第129話
付き合っていないのに、身体の相性はっていう実くんの言葉に、僕はびっくりした。
僕がこの3日間で宗くんとしたああいうことを、実くんは付き合っていない人と。
経験がなければ、想像でしかなければ、大人なんだからそんなこともあるかもっていう感想で終わったかもしれない。
でも、知っているだけに、知ってしまっただけに、それは少し、考えたら悲しかった。
宗くん以外の人と、なんて、僕は考えるのも無理だ。
ただ同時に、安心もした。
僕のせいで実くんは………冴ちゃんもだけど、僕のこの虚弱体質のせいで、絶対に、かなり不自由だったはずなんだ。
それに対してすごくごめんなさいって思っていただけに、実くんは実くん自身のために何もできていないわけではなかったって。
………勝手な安心。
「どんな実くんでも、実くんは僕の大好きな、自慢のお兄ちゃんだよ」
僕がそう言うと、実くんは目を伏せて、弟の僕でもどきっとするぐらいキレイに笑った。ありがと。ボクもだよって。
「え?」
「明くんはボクの、最高にかわいい自慢の弟」
「………実くん」
僕の、何が。
っていうのは言わないでおこうって、僕は黙った。今は僕と実くんの話ではなく、あおちゃんの話。
あおちゃんは実くんのカミングアウトを聞いて、それ以上『バカじゃね』って言わなかった。
言わなかったけれど、黙って途中だったご飯を食べて、全部食べて、ごちそうさまでしたって、いつも通り自分が使ったお皿やお箸を台所に持って行った。
そしてそのまま、おじゃましましたって帰って行った。
その背中を、玄関を、いつまでも見ていた僕に。
「大丈夫だよ、きっと」
実くんの穏やかな声と、ぎゅっと握られる、宗くんと繋いでいた手。
「あおちゃんとはもう長い付き合いだし、あおちゃんと明くんは他にほとんど仲良しいないし、あおちゃんが明くんと口をきかないで3日以上持ったことなんてないから」
ね?って言われて、うんって返事をして、僕はまだ残っていた、すっかり冷めてしまったお昼ご飯を食べた。
「そうだ、宗くん」
「………?」
お昼ご飯後。
片付けはボクがやるからいいよって、実くんはお皿を洗っていて、宗くんは本を読み始めていた。
僕は最近すっかり疎かになっている編み物でもしようかと立ち上がって部屋に行くところだった。
「アトをつけるなら、首筋はやめた方がいいよ?」
「………アト?」
「明くんの首。キスマーク。見えてる」
「………あ」
部屋に向かいながらふたりの話を何となく背中で聞いていて、宗くん同様、アト?って疑問に思っていたら、まさかの話で。
一瞬の空白。………のち、つながるワード。
首。キスマーク。見えてる。
僕は思わずええ⁉︎って首を押さえて、鏡を見るために慌てて洗面所に駆け込んだ。
聞こえる実くんの笑い声。
「明くんも16で大人かあ」
「もってことは、実も16?」
「うん、そう。ちなみにボクの初めての相手は通ってた高校の先生」
「………まじか」
「うん、まじ。………先生元気かなあ」
え、高校の先生⁉︎って聞こえてくる実くんと宗くんの話に耳を傾けつつ、見た鏡。首。
そこには実くんの言う通り、しっかりと、宗くんがつけた赤いアトが見えていた。
これはいつの?今日?昨日?一昨日?
もし今日じゃ、さっきじゃなかったら、冴ちゃんにも見られているかもしれないってこと?もしそうだとしたら。
「高校の先生とっていつどこでヤんの?」
「放課後、適当にあいてる教室とかで、だったね。高校男子なんて盛ってる年頃だから、平日はほぼ毎日」
「………盛ってんな」
「宗くんもでしょ」
「………盛ってんな」
今日は実くんの意外な一面ばかり知った気がする。
ふたりの話を聞きながら、首を押さえながら、宗くんなんてこと言ってるのって思いながら、そんなことを思った。
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