぇ〜っ!!! 大物釣って丸焼きにしちゃえぇぇ〜っ!!!」
ゴリアテとユーリが釣りで大盛り上がり。なんか大物が掛かったらしいけど、調理に参加しないで遊んでるようにしか見えないんだよなぁ……
隣のモードレッドとロビンは、ちゃんと釣った魚を串に刺してから渡したり焚き火の側に立てたりしてるから、余計に温度差が酷いというか……
「……ねぇ、あの喧しいのどうにか出来ないかしら?」
「あ、ごめんなさい。アレは無理です。多分止めたところで聞きません」
切るもの切ってやることが無くなった私に、紺色のゴスロリ美少女が迷惑そうにゴリアテを睨みつつ、こちらに止められないか聞いてきた。
普通ならこの少女が誰なのか困惑するところなんだろうが、ヘビっぽい尻尾や紺色の縦向きの瞳孔を見たらすぐに人じゃないとわかったからね。
「人の家に勝手に来ては、家主の許可なくどんちゃん騒ぎをするのがあなた達の礼儀なのね?」
「それに関しては申し訳無いです……あ、一緒に晩御飯とかどうですか?」
「いただくわ。家主権限で遠慮無く食べるつもりだったけどね」
良かった、どうにか和解出来そうだ。名前とか全然聞いてないけど、悪い子では無さそうだしこのまま持て成す形で満足してもらおう。
「あぁ、そう言えば名前を聞いてなかったわね」
「異界人のアマネと言います。差し支えなければ、貴女の名前も御伺いしてよろしいですか?」
「……レヴィアタンよ。長かったらレヴィアとでも呼べばいいわ」
…………レヴィアタンって、嫉妬の悪魔じゃなかったっけ?
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