第577話
ベルフェゴールに続き、ベルゼブブという七つの大罪の悪魔と友誼を結んだところで、私達は怪しげな洞窟を見つけていた。
「なんか、ここら辺物凄く暑いよね?」
「中から熱波が出ているのだろうが……それにしては、何故このような場所でと聞きたくなるな」
「周りに火山があるようにも見えませんしね〜」
異様な暑さの洞窟周り。肝心の洞窟からは中々の熱量の熱波が出ているようだが、これが影響して周りの温度を上げているのだろう。
私は中に入っても大丈夫だけど、他の面々はキツいような気がする。いや、ヒビキは私のスキルとかコピーしてるから行けるか。
「取り敢えず、全員に熱耐性と火耐性でも付与しておこう」
「じゃ、僕も便乗して。これで多少は抑えられるんじゃないかな?」
「おぉ〜! めっちゃ涼しくなったな!」
「流石師匠ね……」
と思っていたら、オデュッセウスとルジェが全員に熱耐性と火耐性を強化する魔法を掛けてくれた。二人共指パッチンで付与しててちょっとかっこいい。
「よっしゃ! このまま洞窟もちゃちゃっと探検しちまおうぜ!」
「勢いは大事だからね。アマネ、いつも通り頼むよ」
「ソレは問題無いので御心配なく」
ということで、早速全員揃って熱波の洞窟の中へと足を運ぶ。私に関しては火属性吸収と風属性吸収があるので、熱波が体に当たる度にHPが回復している気がする。
他の面々は暑そうだけど、私に関しては汗一つかいていないからね。熱波は火属性と風属性って、覚えてて損はないと思うよ、ユーリ。
「すっごく今更だけど、お姉の耐性どうなってるの……?」
「熱波は火属性と風属性だからねぇ……どっちも吸収になってるから、多分ここだとダメージ食らわないっていうか、寧ろ回復してると思う」
「なんだそのめちゃくちゃな防御力……やっぱアタシより盾役してんじゃねぇの……?」
「魔法限定かしらね……でも、HP回復も何も元々の数値が数値だし、ダメージ食らってないんだから回復しても意味ないわよね」
「ん。物理攻撃でワンパン?」
即死無効があるのでツーパンです。まぁ、殆ど誤差に近いけどさ。
そんなことはさておき、この蒸し暑さの中で元気に飛び回るコウモリ達が最初のお出迎え。赤っぽい岩ばかりの洞窟だから、赤色のコウモリ達は燃えていなければうっかり見逃してしまいそうだ。
このコウモリ達はフレイムバット。熱い場所に生息しているコウモリで、火山地帯の洞窟だとかなりポピュラーなモンスターであるらしい。
全身火達磨で、羽ばたきで火の粉を飛ばしてきたり、燃えている体で体当たりを仕掛けてきたりと、戦う相手としてはかなり厄介なモンスターだという。
尤も、防御力自体はそこまで高くはなく、水を掛けたら火が消えて暫くの間は再点火もしないそうだ。
「この場所で水……?」
「普通は無理だな。ただ、やろうと思えば出来なくはないぞ」
そう言って手のひらの上に水球を浮かべるオデュッセウス。ルテラを見たら無理無理と首を横に振られたので、オデュッセウスのようなレベルの術者でないとこういったことは出来ないらしい。
水球を見てちょっとビビっているフレイムバットの後方から現れたのは、全身が真っ赤な大サソリ。名前もそのまんまなレッドスコーピオンだ。
レッドスコーピオンは砂漠地帯だけでなく火山地帯でも生息できるようになったサソリで、赤い体は暑い場所に住んでいる証でもある。
毒針もハサミも強力だが、一番強力なのはその熱耐性と火耐性。甲殻は溶岩に浸しても溶けることなく残る程に頑丈なのだ。
そのため、レッドスコーピオンの防具というのは砂漠や火山のような高温のエリアを探索する際に愛用されている。
「尾針が刺さると焼けるような痛みに苦しめられるから、もし戦うことがあったら気をつけるようにね」
「ん。毒矢の材料にいいかも」
「そんな感想が出てくる辺り、私達って大分アマネに染まってきたわね……」
弓月の反応に何とも言えない表情を浮かべるルテラ。ぶっちゃけ今更感しかしないから、そこら辺を気にする必要は無いと思うよ。
「あ、今度はザリガニ? それともロブスター?」
「ザリガニだね。スカーレットシュリンプだってさ」
若干レッドスコーピオンと被ってるような気がしなくもないスカーレットシュリンプだが、近似点の多い見た目に反してその戦闘方法は全然違う。
共通しているのはハサミでの攻撃だけで、それ以外の攻撃としてなんと口から溶岩のブレスを吐く事ができる。
オマケに甲殻は溶岩の熱を溜め込んでいるので、並の武器では傷一つ付けられないどころか、逆に甲殻内の熱で武器を溶かされてしまう。
「ハサミも高温だから、金属鎧でもドロドロに溶かされながら体を切られるんだって」
「うわぁ……この子、ウチに来たら火事になっちゃうんじゃない?」
「熱は抑えられるみたいだから、遊びに来る時は火気厳禁を徹底させればいいでしょ」
