第8話


コーデルハイム公爵邸の食堂はとても広かった。30人は座れるであろうテーブルには、真っ白なテーブルクロスが敷いてある。絶対に零しちゃアカンやつや!


しかし、今の私にはありがたい。主人であるトーマス様は上座に、いわゆる誕生日席に座っている。私は1番端っこの下座に座ってます。何故かって?トーマス様のご尊顔を見てしまったら興奮して鼻血が出ちゃうよ!


あ〜!イケメンは正義ーー!!!


てか、私の後ろに立ってる偽物は何故頬っぺたを膨らませて怒ってるんだ?


「ま、真奈美嬢……、流石に遠いのでは?」


「あぁ!そのお声で私の名前を!!」


「真奈美〜!不審者みた〜い!」


「ミケラ殿から話は聞きましたが、我が家の娘に…」


「トーマス様!!娘として毎月御布施を納めます!」


「いや……、御布施は……」


「ははは〜!娘なのに御布施って〜!!」


ああ〜!困り顔のトーマス様も尊いです!マジでヤバいです!

離れていてもイケメンオーラ凄い!やっぱり神が与えもいた奇跡なんだ!


はっ!イカン!しっかりしろ私!トリップしてる場合じゃない!

この世界での足場を固める為に、コーデルハイム公爵家の娘になって権力を手にして、アリシアを立派な悪役令嬢に育て上げ、お店をオープンさせてトーマス様に貢ぐのよ!


「真奈美〜、真奈美の役目はさ〜、聖女のサポートだよ〜?アリシアを悪役令嬢育成じゃないよ〜!それにさ〜、トーマスは貢がれなくても金持ちだよ〜!」


「おい、狐!なぜ私の考えてる事が分かる?」


「僕と真奈美の魂を繋げたからだよ〜!」


「はあ?なにそのキモいの?」


「ま、真奈美嬢……、悪役令嬢とは何かな?」


「悪役れ……!!!!近い!!!」


トーマス様が隣に座ってるーー!!!!

ミケラに気を取られて気付かなかったー!!!

駄目です!こんな至近距離で見つめられたら!!!


ガダン!!と、大きな音を立てて、私は椅子から転げ落ちた…。無理無理!ご尊顔が近い近い近い!


てか、このままでは話が進まらん!トーマス様、暫しの別れです。


「ミケラ……、私にトーマス様のご尊顔が醜く見える様にして!あと声もイケボから濁声に聞こえる様にして!」


「はいよ〜!僕もトーマスに萌えてる真奈美みたくないし〜」


ミケラがしゃがみ込んで倒れている私の頬をツンツンと突いてくるが、どうせなら狐のぷにぷにの肉球でペシペシして欲しいがな。


「認識阻害かけたよ〜」と、言いながら私をお婆ちゃんを介護するように抱き起こして、トーマス様から離れて座らせた。


ちらっと、トーマスを見ると確かに認識阻害のおかげか、すべすべの綺麗な真っ白な美肌にパッチリ二重の切れ長の目をしたお顔が、土気色したざらっざらのゴツゴツの腫れぼったい目になってる。


しかも、「大丈夫ですか?」と、お声がけしてくれた声は、艶のある色っぽいイケボから耳障りな濁声になってる。


だがしかし!


「トーマス様は存在がイケメンなんですね、認識阻害かけても変わらない尊さです!」


「あ、ありがとう、真奈美嬢……」


「うふふ〜、真奈美は本当にお父様が好きね」


品のある可愛いらしい声が聞こえてた方を向くと、食堂に女神が降臨なさいました。


薄い茶色い色をしたミルクティーの様なふわっふわの腰まである長い髪に、真っ白な小さな顔にくっきり二重のパッチリした目には真っ赤な大きな瞳がルビーの様に輝いている。印象的な瞳をボリュームのある長いまつ毛がより印象深くしている。そんな目の間からスッとのびる形の綺麗な鼻の下には、濃いピンク色したぷっくりとした小さな唇が口角を上げて笑っている顔は、設定年齢16歳の私と同じ歳に見えるドール顔。


なのに、たわわな豊満な胸に引き締まったウェスト、プリッと形の良いお尻から伸びる長い美脚。肩から伸びる長い腕は細過ぎないで綺麗に筋肉がついている。


まるで◯姉妹なの様なフォビュラスなボディをした、水色のAラインドレスを着た10頭身の美女が食堂に入って来て、さっきトーマス様が座っていた席の隣に座った。


「女神様来たーーー!!!!!」

 

「あら、女神様だなんて!お母様嬉しい!」


「女神様がお母様……」


「妻のミリアです」と、トーマス様が私の耳元で囁いた。どうやら、私の事情はトーマス様とアリシアしか知らないらしい。


「…おはようございます、お母様。私は世界で1番お父様が大好きです!」


「あらあら、お母様は?」


「お母様も世界で1番大好きです!」


私は女神様と神の奇跡の子供になるのね!そして、天使の妹が出来るのね!


て、あれ?私だけ地味じゃね?見た目日本人のままだよ?日本的な顔って言われるほど日本人顔だよ?


今から超絶美少女にチェンジ出来ないかな?1人だけ地味顔って…、まるでモブじゃん!


自分だけ地味な絶望感に襲われながらミケラに促されて、私に用意されている席についた。「真奈美は可愛いよ〜!僕大好き〜!」って、耳元で囁いてきたが、狐にもててもね。


そう思っていると、食堂の扉が開き悪役令嬢を目指す天使が現れた瞬間に、私は嬉しくなって満面の笑みを浮かべた。


「アリシアったらお寝坊さんね!早く隣に座って」


その私の言葉にアリシアは泣きながら私に抱きついてきた。


「お姉様!もう会えないのかと…、うわ〜ん!」


「アリシアったら、悪役令嬢は無闇に泣いたら駄目だよ!」


「悪役令嬢は明日からですわ!」

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