第571話
バーバ・ヤーガが教えてくれた森の隠者が暮らす家が気になってしまったので、ちょっと南寄りに進路を変えながら、森の中をゆっくりまったりと移動していた。
「森の隠者って誰だろうね?」
「森に関係する人だろ? そんなん探してみればいくらでも出てくるだろうからなぁ……」
ユーリ達は、森の隠者とは誰なんだろうと色々考えている。バーバ・ヤーガが言っていたのだから、恐らく何かしら関係がある人がいるんじゃないかと言うのが、皆の予想らしい。
「マーリンとモルガンはキャメロットの人だから除外しておいてね」
「……なんか、その言い方だとマーリンとモルガンが知り合いみたいに聞こえるんだけど?」
「まぁ、実際そうだからな。僕もヒビキも二人と会ってきたし」
「モルガンはまだいいけど、マーリンはソロモン陛下にボコボコにされていたイメージしか湧かないな」
「あーっ!? やめやめ! 聞いてたらとんでもないネタバレになる! つか、アマネの知り合いって色々と有名人過ぎんだろ!!!」
モードレッドとルジェの話を聞いて、エルメがパタパタと手を振って話題を終わらせようとしている。もうここまで来るとネタバレの領域を超えているようにも思えるけどね。
大体、もう既にモードレッドとかルジェとかオデュッセウスとか、本来ならもっと先で出会うような人達と出会っていることをノーカンにしてる時点で、個人的にはちょっとツッコミを入れたくなる。
「ネタバレに関しては今更じゃない? ほら、ウチのクランホームにボスとかいっぱい来てるし」
「いや、それはそうだけどよ……ほら、いるとわかっちまうとなんかその後の展開とか予想できないか?」
「アマネを中心に考えれば大体イレギュラーな結果になるから問題ないと思うわよ」
いや、その理論でエルメが納得するわけ――――
「……あ、確かにそうだな。アマネがいる時点で展開の予想とか無理だわ」
「というか、基本的にお友達になるんですからそういう流れでしか想像が出来ませんね〜」
「いや、納得するんかいっ!?」
思わずツッコんじゃったよ!? なんで私が含まれると皆納得しちゃうの!?
「ん。アマネがいい人だから納得できる」
「そうだなぁ。そうでなければ、こういうのんびりとした旅など出来ないからな」
あ、これもしかして褒められてる? なんかそういう感じ全然しないから思わずツッコんじゃったんだけど…………
何とも言えないモヤモヤ感を残しつつも、道なき道を思うがままに進んでいく。
――――だから、それに気付けたんだろう。
「…………ルジェ、アレ見える?」
「ん? ……っと、これはまた随分と凄いものを見つけちゃったね」
この中で一番と言っていいほど感知能力の高いルジェに、私が指差した方向を見てもらう。すると、ルジェもそこにあるものに気付いたようだ。
「なぁ、オデュッセウス」
「あぁ、『見えた』。今から解くぞ」
ルジェに声を掛けられたオデュッセウスが、持っていた杖の先端を森に向け、上から下へ縦に一度振り下ろした。
その瞬間、先程まで森だった場所が破り取られたかのように消え去って、灰色の岩肌にポッカリと空いた洞窟が姿を現す。
「う、わぁ……全然気付かなかった……」
「相当高位の術者が隠していたな。結界の質で言えば、ロキを封じ隠していた術式にも劣らない」
「となると、相当ヤバい何かが洞窟の中にいるってことになる、のか?」
洞窟の結界がそれ程のものなら、中にいる誰かはその結界に見合った実力があると言える。この場合だと、少なくとも北欧神話のロキに相当する誰かが。
「……兎に角、中に入りますか」
「え!? 入るの!?」
「よっしゃ、行くかぁ! なんかあったら最悪アマネに強ぇ奴呼んで貰えばいいだろ!」
ということで、この洞窟の中に入ることを確定したので、若干腰が引けているユーリ達を連れた上で、謎の洞窟の中へと進み始めた。
洞窟の中はかなり暗いようだが、システム的な明るさ補正がある私達プレイヤー組は問題ない。
そうなると他の面々はどうなんだという問題だが、モードレッドやロビンは夜目や暗視系のスキルがあるから問題無し。
オデュッセウス、ルジェ、龍馬は元々暗い場所で過ごしていた事もあってか全然平気。ヒビキに関しては言わずもがな。
