辛党で甘党な彼女

胡白

日本酒とケーキと

どこからどう見ても惚気なのはわかっているが言わせて欲しい。俺の彼女は可愛いのだ。

好きなものに対してはキラキラとした目で語るが、苦手なホラーの話になると精一杯強がりながらも涙目になるところとか。

寝るときにはぬいぐるみを抱いて寝るところとか、夜中にトイレに行くときには電気をつける派だとか。


そんな彼女でも可愛いとは思えない行動に出ることもある。それが月に1回行われる晩酌である。

夕食も食べ終わり、ウキウキと彼女が取り出したのは一升瓶と、茶色の塊。僕は全て食べ終わっていたが彼女が晩酌の準備をするのを黙って見守っていた。

「さーちゃん、今日のメニューは?」

「今日はね、お友達にもらった金沢のお酒と、バレンタインで作ったチョコケーキの余りです」

「貰い物ばっかりだね」

「りゅーくんにも分けてあげようか?」

「僕がお酒飲めないこと知ってるくせに」

「ちょっとでも飲んだら顔真っ赤になるもんね」

「お酒なんて飲まなくても生きていけるし」

「最低限生きてはいけるけど、私にとって文化的な生活はできないね」

そう言って彼女は日本酒をグラスに注ぐと僕のお茶と勝手に乾杯をしてチョコレートケーキをツマミに飲み始めた。

「普通さ、お酒のおつまみにケーキって選ばないものなんじゃないの?」

「んー、そうかもね。お酒好きな人って辛党って呼ぶけど、それって甘いものが好きじゃない人っていう意味もあったって説もあるぐらいだし」

「でもさーちゃんは甘いものも好きなんだ」

「好きだよ!美味しいお酒に美味しい洋菓子、洋菓子にもお酒を使うことがあるぐらいなのに合わないはずがない!」

ぐいっと飲み干す彼女の顔は少し赤く染まっていて早々に酔いが回ってきているのかもしれない。これは途中で寝てしまうことも視野に入れておかなければならないだろう。どうせ明日は2人とも休みなのだから少しぐらいの不摂生は許されるだろう。

ニコニコしながら酒とケーキとを交互に口に運ぶ彼女を見て思い出したことがある。

「そういえばこの前テレビで言ってたんだけど、酒好きで甘いものも好きな人のことを二刀流って言うらしいよ」

「へぇ、右手に酒を、左手にケーキをってことかな。宮本武蔵は二刀流だったらしいけど甘いもの好きだったのかもしれないよね」

「その二刀流じゃないって」

彼女にツッコミを入れるが脳内には、日本刀を身につけた武士が右手に一升瓶を、左手にはケーキを鷲掴みしている光景が思い浮かぶ。自分で想像した映像が思ったよりもツボにハマってしまった。

「んふふふ、いやそれはないでしょ」

「えーないとは言い切れないじゃん」

僕が笑っていることに対しては不満があるのか、むくれる彼女がまだ可愛い。可愛いが発想が突拍子もないのはどうにかしてほしい。腹筋がもたないのだ。


辛党で甘党な彼女はどうやら武士だったらしい。

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辛党で甘党な彼女 胡白 @Schere

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