第15話

洗礼式でわたくしを救ってくれた、ふわふわてもふもふな真っ白な子猫さんと一緒に、魔術国家にあるコーデルハイム公爵邸へ帰って来ましたわ。


神殿では聖獣だ!神獣だ!と、大騒ぎになりましたが、子猫さんは転移魔術を使って、わたくしとお父様とお母様を我が家へ転移させたのですわ!


転移魔術は魔法陣を用意しなくては使えない高位魔術です。しかも、最低でも魔術師は3人は必要です。それをこんなに小さくて可愛い子猫が、魔法陣もなく無詠唱で3人も転移させてしまうとは…。


怪しすぎるのでわたくしは子猫さんに「貴方は何者なの?」と聞いてみました。すると、子猫さんはわたくしの右肩にヒョイっと、飛び乗ると頬にスリスリしながら言いました。

『僕はにゃんこだよ!アリシアと冒険の旅をする幸運のにゃんこだよ!』

 

「幸運の……にゃんこ?」


『そだよ!僕が願う事はなんでも叶うんだ!逆に僕に叶えられない願いはないよ!』


可笑しな子猫さんと思い信じてはおりませんでしたが、数日後に、今まで人生でどんなに願っても叶わなかった、アーノルド殿下の婚約者候補から外されたのです!

どんなに嫌がっても婚約者にされていたのに、5回目でやっと婚約者にならずにすんだのです!

『良かったね!』と、笑顔で言ってくれた子猫さんが、わたくしには希望に見えでギュッと抱きしめました。


「子猫さんはわたくしのエスペルよ!」


『エスペルってなに?』


「古代語で希望よ、子猫さんがわたくしの願いを叶えてくれたのね!」


『アリシアの願いを叶えて、幸せにするのが、僕の1番の願いだからね!』


「ありがとう子猫さん…、エル。エルの事はわたくしが幸せにするわ!」


『‼︎エルって僕の名前⁉︎』


「そうよ、エルはわたくしの希望よ」


『嬉しいな!のぞむだったんだ!僕がお母さんの希望だったんだって!』


「あら、エルはみんなの希望なのね」


5回目でやっと自由になれたわたくしはエルと一緒に、公爵家の領地を巡る旅に出たのでした。そして、13歳になったわたくしは、本格的に魔術の修行しに魔界に住んでいるお祖父様の元に向かいました。

セシルとアリスも一緒に旅をしていましたのですが、魔界に連れて行くのはやめようと思っていましたが、2人は叔父様の許可を得てきたのでした。

まあ、2人のお婆様のお兄様ですから、2人のお祖父様でもあるのです。


そして、わたくしが14歳の誕生日を迎えたその日に、神殿から2人の神官が魔界にいるわたくしの元へやってきたのです。

神を信仰する神官が魔界に来ること自体が異常ですが、それ以上に2人の様子が異常事態を知らせていました。

アムラ教の神官が着る白いマントは血で真っ赤に染まり、顔は殴られて腫れ上がっていた。


2人の話はこうだった。「3人の神使を連れた聖女が現れた」「アーノルド殿下の恋人となり、共に人々を癒す旅にでた」「赴いた村々では聖女を唯一神として崇め始めた」

「聖女が『なぜアムラ様は、病に苦しんでる人達や、貧困で苦しむ人達を救わず、か弱い子供達から両親を奪うのか』と、発言し、聖国の至る所で平民達が暴動を起こした」「神を信仰していない魔術国家で布教活動をするいい、神使達が魔術師達に法悦を与えて、魔力と神力が反発し自我を失い暴れ出した」「聖女の世話係の神官達に襲い掛かり、撲殺し始めた」そして、命からがら逃げたして、神獣を使役するアリシア・コーデルハイムに助けを求めようと、魔界にいるわたくしの元へやってきたのです。


その話を聞き、家族が心配になりわたくし達はお祖父様と一緒に、魔術国家に帰る事にしました。

なにより、エルがと言うのだから。

わたくし、セシル、アリス、お祖父様の4人をエルは転移魔術で、魔塔ガルニア塔の魔術練習場に飛ばしました。

しかし、わたくしのしるガルニア塔と練習場の姿はなく、そこには、青い炎で焼き尽くされて崩れ落ちそうな塔と、練習場では青い炎に包まれた魔術師達が倒れていたのです。


そして、中央にはアーノルド殿下に絡み付く様に抱き付いているあの女と、腰まである長い白髪の白いローブ姿の男性が3人いました。1人がわたくし達に気付きこちらを向いた顔を見て、吐き気に襲われて倒れそうになりました。

髪型や服装が違くとも、あの顔を忘れる事はありませんわ!わたくしを辱めたあの男の顔を!

過去の記憶が脳裏を巡り、あの時の苦痛と絶望が蘇ってきて息ができなくなると、エルが肩に飛び乗りスリスリと頬ずりするのです。その温かさに気持ちが落ち着いていきましたわ。


『アリシア、落ち着いて』


「……エル、ありがとう」


『この時の為に練習したのをやるよ』


「一度も成功してないけれど……、できるかしら……」


『アリシアならできるよ!このだと、人界は滅んでしまうよ?それに、アイツら天界の奴らだから、魔界も襲うかもしれない』


「そんな……」


『そんなの嫌でしょ?人界のみんなの事も、魔界のみんなの事も守りたいでしょ?』


わたくしは、大好きなみんなの事を、守りたいですわ!」


『うん!僕も、大好きなアリシアが守りたい人達を、一緒に守りたい!一緒に頑張ろ!』


「ありがとう!わたくしも、エルの事が大好きよ!」


『じゃあ、イメージして!青い炎と赤い炎を、練って混ぜて絡ませて、アリシアの好きな色の炎に変えるんだ!』


ふふ、相変わらず分かりづらい言い方ですわね!ようするに、聖力である青い炎と魔力である赤い炎を融合させるって事ですわ。今迄は融合出来ても、炎の色のイメージが出来ずに失敗してしまいましたが、やっとイメージ出来ましたわ!わたくしに希望と幸せと愛する事を教えてくれたエルの色。そう、真っ白なエルの色が、わたくしの炎の色ですわ!

そう思った瞬間に、わたくしの両手は真っ白に輝く炎に包まれました。


『偉いよ!アリシア!綺麗な白い炎だよ!』


わたくしとエルの色ですわ!」


「あー!やっと来たよ!遅いよアリシア!」


ああ、何度聞いても嫌な声ですわね!


「今まで何処に隠れてたのよ!アンタのせいでバン様ルートに進めないじゃない!」


わたくしはずっと、祖父の家に居ただけですわよ。それに、バン様ルートって、なんですの?」


「はっ!何が祖父よ!男の家でヤリまくってたんだろ!淫乱のアンタがやりそうな事ね!」


「それは、貴方ではなくて?」


怒りが爆発しそうなお祖父様をチラッと見ると、察してくれたのか、小さく頷いてくれました。

ええ、あれはわたくしの獲物よ!誰にも手を出さないわ!

さあ、復讐される準備は、できてまして?

 

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