第17話
さて、私、福田真奈美がこの世界に来て4ヶ月が過ぎました。はぁ〜、40歳を過ぎて(今の身体は16歳だが)新しく物を覚えるのは辛いのよね…。
覚えてた事すら忘れて、そんな事覚えてたっけ?てか、何それ?
名前なんて覚えられないし、知り合いの名前も間違えて呼んだりするしね!
いくら身体が若くなろうが、中身はアラフォーのままなのよ?詰め込み教育反対よ!ゆとり教育でお願いします!
だから、私は今、コーデルハイム公爵家の厨房に逃げて来ているのです。
魔術国家の総長バン・なんとかさんの魔術の先生になるとの申し出を断ると、トーマス様は「私よりも力が強く、魔術の事に関しては、信頼しているお方だ」と、新しい先生を探してくれたんだけれど……。
最初の2ヶ月間は、基礎体力の強化と魔力になれる為に、身体に魔力を流す訓練で楽しかったんだけど……。
3ヶ月目からは座学になったのだ……。魔術を使うにはイメージが必要で、イメージするにはその物を知らなければならない。火とはなんぞや、水とはなんぞや、どうして氷が出来て、風はどうして吹くのか……。
水素?炭素?知らんがな!!こちとら体育会系の脳筋女だ!!考えるより慣れろ!だ!!
そんな事を愚痴りながら厨房の椅子に座っていると、入り口の扉が静かに開いて、白狐姿のミケラが顔をひょこっと覗かせてきた。ふむ、可愛いな!
「真奈美〜!大丈夫〜?」
「狐のミケちゃんや……。こっちにおいでな…」
「……真由美〜、お婆ちゃんみたいだね〜!」
「……勉強に疲れ果てて、お婆ちゃんよ」
いつもの様にケラケラと笑いなら駆け寄ってくると、私の膝の上にちょこんと座り、前足で私の両頬をムニムニとマッサージしてくれる。はあ〜、なんと柔らかくて気持ちの良い肉球なのだろう……。疲れが吹っ飛ぶよ。
「お爺ちゃんさ〜、孫が増えてヤル気満々だね〜!」
「全く……。私の実年齢が、自分の息子より上なのを知ってるのに……」
「それでも〜、お爺ちゃんからしたらさ〜、孫には変わりないからね〜!」
「しっかし、コーデルハイム家の人間は、理系ばかりなの⁉︎元素や原子なんて知らん!数式なんてもっと分からないわよ!」
「え〜!料理人でも居るでしょ〜!」
「確かに居るけどさ!私は感覚タイプなの!」
そう、私の魔術の先生はアリシアのお爺ちゃんであり、トーマス様のお父様である、先代公爵のアルバート・カール・コーデルハイムだ。トーマス様とは違い、服がはち切れそうな隆隆しい筋肉をしたガッシリとした長身に、燃える様な赤い髪と同じ色の瞳が似合う彫りの深い顔なのだ。どう見ても脳筋騎士タイプだろ!
火炎魔術を使いまくって火の海にするタイプだろ!
なのに理系の理論派だなんて聞いてない!
「ならさ〜、想像してみたら〜?」
「想像?」
「そうだよ〜!ほら、料理で使う火を思い出してみて〜」
ミケラにそう言われると、私は手のひらを合わせてガス台を思い浮かべた。
「料理で使う火……。ツマミを回して、空気を取り込んだガスを出して、電流が流れた点火フラグの火花で火がつく……」
「しゃあ〜、魔力をガスだと思って出してみて〜」
「魔力をガスだと思って……」
私の身体はガス線、手のひらは炎口。魔力を身体から手のひらに流す。
「そうそう〜!上手いよ〜!手のひらがゆらゆらとして見えるでしょ〜?」
「うん、なんか、透明な何かがゆらゆらと…。」
「それが魔力だよ〜!したら、ツマミを回して点火するイメージをしてみて〜!」
「ツマミを回して点火…」
点火は電圧素子を叩いた圧力で火花を出す、火打石みたいに。私の指は火打石、指を鳴らしたらパチンッと火花が飛び散って、その火花で魔力のガスに火が付く。そうイメージしながら、左手の親指と人差し指に力を入れて指パッチンすると、指から小さな火花がパチパチと飛び散り手のひらに落ちると、ボウ!ッと、手のひらから青い炎が現れると、まるでコンロの強火の様に燃え上がった。
「で、出来た!」
「すご〜い!流石は真奈美だね〜!」
「ありがとう!ミケラ!」
ミケラと喜んでいると厨房の入り口から、パチパチと拍手をする音が聞こえて振り向くと、アリシアとお爺ちゃんが拍手をしながら私達の方に歩いて来た。
「おめでとうございますお姉様!」
「ふむ。やはり、脳筋には脳筋が合うのだな」
「「誰が脳筋だあ〜!」」
これをきっかけに魔術を使うコツを覚えると、順調に魔術を使える様になり、1年後には火、水、風、土属性の上級魔術まで使える様になった。そして、とうとう創造魔術を使える様になったのだ!
最初は和食に必要な鰹節、昆布、醤油、味噌、味醂、日本酒、お米を創造魔術で作り出した。
コーデルハイム家の領地の海で鰹が漁れる事を知ると、鰹節作りを始め、醤油や味噌、お米なども広大な農地を有する公爵家の領地で作れないかと思いトーマス様に相談してみたら、拍子抜けする程すんなりOKが貰えたから領地を周り(アリシアが一緒なのは嬉しいが、なぜお爺ちゃんまで…)、漁師さんや農家さん達に相談し、その土地の方々と話し合いながら試行錯誤をして作り上げていった。
そして、4年後には全てを領地で作れる様になり特産となるまでになり、その他にも片栗粉に本葛粉も作り、胡麻と紫蘇に蕎麦の栽培までも出来る様になった。
お店を開くに最低限の食材を一通り作り終わると、次は調理器具の準備だ。
そこで問題がこの世界には電気が無い。電気の変わりに魔石を使った魔道具がある。だから、調理器具も魔石で使える様に改良するには、魔塔に行かなければならない。
「お姉様を1人でなんて行かせません!」と、アリシアがついて来てくれたのはありがたいが、だから何故お爺ちゃんまで一緒なの!
まあ、とりあえず魔塔に行きますか!
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