三限目 決闘血統もう結構 前編

闘春祭。

それは生徒達が学年ごとに分かれて決闘を行う春の一大イベントだ。

全生徒に参加資格があり参加は自由。

名目上は学生の勉学意欲向上と研究の成果を披露する舞台ということになっている。

若者は口であれこれ言うより思う存分戦った方が楽しく学べるしガス抜きにもなるという遥か先代の学園長が提唱した理念によって始まった催しが今なお息づいている。


「はぁ・・・」

(シェニー!ペース落ちてる!)

「はい・・・」


今日も今日とて地獄のトレーニングをこなすシェニー。

だがその顔は浮かないものだった。原因はつい先日決まったレンデリアとの決闘。

決闘まで一週間の猶予があるものの現時点でレンデリアに勝てるビジョンは見えない。徐々に迫り来るその時が鉛のように重くのしかかっていた。


(あんな女が何よ!あんたにだって勝てる要素はあるわ)


不調の理由を察したヴィレッタが喝を入れる。


「本当ですか!?」

(えぇ。強いって言ってもどうせろくに運動もせず本ばっか読んでるような奴でしょ?だったら始まった瞬間にぶちのめせばいいのよ!)

「魔法の決闘ですよ!?」

(身体強化だって立派な魔法よ)

「それはそうですけど・・・」


正論だが釈然としないものがある。


(鍛えた体と血唱術、植物への理解。これはあんたにしかないアドバンテージよ。それを存分に活かせば勝てるわ!)

「はい!」


ヴィレッタの言葉で気を持ち直す。人にはそれぞれ持ってるもの、持ってないものがある。

ないものをねだったところで現実は何も変わらない。

今持ってるもので今できることをやりきった先に勝利がある。

ヴィレッタの言葉に希望を見出し、期待に胸を膨らませながら角を曲がった先に・・・


「はぁっ!やぁっ!たぁっ!!」


木剣で巻藁を叩くレンデリアの姿があった。


(・・・白旗縫う?)

「鍛えてるじゃないですか!!」


アドバンテージは死んだ。いい奴だった。


「あら?」


ヴィレッタと言い合いをしているシェニーに気づいたらしい。

手を止めたレンデリア近づいてきた。

流れ出る汗をタオルで拭うその姿すら気品に満ちている。美人は何をしていても絵になるらしい。

絵画から飛び出してきたかのような美しさに本当に同学年なのかと自信をなくしかける。


「おはようございます」

「お、おはよう!」

「この間はありがとうございます」

「この間・・・?あぁっ」


恐らくつい先日の決闘騒動のことだろう。


「どういたしまして。お節介かなって思ってた」

「どんな形であれ、助けていただいたことは事実です。またお会いできたら是非お礼をと思っていました」

「気にしなくていいのに」


律儀な人だなぁ・・・。


「以前よりお見かけしていましたが、こうしてお話するのは初めてですね」

「えっ!?わたしのこと知ってたの!?」

「はい。独り言を呟きながら鍛錬をなさる不思議な方だと思っておりました」


思った以上にしっかり見られていたらしい。予想外の事実を突きつけられ、顔から火が出るほどの羞恥心が体を駆け巡る。


「あうぅ・・・」

「失礼。まだ名乗っていませんでしたね。私、レンデリア・ユフェルコーンと申します」

「わたしは・・・」

「シェリンドル・ローレリアさん。ですね?」

「っ!?」


先んじて名前を言われ目を丸くする。


「僭越ながら少々調べさせてもらいました。踏み入ったものではないのでご安心下さい」

「う、うん・・・」


調べた?あのレンデリアさんがわたしなんかを?

意図が分からず脳内で疑問符を量産するシェニーにレンデリアはある提案を持ちかけてきた。


「今お時間よろしいでしょうか?」

「えっと、うん」

「では少しお話しませんか?」


ヴィレッタに視線を向ける。その意味を察したヴィレッタは渋々といった様子で頷いた。


「うん。わたしもレンデリアさんとお話したいなって思ってたんだ」

「ありがとうございます。ではこちらへ・・・」


真意はまるでわからないが少なくとも自分を害する気はないのだろう。判断しその提案に乗ることにした。

レンデリアに案内されてやって来たのは中庭から少し外れたところにある森のように木々が生い茂った一角。誰も来ないであろうはずの場所には少し古めかしい意匠のベンチが置かれていた。


