第575話
装甲列車開発はリキッドメタルゴーレム達に任せることにして、私達は再び進路を修正しつつ西の港町へ向かって進んでいた。
「列車が完成したら、それで旅も出来るかな?」
「つっても、あの大きさだからなぁ……何も知らないやつが見たらモンスターだと思うんじゃねぇか?」
「実際、モンスターみたいなものだからな。動力にゴーレムに関係する技術を使う以上、恐らくだがゴーレムの一種として扱われるだろう」
ということは、他の巨大戦車とか飛行戦艦とか人工衛星とかもゴーレム扱いになるのか……
「サイズ的にゴーレムとして扱うのは無理がありそうですけどね~」
「……いや、まぁ。アマネならそれくらいデカいゴーレムと仲良くてもおかしくないんじゃない?」
お、ルテラ正解。めちゃくちゃ超巨大なゴーレムとも仲良くなってるよ。しかもドリル付き。
そんな緩い会話をしながら、のんびりと森の中を進んでいく。ただ、話の内容は徐々に別のものへと変わっていった。
「そう言えば、例の病って何なの?」
「帝国の神ゼウスとその一派が掛けた呪いだな。あまり声を大にして言えるようなものでもないし、歴史書でも謎の病として記録されているから病で通しているんだ」
「避難民に呪いを掛けるとか、ホント碌でもねぇ神様だな……」
「己の父を殺して全権を奪取するような強欲にして傲慢な神だからな。ゼウスの暗躍で滅びた国など、もう数え切れん程だ」
「多分、それらの国が残っていたら今の倍くらいは同盟国が増えていたわね」
そんなに滅びていたのか……いや、確か小国家群を混乱の渦中に叩き込んで、内乱や戦乱で一気に弱体化させたんだっけ。
そうして弱った国々をエーディーン崩壊後に一気に平らげたことで、小国家群は綺麗サッパリ帝国に呑み込まれた。
今のマギストスの東部地域はその小国家群があった場所らしいし、あの広大な国土の半分以上は元々別の国のものだったんだから、一体どれだけの人の命が失われたのか見当もつかない。
「私の祖国もその戦禍により滅びたからな。ゼウスらにはその分をキッチリ返してやりたいと思う」
「オデュッセウスの故郷もかぁ……そう言えば、ルジェもそうなの? 確か、エーディーンって国の人だったんじゃなかったっけ?」
「まぁ、確かにエーディーン出身だけどさ。何方かと言えば、国を失った事より恋人を謀殺された事の方が恨む理由になるかな」
「戦う理由なんざ探せば幾らでも出てくるからなぁ。一番大事なのは、戦う理由より戦って何処までやるかだと思うぜ?」
「ん。何事も引き際が肝心。終わり方を考えないと泥沼にハマる」
弓月の言うことはとても正しい。多分、帝国の崩壊というか解体はするとして、ゼウスらは穏健派の神を残してそれ以外は全員討ち取る形になると思う。
後、帝国の植民地になっているエリアも然るべき国の領土として返還されるか、独立して頑張るような感じになるかな。
「まぁ、今はそれより目の前のモンスターだね。アマネ、全部大丈夫そうかい?」
「そうですね。この子達は大分落ち着いていますよ」
私達の前に現れる大きなモンスター達。緑色の体色をしたその子達は所謂カマキリと呼ばれている生き物だが、そのカマはカニのようなハサミになっていた。
名前はギロチンマンティス。大きなハサミを武器としているカマキリで、セダンサイズの体に見合う両手は非常に頑丈だ。
ハサミの斬れ味は相当なもので、金属製の防具で守っていても、場合によっては一息でサクッと斬り落とされてしまう。
特に、背後からひっそりと忍び寄って獲物の首を斬り取る戦法を得意としているそうだ。尚、場合によってはそのハサミで殴りかかってくることもあるらしい。
「ギロチンってそういうことなんだ……」
「森に隠れていたら気付ける人は少ないかもしれないね。クランホームの近くの森にも何体か控えていてもらおうか」
モードレッドがギロチンマンティスの派遣を望んでいるのは、クランホームの防備や防犯の面での強化をしたいからだろう。
仮想敵国、というか実質敵国の帝国の事を考えれば、密偵の類がこちらに来る可能性も無くはない。そういった密偵には消えてもらわないと、クランホームが何らかの理由で消し飛ばされてもおかしくないのだ。
「なら、ここの子達はその任務に対しては優秀かもしれませんね」
「ブレードビーとトレインミリピードか」
ブブブ……と羽音を立てて空を飛ぶブレードビー。尾針が鋭い両刃になっているアシナガバチで、その針の斬れ味は中々のものであるそうだ。
その針は頑丈な革鎧もザクリと斬り裂ける程で、しかも分類的には毒針なので刃の表面に毒を纏わせることも出来る。
