第5話

「ねぇ、私にメイドでもさせるの?」


やっと雇われの身から個人事業主になったのに、またこき使われろと?


所得税を払い始めて23年

高校卒業後、営業職に就職して初めての休日に会社から『なんで出勤しないの?』と電話が来る


求人に掲載されてない三ヶ月後には基本給ゼロの100%歩合給になるのを、先輩から寮費が引かれてマイナスの給料明細と共に告げられる


支社長に退職届を提出すると歳上の男性からはじめて『何考えとるんじゃ!ワレ!』と、怒鳴られ二時間説教後ランチで高級焼肉屋に連れてかれて『これからも頑張れ』と、言われて辞めれないんだなと絶望する


家族経営の飲食店で親子喧嘩に頻繁に巻き込まれ、これも給料の内と諦める(プライベートの関係は別物である)


高学歴のオーナーの有名店では、私は初めて工業学校機械科での経験が生きたなと思う程の体育会系で、お酒の席でも言葉一つ間違えてはいけない


パワハラ、セクハラなんて言葉が無い時代に就職して、それが当たり前なら私は社会不適合者で結構!と、思っても生きてく為にと割り切って働いた


そんな私にあんたらの都合でメイドになれと?


その思いを感知したのか狐は飛び切りの笑顔で、深夜にテレビでやっている通販番組よろしくなトークを始めた


「違うよ〜!そんな事させないよ〜!《僕達は》君の味方なんだから〜!誰かに使えさせたり、使われる様な事は絶対に僕がさせないからね〜!


君にもさ〜、東京のお母さんとか言う第二のお母さんって存在がいるでしょ〜?


そこで君には〜、聖女の異世界のお母さんになってもらいたいんだ〜!


その対価として転移するに対しての希望も聞くし〜!僕はね〜、君には死んで出来なかった小料理屋さんを異世界でさせてあげたいんだ〜!」


なんでお偉方やその従者は上からしか話が出来ないのだろ…


そんな言い方をしたらムカつくのが分からないのかね?


それに《僕達は》って何?


私は怒りに任せてテーブルを思い切り叩くとバン!と音と共にティーカップがガシャンと音を立て紅茶が溢れた


「用意するだの、させないだの、させたいだの黙って聞いてれば狐の癖に偉そうに、こんな時にも姿を現さない主人は何様?頼み事があるなら下っ端じゃく神自ら来なさいよ!」


そうよ、まず人に頼み事するなら自分で来なさいよ!


てか、あんた達はまず名を名乗りなさいよ!


ムカつからケーキを食べよう!


いつの間にか小さい頃に好きだったアップルパイがある


叔母さんが遊びに来る時にいつも買って来てくれた駅前の洋菓子店のアップルパイ


さっき溢した紅茶も綺麗になっていてカップの中はミルクティーになっている


スモーキーの中に甘い花の芳香がするからキーマンだろうか


どうして私の好きな物が現れるのだろう、本当に不思議な場所だ


まあ、私のご機嫌を伺っているのだろうけど、あからさま過ぎないか?


私の言葉に驚いたのか勢いよく飛んで私の足に来ると、不安げな泣きそうな顔をして足に頬をスリスリしてくる


く〜〜‼︎可愛くてもふもふしたい‼︎


怒った私が阿呆らしくなる程に‼︎


私は狐の頭を撫でながら「はぁ〜」と、深いため息を吐いて条件を出した


「条件として私の記憶がちゃんとそのまま全部残っていて、HPもMPも既にカンストしてて火、水、風、土属性使えて創造魔法を使えるならサポートでもカウンセラーでもやってやるから、私が何をするかは口をだしてくれるなよ!


それと、あんたいい加減名前を名乗りなさい!」



狐はキラキラした満面の笑みでやった〜‼︎と叫んで、指をパチンと鳴らした


すると、ミルクティーに鮮やかなピンク色した桃の花が浮かんだ


さっきもそうけど、狐の指で指パッチン出来ないよね?どうやって鳴らした⁉︎私は出来ないのにズルイ‼︎


「自己紹介がまだだったね〜!僕のご主人様は世界を創造した四柱神の一柱アムラ様だよ〜!その神使で第一の腹心ミケラで〜す!君の条件はOKだよ〜!さあさあ〜!お茶を桃の花ごとグイッと飲んじゃって〜!」


「絶対に守ってよね‼︎」


私は一気にミルクティーを飲み干した


急に眠気に襲われ椅子から倒れた


薄れ行く意識の中で「起きたら僕の名前を呼んでね〜!」と、聞こえた気がした


《前とは》違くて、温かく優しく包まれている様心地良さを感じながら私は瞼を閉じた

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