「わぁ!こんなところがあったんだ!秘密基地みたいでわくわくするね!」

「ふふっ、喜んでいただけて何よりです」


ベンチに腰掛けた二人は喧騒を忘れて自然の音に耳を傾ける。

トレーニングを終えて火照った体を優しく冷やしてくれる春のそよ風。それに揺られて擦れ合う梢の音色や鳥の囀り。

あるがままに流れてくるささやかな安寧に体を預けているとレンデリアが口を開いた。


「ローレリアさん」

「なに?」

「会って間もない方にこのようなことを訊ねるのは不躾だとは思うのですが・・・魔法が使えないというのは本当なのでしょうか?」

「・・・ふぇっ!?」


思いがけない質問に間の抜けた声を漏らす。


「うん、使えなかったよ。でも、今はちょっとずつだけど使えるようになったんだ!」

(花咲か魔法だけどね)

「先生!」

「それを聞いて安心しました」

「安心?」

「使えないのであれば闘春祭を棄権して欲しいとお願いするつもりでした」

「・・・っ!?」

「決闘となればどのような相手であろうと全力をもって挑みます。しかし、魔法が使えない無抵抗な方を一方的に痛めつけるような真似はできません。だからこそ、確かめる必要があったのです」


胸に手を当て真っ直ぐにこちらを見据えるレンデリアの瞳に嘘偽りは感じ取れない。

それがこうして話し合いの場を設けた真意なのだと気づいたシェニーはふっと笑みを溢した。


「ふふっ」

「何かおかしなところが?」

「ううん。優しいなって思っただけだよ」

「優しい?」

「優しくなかったらそんなこと言わないよ。よく決闘してるから怖い人だと思ってた」

「怖い・・・」


流石にショックだったのだろう。レンデリアの表情にわずかに影が差した。


「そこまで言われたらこっちも気合入れなくちゃ!わたしなんかが相手になるかわからないけど、胸を借りるつもりで頑張るね!」

「・・・っ!!」


シェニーにとってそれは他意のない言葉だった。

今の自分がどれだけ通用するかわからないがそれでも全力を尽くす。

ただそれだけの意味だ。

だが、その一言でレンデリアの表情は一変して険しいものとなった。

訳が分からず困惑するシェニーを睨みつけ、勢いよくベンチから立ち上がる。


「レンデリアさん?」

「やはりあなたは棄権するべきです」


先ほどとは打って変わった冷たい声で突き放し、足早に立ち去ろうとする。


「待って!」


シェニーの制止にレンデリアは立ち止まり、肩越しに振り返る。

呼び止めたのだから何かを言わなければならない。しかし、気の利いた言葉はすぐには浮かんでこなかった。

二の句が継げずにいるシェニーに嘘偽りのない本心が突き刺さる。


「己を卑下するような方に勝ったところで嬉しくもありません」


それだけを言い放ち去っていくレンデリアについに何も言えなかった。

去り際に見せたあの瞳。

あんなものを見せられては何も言えるわけがない。



「はぁっ・・・」


レンデリアと分かれてから早一時間。今日何度目かわからないため息を吐きながら目的地もなくひた歩く。肩を落とし俯いて歩くその姿にいつもの元気はない。


(あームカつく!何よあの女!シェニー!あいつの前歯と鼻っ柱へし折ってやりなさい!!)


ヴィレッタは拳を振って殴りつけるジェスチャーをする。シェニーは何も言わずとぼとぼと歩くだけだった。


(何よ?ノリ悪いわね)

「わたしは、どうすればいいんでしょうか?」


いつもと違うか細く弱々しい声。

ふざけてる場合ではないと判断したのか、ヴィレッタは神妙な面持ちで答える。


(ムカつくけど、あいつの言う通りよ。自分のことをなんか呼ばわりしてる奴倒したって嬉しくもないわ)

「ですよねぇ・・・」


相手が生半可な気持ちで挑もうとしているのだ。自分がレンデリアだったとしてもきっと怒っただろう。


「わかってるんです・・・。自信を持って堂々としなきゃって。でも、そんなの無理です。だってわたしはつい最近まで魔法が使えなくて、レンデリアさんは一度も負けたことないすごい人で・・・。そんなの勝てるわけないじゃないですか」


弱音というものは一度出てくると後から後から漏れ出してくる。

レンデリアと戦うことが決まった時からずっと溜まっていたこと、思っていたことが堰を切ったように流れ出す。


「そうだ!いっそ先生が戦って下さい!それならきっと・・・」

(ふざけるな!!!)