オマケに刃なので刺さって抜けなくなるということはなく、寧ろ刺さった場所の肉を斬り裂きながら引き抜いて追加ダメージを与えることも出来るのだ。
ただ、欠点があるとすれば攻撃特化なので防御力がかなり低いことだろう。特に胴回りはホッソリしているので、打撃を食らうと場合によっては真っ二つに裂けてバラバラになることもある。
そんなブレードビーに対して、防御力が高く非常にタフなのがトレインミリピードだ。
トレインミリピードは簡単に言えば巨大なヤスデ。胴回りの直径が大型トレーラーのタイヤサイズと表せば、大体の大きさが伝わるだろうか。
長さに関しては市営バスくらいで、黒っぽい甲殻はブレードビーの刃を弾く程硬い。斬ろうと思えば鉄塊ですら斬れる刃を弾けるのだから、その硬さは相当なものだ。
オマケにトレインミリピードは大きな群れを形成する習性があるので、基本的に一匹だけでいるということは余程の事が無い限り有り得ないそうだ。
「トレインミリピードの鎧は頑丈で人気があるぞ」
「う~ん……個人的にはちょっとアレだけど、聞いただけでも高性能なのはわかるなぁ……」
「ま、仮に手に入れたり作ったりしたとしても、今のアタシらじゃ余計な奴らを引き寄せるだけだしなぁ……」
そんなトレインミリピードの上をピョンピョン飛び跳ねるような形でこちらに近寄ってきたのは、レッドデッドスパイダーと呼ばれている大きなクモだ。
背面が赤く染まったこのクモは、その牙に途轍もなく強力な劇毒を有している。それこそ、ほんの僅かな掠り傷程度で口から血を吐いて悶え苦しみ息絶える程の毒だという。
また、その劇毒はクモ自身に効かないので、牙から滴らせた毒を脚先の鉤爪に垂らすことで、その爪自体を暗殺用の短剣のように扱うことも出来る。
「森で出会ったら死、出会わなくても気付かれたら死。レッドデッドスパイダーは森に入る猟師達に恐れられてるヤバいクモなんだよな」
「確かに、黒いから木の陰に溶け込んでわからなくなるわね。ヒビキ、気配遮断とかのスキルは?」
「クモ系は隠密系のスキルを持っている種が多いわね。それと、アマネが言っていた毒の類もね」
クモ系のモンスターは毒と隠密系のスキルを取得しやすいらしい。確かに、今まで会ってきたクモ系の子って気配遮断とか、毒とかのスキルが使えてるね。
……ん? あれ、ちょっと待って。アトラって一応クモ枠でいいんだよね? なんか、隠密のおの字も無かったような気がするんだけど……
「お姉! でっかいバッタ!」
「え? あ、確かにでっかいね」
「これはタイラントローカストだな。草木だけでなく人も襲う危険なモンスターだ。スメラミコトでも、昔レン国側から渡ってきたタイラントローカストの被害を受けた事がある」
龍馬の言うタイラントローカストは、全身が黒と灰色で赤目という、実に凶暴そうな見た目をした刺々しいバッタだ。
バイクサイズの大きな体は非常に頑丈でタフ。斬られようと突かれようと殴られようと、目の前に獲物がいるのなら怯むことなく突っ込んでくる。
また、その顎は木すらバキバキと噛み砕いて餌にしてしまうので、金属鎧ですら何度も噛まれていると摩耗して破壊されてしまうそうだ。
「タイラントローカストの蝗害は酷くてな。大きな都市ですら城に立て籠もらねば全滅する程だったし、それ以外の小規模な町や村は生き残りどころか痕跡すら残すことなく平らげられた」
「タイラントローカストに食われたか。スメラミコトは木製の建物が多いと聞き及んでいるが、それ故に痕跡も全く残らなかったのだろう」
「蝗害のヤバさはウチの世界でも有名だよな」
「そうですね〜。時折砂漠地帯から大量のバッタが孵化して、周辺地域の国々が阿鼻叫喚の地獄絵図になったと、ニュースで放送されたりしますね〜」
他の皆はタイラントローカストを見ながらそんな話をしているけど、私がいるから凶暴性の欠片すら見当たらなくてちょっと苦笑気味。
ただ、タイラントローカスト達は何故かわからないけれど、私達の進行方向を向いてギチギチと威嚇のような声を出している。
「なんかヤバいのでもいるんですかね?」
「さてなぁ。アマネがいる時点で大抵どうにかなっちまうし、そこまで気にする必要もねぇように思えるけどな」
私への信頼が厚いが、正直なところ大抵の相手は私が呼ぶ面々で制圧出来なくもないので、評価としては間違ってないのが何とも言えない。
まぁ、何だかんだ大丈夫だったりするし、このまままっすぐ進むことにしよう。
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