第10話

洗礼式から一夜明け、私達は汽車に乗って魔術国家の首都にあるコーデルハイム公爵家へ向かっている。

 

いやー昨日のアリシアはカッコよかったな!

女の子から婚約破棄を言うなんて、まさしく悪役令嬢だね!

それに、あんな男と結婚してもアリシアは幸せにはなれない!

自分のために女を知れなんて言うはずがないのに、浮気を勧めたなんて冤罪をふっかけて、浮気を正当化するなんて信じられないよ。


私の肩に頭を乗せてスヤスヤと眠るこの天使は、どんな悪役令嬢に育ってくれるのか楽しみね。


しかし、まさかあそこで彼の方がお出ましするとは…。

ーーーーー


わたくしアリシア・コーデルハイムはグライム聖国第一王子アーノルド・アム・グライム殿下に婚約破棄を申し出ますわ!」


アリシアの婚約破棄宣言に洗礼式の会場はざわめいていた。まさかの王族に対して婚約破棄を申し出たのだから当たり前だ。

しかし、ミケラめ!自分の神力を流してピンクの光を出すなんて、予定に無いことをしやがって!ビックリしたじゃないか!


アリシアと何か話していたから、2人で何か計画したのだろうけれど、聖女候補にでもなったらどうする!

実際に神官達が初めて見る光だって騒ぎ始めているし、アーノルドなんて何が起きたのが分からなくて鳩豆顔で呆けているし、なによりも、金色と紫色と青色と桃色の光に包まれた神々しいアリシアが胸の前で広げている掌の上で、ミケラがちょこんと座りながらドヤ顔してるのがウザイ!

てか、何人前に出て来てるのよ!アンタはアリシアの髪の中に隠れて金色の光が光過ぎないように、アリシアの聖力を抑える役割だろ!


「皆の者静まるのだ!ウィリアム・ヒル・グライム国王陛下のご到着です!」

叫ぶような大きな声が聞こえた方を振り向くと、私達が入ってきた大きな真っ白な大理石の扉から、大神官と共に純白の正装に身を包んだ金髪のイケメンが入ってきた。

私よりも少し年下(生前の)だろうか、短髪金髪碧眼の彫りの深い端正な顔立ちの、長身で鍛え上げられたスタイルに純白に金糸のステッチがあしらわれた正装が、より一層スタイル良さを引き立たせている。アーノルドが30代後半になったらこうなるのだろうと思う程に似ている。


まあ、ウチのトーマス様の方が断然イケメンだがね!うん!トーマス様が正義!


国王は私達の前を通り過ぎてアリシアの前に立つと、右手を左胸に当て頭を下げたのだ。


「神使ミケラ様、またお目にかかれて光栄です」


「久し振りだね〜!」


「聖国の太陽にご挨拶をいたします」


「はい、お久し振りでございます。アリシア嬢、愚息がご無礼を働き、申し訳ない」


「国王陛下!わたくしは気にしておりませんので、お顔をお上げ下さいまし!」


「ははは〜!面白かったから良いよ〜!それにね、アリシアの〜、悪役令嬢デビューにピッタリの舞台だったよ〜!」


「あ、悪、役?」


「そうそう〜!悪役令嬢!」


「悪役令嬢ですか。しかし、その桃色の光は、アムラ様の神子の証では?」


「違うよ〜!これは、僕の加護の色だよ〜!アムラ様の神子は、アリシアのお姉ちゃんだよ〜!」


「トーマスから、ミリアの姪を養女として迎えると聞いております。アリシア嬢も、家族が増えて喜ばしい事だな」


「はい!とっても素晴らしいお姉様なんですの!」


アリシアがこっちに振り向き、満面の笑みで笑いかけてくるその笑顔に、彼方此方からため息と憧れの言葉が聞こえてくる。皆んなアリシアのエルジェルスマイルに悩殺されたな!

まあ、私もだからな!


「そうだよ〜!だからね〜、アリシアは僕の妹でもあるんだよね〜!」


「アリシア嬢が妹君になられるとは、なんとも羨ましいですな」


「でしょ〜!それでね〜、ウィルにお願いがあってね〜!聞いてくれるかな〜?」


「神使のミケラ様の願いとは?私にできる事ならば」


「うん!じゃあ、アリシアと愚息の婚約破棄してよ〜!妹の旦那様が浮気夫だなんでやだな〜!それにさ〜、神子の妹にされてる男はダメだよ〜!」


「!!!まさか!!」


「なんで気づかないのさ〜!こんなに臭いのに〜!」


「……分かりました。アーノルドとの婚約は破棄致します」


「父上!!俺はアリシアと!」


さっきまで呆けて座り込んでいたアーノルドは、国王に掴み掛かる勢いで立ち上がった。


「黙れ愚か者!!全てはお前がしでかした事だろう!」


「しかし!この婚約は、我が聖国と魔術国家の友好関係を強固にするためのもの!それに、アリシアが他の女と遊べって言ったんだ!」


「殿下、先程も仰っていましたが、わたくしは浮気しないでとは言いましたが、女の子と遊んでなど、一度も、言ったことはありませんわ!」



 

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