「ひぃっ!」


いつにも増して凄みのある一喝に怯えて縮こまる。


(私はあんたの召使いでも剣奴でもない!あんたのために戦うなんて真っ平御免よ!!)

「あぅ・・・」

(そんなに嫌ならケツ捲って逃げなさい!棄権したって誰も責めたりしないわ)

「・・・」

(特訓の成果が試せればって思ったけど、相手が悪過ぎたわね。無理言って悪かったわ)

「いいんです。わたしも経験になればって思ってましたから。でも、そんな気持ちじゃレンデリアさんに失礼ですよね・・・」


自分の力を信じいつ如何なる時でも全力を持って取り組む。それがレンデリアという人間なのだということを短い邂逅の中で痛感した。

経験になれば?胸を借りるつもりで?

その程度の気持ちで挑むならそれこそレンデリアを侮辱することになる。


「・・・すみません。もうちょっと考えさせて下さい」

(迷うことある?まぁいいわ。好きにしなさい)


参加も容易なら棄権も容易である。

投票箱の横に置かれた赤い紙に名前を書いて入れれば棄権が成立する。棄権するかは歩きながら決めようとひとまずエントランスを目指す。

その途上、中庭で何やら盛り上がっている一団に遭遇した。


「次はゴリウッホ・ナババ対ストラリーチェ・パナックだ!さぁ、誰に張る!?」

「当然ナババだ!鋼拳の異名は伊達じゃねぇ!」

「俺はパナック!かわいいから!」

「かわいくても勝てねーだろ」


進行役と思わしき生徒が音頭を取り、学年もバラバラな生徒達が口々に名前を言い合っては進行役の生徒に小さな紙の束を渡している。

シェニーにとっては毎年の光景だがヴィレッタにとってはそうではない。


(何あれ?)

「ブックメーカーです。毎年誰が勝つか賭けをやってるんですよ」

(学生が金賭けていいわけ?)

「あれはお金じゃなくて食券です」

(食券?)

「はい!共通メニューでは使わないんですけど、作るのに手間がかかったり高級だったりする料理には食券を使うんです」

(ってことは賭けに勝ったらおいしいお菓子とか食べられるってこと?)

「ですね」

(・・・あんたに賭けるから勝ちなさい)

「棄権していいって言いましたよね!?」


遠巻きにその様子を眺めている間にも賭けは進み、ついにあの対戦カードが登場する。


「次はレンデリア・ユフェルコーン対シェリンドル・ローレリアだ!さぁ、誰に張る?」

「・・・」


レンデリアが出る試合でネームバリューは抜群。だが、ギャラリーの反応は冷ややかなものだった。


「どっちって言われてもなぁ・・・そんなのユフェルコーンさんの圧勝だろ」

「そうそう。ってかローレリアって誰?」

「俺知ってる!魔薬学年トップだった奴だろ?」

「そいつって確か魔法使えないんじゃなかったっけ?」

「マジ?賭けにすらならねーじゃん」


二人の力量差がありすぎて賭けが成立しないと悟ったのか、進行役の生徒は咳払いをして仕切り直す。 


「じゃあこの試合に限り条件変更だ!ユフェルコーンがどれくらいで勝つか!どうだ?」

「瞬殺に賭けるぜ!」

「そもそも棄権するんじゃね?」

「じゃあ俺一分!」


内容を変更した途端我先にと賭けに参加し始める。シェニーの勝利を信じる者は誰一人としていなかった。


「・・・」


その様子を遠巻きに見ていたシェニーは居たたまれなくなってこの場を後にしようとした・・・その時だ。


「シェリンドル・ローレリアの勝利に全部賭けます!!」


聞き覚えのある声に振り返るとテーブルに食券の束を叩きつけるルジーの姿があった。


「う、承りました・・・」

「正気か?」

「ユフェルコーンさんに勝てるわけないのに」

「食券ドブに捨てたぞあいつ」


誰もが張らなかった大穴へのベットに動揺が走る。

進行役の生徒が引きつった笑みで了承するとルジーはさっさと立ち去ろうとする。


「ルジーちゃん!」


その背を呼び止めて駆け寄るとルジーは少し驚いた様子で振り返った。


「見てたんだ」

「どうしてわたしに賭けたの?」


その問いにルジーは頬に人差し指を当てて考え込む素振りを見せる。


「シェニーちゃんを応援したいから、かな?」

「勝てるわけないってわかってるよね?」

「それでもいいの。シェニーちゃんがベストを尽くしてくれたらそれで満足だから」

「ルジーちゃん・・・」

「だから決闘、頑張ってね!」


そう言うと後ろ手を振って去って行った。


(あいつ、相当な穴師ね)