ただ、不思議なのはそういった暗視系のスキルもなく、私達のような補正もないゴリアテが躓くこともなくついてこれていることだ。
「一体どうなってるのよ……?」
「んなもん、知るわけねぇっての」
「脳筋ゴリラの野生の勘って奴じゃねぇの?」
「誰がゴリラだエルメゴラァ!?」
真っ暗なのに何故か平気なゴリアテ。案外エルメの言っている野生の勘が正しかったりするのかもしれない。
そんなことはさておくとして、この洞窟に入って最初に出てきたのは、スリーピィアイという目玉のモンスターだった。
「なんか、ちょっと可愛い?」
「眠たそうにしているからか? 目玉が天井から下がっているというのにあまり忌避感を抱かないな」
「リビングモーフと相性良さそうね」
天井からぶら下がっているスリーピィアイは一つ目の寝ぼけ眼なモンスターで、その目は重たそうな瞼によって何度も何度も閉じそうになっている。
ちょっと水色っぽい青色の瞼に隠れ掛けている瞳と目が合うと、物凄く強い睡眠効果を相手に与えるそうだ。まぁ、私は無効化出来ちゃうんだけどね。
「こっちはコケの絨毯だな。胞子には睡眠効果があるようだ」
「……眠りに誘うモンスターが多いのか?」
「ってことは、ここは睡眠がテーマの洞窟なのかな」
ユーリの言う通り、ここは睡眠とか眠りがテーマの洞窟な気がする。コケの絨毯も、こんな見た目だがモールドシートというモンスターみたいだし。
モールドシートは大きく広がったコケで、胞子に強い睡眠効果がある。吸い込んで眠った獲物はこのコケに飲み込まれ、夢見心地のまま骨も残らず消え去ってしまうようだ。
そんなモールドシートの上辺りをふよふよと浮かぶミルクのように白っぽい何か。多分、形容するなら幽霊というのが正しいのだろう。
ララバイゴーストという名の幽霊達が、ヤケに恭しく私に礼をして近くに侍りだしていた。
「これは一体……」
「アレだな。アマネが歌姫だから控えてんだろ」
「私達はアマネ様の足元にも及ばないです〜。ってことですかね〜」
名前通り子守唄を歌うことで相手を眠らせようとするゴーストみたいだが、どうやら私を前にして萎縮しているようだ。
よく見ると白いベールに隠れている顔は女性っぽいし、元は子守を仕事にしていた人の幽霊なのかもしれない。
「む、ここが最奥か」
「ナニコレ、めっちゃ短かったし毛玉もあるし……」
ユーリが呆然としているがそれも無理はない。洞窟は二十分もあれば奥まで行けるくらいの長さだったし、その最奥には大量の毛玉があるんだから。
いや、毛玉というのも失礼か。白や黒の毛並みの彼らは毛玉ではなくヒツジ。ただ、見ただけでわかるくらいには手触りが良さそうだ。
というか、名前がクッションシープの時点でそういう力とか用途の為のモンスターだってわかる。あの羊毛、クッションとかマットレスに使ったら良いものになるんだろうなぁ。
「んん……なんか、騒がし……い……?」
「あ、おはようございます。ちょっとお邪魔してます」
そんなヒツジ達の群れのど真ん中から起き上がるのは、ウシのような角と無精髭を生やした若い男性。ちょっと痩せているようにも見えるその人は、こちらを見て完全にフリーズしてしまっている。
その目からわかるのは怯え、だろうか。ルジェ達に対しては特に何もないようだが、私やユーリ達には何故か恐怖を抱いているように見える。
「す、すまない。いや、その、私は……」
「……女性が、苦手なんですか?」
この人が怯えている答えはコレだと思う。所謂、女性不信とかそういうものに近い何かがあるんじゃないかって。
試しにそう聞いてみたら、凄く申し訳無さそうな顔をしたその人は「……そう、だね」と小さな声で肯定して、そのまま俯いてしまった。
「あの、ごめんね。君が悪いわけじゃない、んだけど、ね。どうしても、女性というか、女の子を見ると、さ……」
「……よろしければ、お話だけでもお聞きしますよ」
私がそう話すと、その人は何処か逡巡した様子を見せて――――
「……あまり、面白い話でもないさ」
――――ゆっくりと、昔話を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます