第18話

この世界に来て、もう5年半が過ぎた。

 

私の創造魔術のレベルも上がり、ある程度の仕組みが分かっていて、私が完璧に想像出来る物なら作り出せる事が出来るまでになった。

調味料や食材は簡単だったが、機械は難しい……。

無から有を生み出すのだから、簡単にはいかないだろうとは覚悟していたが、構造を理解していなく上手く想像出来ない物は、形が安定せずに消えてしまう。

私がスランプに陥っていると、お爺ちゃんが「先ずは、色んな物を作って、レベルを上げる事だな」と、助言をしてくれた。


コーデルハイム公爵領で食材を作る旅をしながら、お爺ちゃんに「これと同じ物を作ってみろ」と、課題をこなしていった。4年間の修行のおかげで、創造魔術のレベルも8まで上がった。


そして私は、念願のソーラーポータブル電源を作る事に成功したのだ!!工業学校機械科卒が役に立ったよ!

電源を確保出来れば、家電や調理機材を作り放題よ!

実は、1番最初にドライヤーを作ったけれど、電源が無くて使えなかったのよね…。


ポータブル電源はフル充電で準備万端!魔道具として作ってもらう為に、魔塔へいざ行かん!


って、気合いを入れて来たのは良いが…。私は忘れてはいけない事を忘れていたのだ……。そう、技術職の人の、物作りに対する熱量を……。


「太陽の光がエネルギーになるとは!」


「魔石を使わずして動くとは……。魔石を買えない平民達の暮らしも良くなるのでは?」


「リチウムとは、初めて聞く物質だ」


「うおー!このドライヤーっの凄いぞ!魔力を使わなくても風が!しかも熱い!」


「あ、あの、皆さん……、落ち着いて下さい……」


「これが落ち着いていられるか!」


「早く!早く分解させてくれ!中身を見させてくれ!」


「他にもないのか!もっと色々見せてくれ!」


カオスだ……。若い魔導具師よりも、年配の魔道具師達がはしゃぎだした……。まるで、新しくオモチャを貰った子供の様に、おじさんやお爺ちゃん達が、目を輝かせてはしゃいでる……。

はあ、ちゃんと考えたら分かる筈だった。魔道具師は魔道具に取り憑かれた人達だ。魔道具のヲタクだと言う事を。

そんな人達に、初めて見る道具と知らない技術を見せたらこうなるのは、火を見るより明らかだ。


呆気に取られている私を、アリシアは微笑みながら見ているのを見ると、こうなる事は分かっていたのね。流石はアリシアだわ!


「お前達落ち着かんか!ワシの孫が驚いてるだろ!」


「なんと!こちらのお嬢様達は、コーデルハイム卿のお孫さんでしたか!」


「そうだ。ワシの孫のマナミがな、お前達にな、魔道具として作って欲しいと言うのだ」


「!!魔道具をですか!?」


「ああ、これから創造魔術で作り出した道具を、この世界の魔道具として作って欲しいのだ」


「素晴らしい!異世界の道具を研究出来るのですな!」


「お孫さんや!早く!早くその道具を見せてくれ!」


「わ、分かりました!」


魔道具師達の気圧されたが、気を取り直して私の1番欲しいのを思い浮かべる。

私が欲しい物……、それは……、ブレンダー!バイタ◯ックスよ!

この世界にはブレンダーなんて物は無いのだ!刻むか搾るか擦り潰すかしかない!前世の私は毎朝、美容と健康の為にグリーンスムージーを飲んでたのよ!若いうちから美容に気を使っておかないと駄目なのよ!

真夜中にトイレで目が覚めて、鏡に映った己の姿に恐れ慄かない為にも……。自分の顔だと思った時の、あの喪失感よ……。

もう21歳になったのだから、あの喪失感を味合わない為にも、美容には気合いを入れないと!


私は職場や自宅で使ってたのを思い浮かべながら手のひらに魔力を集中させ、ハイパワーの高回転を誇り、その粉砕力で果物の種や皮までも粉砕してしまうバイタ◯ックスを思い浮かべた。

混ぜる、砕く、冷やす、刻む、温める、挽く、つぶす、攪拌ができる優れもの!ジュースやアイスに暖かいスープに、野菜のみじん切りにお肉を挽肉にできるし、コーヒー豆を挽く事もできるのよ!

前世で使ってた時の事を思い出している内に、丁度良い感じに魔力が集まり塊になったわね。さあ!おいで!私のブレンダーちゃん!


「出でよ!!ブレンダー!!」


厨二病よろしくそう叫ぶと、私の目の前ある乱雑に物が置かれた机に向かって白く輝き出した魔力の塊を放った。その光は部屋いっぱいに広がり、手で目を塞ぎながら「うわー!目がー!」と、叫んでいる魔道具師達を横目に、お爺ちゃんとアリシアがサングラスを掛けて涼しい顔をしているではないか!しかも、その立ち姿がそっくりでカッコいい!!


光が収まると机の上に想像通りの姿形をしたブレンダーがあった。懐かしいな〜と感じながら手に取った。


「お姉様、それがブレンダーですか?」


「そうだよ!これがブレンダーだよ!これ一台で、ジュースにアイス、温かいスープだって作れるんだ!」


「それは凄いですわ!お姉様!早く使ってみてください!」


アリシアが興奮してはしゃいでいる姿が可愛いいなぁ、まるで天使の様だ。


「そうだね、つくっ……」

 

「まことか!これ一台でか!」


「これも、魔石がなくても動くのか!」


「早く分解させてくれないか!早く中が見たい!」


さっきまで「目がー!」と、転げ回っていた奴らが騒ぎ出したのっだった。

 

そして、どの世界でもヲタクの熱量は変わらないなと、感じるのであった……。

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