その背を見送るヴィレッタがぽつりと呟く。その間にもシェニーの思考は大きな転機を迎えていた。

相手は決闘で一度も負けたことがない無敗の女王。同級生どころか六年生ですら歯が立たないほどの使い手だ。

当然今のままでは勝てない。勝負にすらならない。

でも、勝ちたい。いや、勝ちたくなった。


「あの時、失望してたんです」

(はぁ?)

「何を期待していたのかは分かりません。でも、わたしに何かを期待してたなら応えたかった。けど、わたしにはその力もそれを聞く勇気もなくて・・・」

(ごめん。何の話?)

「・・・先生」

(んー?なぁにぃ?)


顔を上げてヴィレッタの瞳をまっすぐに見据える。ヴィレッタは意地の悪い笑みを浮かべながらそれを見下ろしていた。言いたいことがわかっているのだろう。


「勝てる見込みってどれくらいですか?」

(ゼロよ。手札はまだまだあるでしょうしね)

「ちょっとでも上げる方法ありませんか?」

(・・・死ぬ覚悟ある?)

「ありません」

(ないの!?そこはあるって言うものでしょ!?)

「死んだら先生も死ぬじゃないですか」

(それもそうね・・・)


想定外の言葉に調子を狂わされたヴィレッタはバツが悪そうに頬を掻いてシェニーを見る。


(基礎トレーニング、魔法の特訓、戦術検証・・・やることは山積みよ。今まではあんたに合わせてたけど、ついてこれる?)

「ついて行きます!」

OK!死ぬ気で食らいついてきなさい!!)

「はい!!」

(・・・って言いたいけど、一つ問題があるのよねぇ)

「なんですか?」

(魔法よ。悪いけど、私じゃ木の魔法は教えられないわ)

「そうなんですか!?」

(私の血じゃ木は使えなかったし、苦労と成果が割りに合わないから学んだことないのよねぇ)

「じゃあどうするんですか?お花だけじゃレンデリアさんに勝てませんよ!」

(そのくらい自分で考えなさい!木を専門的に学ぶ科目ってないの?)

「四大元素はあるんですけど、木はないんですよねぇ・・・」


思わぬ難問に頭を抱える。

インセィズ魔法学園では一年から三年までの間に基本の魔法を一通り覚え、それ以降は必修の魔法学と平行してより専門性が高い魔法学を選択することもできる。

しかし、その科目は基本の四大元素、火、水、土、風の四科目だけであり木を専門的に学ぶ科目は存在しない。

魔法薬学や生物学である程度勉強するもののそれは植物の知識であって木の魔法の知識ではない。

教わるなら教師、それもあらゆる属性に精通し木の扱いにもそれなりに長けた者でなくてはならない。

そんな都合のいい人材がこの学園に・・・


「・・・あっ!いました!エミーちゃん先生ならきっと知ってるはずです!」

(・・・ん?エミー、ちゃん?)

「放課後なら塔にいるはずです!後で会いに行きましょう!」

(塔?)



魔法使いの道は一日にしてならず。誰もが最初から魔法が使えるわけではない。

右も左も分からない新入生達に魔法の初歩を教え学徒としての一歩を踏み出す手助けをするのが三年生までの生徒を受け持つの教師達だ。

中等魔法学の教師には魔法に対する深い知識と理解、そしてそれを扱う技量が求められる。

放課後、シェニーはある場所を訪ねた。

校舎の裏手にある小高い丘の上にそれはそびえ立っている。魔法学園で働く教師達が寝泊りし、日夜研究に勤しむ教員棟だ。

細長い塔のような形をしているため生徒達からは塔という愛称で呼ばれている。

塔の門前に詰める守衛に名前と来訪の目的を告げ取り継いでもらうこと数分。

塔から一人の人間が降りてきた。

それはシェニーの胸ほどしかない小柄な少女だった。

腰まで伸びた甘いチョコレートのような深い茶髪は後ろで一本にまとめられ、少女の動きに合わせてぴょこぴょこと揺れる。

赤みがかった丸くて大きな灰色の瞳は少女のかわいらしさをより一層引き立てていた。

耳が普通の人間よりも長く先端が尖っていることを除けばどこにでもいそうな幼い少女がシェニーに歩み寄ってきた。


(えーっと、まさかとは思うけど・・・)

「はい。中等魔法学のエスタミア・ガンダリン先生。エミーちゃん先生です!」

(嘘でしょ!?ただのガキじゃない!)