最後にこちらに来たのはヒートニュートという大型犬サイズのイモリ。軽自動車サイズのレッドスコーピオンやスカーレットシュリンプと比べると、大分可愛く見えてくるなぁ。
ただ、その能力はかなりのもの。この子は敵に襲われると赤いお腹を赤熱させて、自身の身体を覆う体液を炎上させて身を守るそうだ。
これがタダの体液なら燃えてるだけだとあまり意味はないのだが、実はそこにも仕込みがある。
というのも、ヒートニュートの体液には強い毒性があり、燃えるとあっという間に気化するので吸い込んだ相手が逆に毒で苦しめられるのだ。
燃やさなければ気化しないのだが、逆に言えば一度燃やすとガソリンもビックリの早さで毒が充満する。
下手な練炭より何倍も危険な毒物だけど、毒抜きすれば着火剤として使えるそうだ。すぐに火が点くし、ほんの僅かな量であっという間に燃え上がるから結構便利な代物らしい。
「それにしても、奥に行くに連れて段々熱量が増してきたな……」
「あっちぃ~……ノルドの寒さのが数段マシだぜ、こりゃぁよぉ……」
「水と塩を適度に補給しないとだめですね〜」
出会った子達を引き連れて奥まで進んでいるが、やっぱり奥に行けば行くほど熱くなっているようだ。
多分、付与が無ければユーリ達はここら辺で倒れてしまっていても……いや、全身が燃えていてもおかしくない。
「これ、火耐性装備を作って初めてここに来れるようになる場所だよなぁ……」
「それも、多分海を越えてマギストスとかに行ってから作るような高レベル帯の装備よね……」
あまりの暑さにげんなりしているエルメとルテラ。ユーリと弓月は暑過ぎて口数も大分減ってきているように思える。
ただ、それもあと少しの話かもしれない。この洞窟の奥へと進んでいるわけだが、そろそろこの熱波の大本に辿り着きそうなのだ。
「この先の広間ですかね?」
「多分そうだろうね。何がいるかはわからないけど、アマネがいるならきっと良縁になるだろうさ」
楽観的なモードレッドに他の面々も静かに頷いている。まぁ、今までの旅を見てきた彼らからしたら、大抵の相手は出会ったところで大きな問題にはならないと私を信用しているのだろう。
その信用に応えるべく、私は熱波の大本があると思われる広間に足を踏み入れて――――
「――――――オデュッセウス!!!」
「任せろ!!!」
私の声に、オデュッセウスが即座に杖を振る。
すると、ピシリという音と共に白い十字架にヒビが入り、拘束されていた巨人が破片と共に地面へと倒れ込む。
「…………ぁ、あ。すまん、な。久しく、声を、出しておらん、から」
「これは私の仕事だね」
パチン、と指を鳴らしたルジェ。ガラガラ声で喋るのもキツそうだった巨人は、喉が楽になったのか驚いた様子で声を漏らしている。
「お、ぉ……ありがたいな。まさか、この身に自由を與えてくれるどころか、体の傷まで癒やしてくれるとは……」
「ご無事で何よりです。あ、私はアマネと申します」
私は代表として、炎のような赤髪の巨人に名を名乗りながらペコリと礼をする。すると、その巨人も釣られるように頭をペコリと下げて、それから自らの名前を教えてくれた。
「私の名はプロメテウス。嘗て火の神と人に崇められた者だ。尤も、今の世に私の名が知られているかどうかは疑問だがな……」
「なんと、プロメテウス神か! まさか、人々に火をもたらした偉大なる神の一柱に会えるとは……」
オデュッセウスが驚いていたが、プロメテウスというこの巨人は嘗ての火の神であり、テュポーンと同じティターン神族と呼ばれている神々の一人であるそうだ。
ウラノスやクロノスにも一目置かれていた神で、人々の為に火を与えて戦う力や生き残る為の力を授けたとエーディーンで崇められていた神様らしい。
「私がこの地に封じられてから、世の事は全く分からなくなってしまった。すまないが、今の世がどのようになっているのか教えていただけないだろうか?」
「えぇ、いいですよ。寧ろ、プロメテウス様には私の御話を聞いていただきたいくらいですから」
そうして、私はエーディーンの崩壊と、そこからゼウス達がもたらした世界に対する災禍について、知り得るもの全てをプロメテウスに話した。
話し終える頃にはプロメテウスの顔は厳しく、眉間にも幾本ものシワが寄せられて、喉からは怒りを堪えるかのような唸り声が漏れていた。
「――以上が、私の知り得る世界の流れとそれに纏わる話となります」
「あぁ、ありがとう。それと、私もその同盟に加盟したい。ゼウスらは、ウラノス様やクロノス様の仇であるからな」
「それは願ってもないことです! プロメテウス様が同盟に加われば、ゼウスらを討つ大義名分も形にできるでしょう!」
こうして、プロメテウス神の名前も私の友人帳に記されることとなった。
というか、マルテニカにヤバい悪魔とか神とか多過ぎないかな?
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