「エミーちゃん先生はすごいんですよ!外国の魔法学院を飛び級で卒業した若き天才なんです!」

(若すぎでしょ!?いくらなんでもこんなガキが・・・)


言いかけた言葉が止まる。不思議に思って視線を追うとエミーの長く尖った耳に注がれていた。


(なるほどね・・・。教師にだってなれるはずだわ)

「・・・?」

「えっと、さっきから誰と話してるの?」

「わぁっ!?」


どうやらずっと聞かれていたらしい。


「久しぶりだね。シェニーちゃん」

「はい!進級試験以来ですね」


エミーは進級試験の試験官としてシェニーの魔法を採点した教師だ。

魔法が使えなかった自分を見捨てず親身になってくれたかけがえのない恩師でもある。


「エミーちゃん先生!今日はお願いがあって来ました!」

「もぅ!ちゃんはつけないでっていつも言ってるでしょ!」

「すみません。どうしてもつけちゃって・・・」

(気持ちはわかるわ)

「それで、お願いってなに?」

「ここじゃなんですから場所を変えませんか?」


エミーを連れて魔法の実技練習に使う広場、実習場へと向かう。

その途上でエミーを呼んだ理由や自分の近況、そしてお願いのことを話し、話し終える頃には実習場にたどり着いていた。

話を聞いて感動した様子のエミーがシェニーの腰に抱きついてくる。


「やったねシェニーちゃん!シェニーちゃんならできるって信じてたよ!」

「ありがとう!エミーちゃんが・・・エミーちゃん先生が信じてくれたおかげです!」

(私のおかげでしょうが)

「先生として当然のことをしただけだよ!・・・それにしても、シェニーちゃんも大変だねぇ」

「あはは・・・」

「レンデちゃんと決闘かぁ。知ってるとは思うけど、あの子はものすごく強いよ?風魔法だけなら私よりうまいと思う」

「先生より!?」


衝撃の発言に唖然とする。

エミーは赴任して一年ほどの新米教師だが、中等魔法学の教師の一人として当時三年生だったシェニー達を受け持つ機会が多々あった。

その際、彼女を子供扱いして軽んじた生徒を魔法で圧倒した勇姿は記憶に新しい。

そんな彼女が自分よりも風に精通していると言うのだ。改めて越えるべき壁の高さを思い知らされる。


「だからこそ!エミーちゃん先生に木の魔法を教わりたいんです!どうしてもレンデリアさんに勝ちたいんです!」

「よく分からないけど、勝ちたいって気持ちはわかった。でも、なんで木なの?火とか風の方が使いやすくない?」

「えっと、それは・・・」


話してもいいか?という意味を込めた視線をヴィレッタに送る。

答えは否。

視線を察したヴィレッタは首を横に振った。


(血唱術のことは伏せなさい)

「どうしてですか?」

(説明してる時間はないわ。それしか使えなかったとでも言っておきなさい)

「はい!」


よく分からないが血唱術のことを知られるのは都合が悪いらしい。


「えっと、魔法は使えるようになったんですけど、何故か木しか使えないんです。他の属性も試したんですけど全然で・・・」

「人によって属性の得手不得手はあるけど一個しか使えないってのは聞いたことないなぁ。わかった!木の魔法の練習と平行してレンデちゃん対策をしていけばいいんだね?」

「おおぉ、エミーちゃんすごい・・・尊敬・・・!」

「だから先生だってば!」


エミーは得られた情報を元に適切なメニューを瞬時に構築する。

見た目は小さく幼くとも学園長に見出され教員として雇われた立派な教師なのだと改めて思い知らされた。


「放課後って時間ある?」

「はい!」

「闘春祭まで一週間。できる限り詰めていくよ!ビシバシいくから覚悟しててね!」

「ありがとうございます!ビシバシは慣れっこです!」


拳を力強く握って決意のほどを見せる。

かくしてレンデリアとの決闘に向けた秘密の特訓が行われることとなった。


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