第128話

「あおちゃん、明くんの写真嫌いはよく知ってるよね?」

「………知ってる」

「じゃあそれをよーく踏まえた上で、見てごらん」



 写真を持って戻って来ると、実くんはあおちゃんにそんなことを言っていた。



 僕の記憶にない保育園時代の写真。

 本来ひとりで写るはずなのに、宗くんとふたりで写っている誕生日の記念写真。



 僕ははいって写真をあおちゃんに渡した。

 あおちゃんはイヤそうにそれを受け取って、見て………黙った。



「分かるよね?一緒に写ってるのは宗くんだよ」

「………」

「ボクもその写真、多分当時見たんだろうけど記憶になくて、こないだ明くんに言われて引っ張り出した」

「………」

「すごくない?それ」

「………」

「ボクはもうかれこれ16年、明くんのお兄ちゃんだけど、明くんってこんなにキラッキラに笑うんだって、びっくりした」



 貸してって、実くんはあおちゃんから写真をスッと取って、うん、何回見てもかわいいって笑う。



「これ見たらさ、もう何も言えないよね。大嫌いなカメラを向けられてるのに、この笑顔だもん。全身でお互いにお互いをだいすき‼︎って言ってる。そしてその気持ちを今も持ってる。その上明くんは16と18でボクを産んで育てた冴ちゃんとたろちゃんの息子。反対なんてボクには………冴ちゃんもだよね、できないでしょ」



 あおちゃんは下を向いていた。

 首が落ちるんじゃないかというぐらい、下を向いていた。そして、バカじゃねって言った。



「お、まだ言う?」

「………バカだろ」

「それは何で?」

「男女の話と男同士の話を一緒にすんなよ。しかも明くんと宗は兄弟だ」

「ああ、そこね」



 宗くんの隣にまた座って、僕はあおちゃんと実くんのやり取りを聞いていた。

 下手に口を出すより、小さい頃から実くん実くんって実くんのことが大好きなあおちゃんだから、ここは実くんに任せた方がいい気がする。



 そう思っていたら、隣からまた宗くんの手が伸びて来て、僕は宗くんに手を握られた。



 もしかしたら、これで絶交なんてことにもなりかねないぐらい頑ななあおちゃんを目の前に、こうやって落ち着いていられるのは、宗くんが居るから。



 僕も宗くんのかたい手を、そっと握った。



「兄弟って言っても戸籍上だから、普通に結婚できるんだよ。法律的に問題はない。って言っても、日本はまだ同性の結婚はできない。それは今後の社会問題だね。今はだいぶ理解されてきたし、普通に結婚できる日も来るかもね」

「そういう問題じゃなくて‼︎」

「うん。何でボクや冴ちゃんが反対しないかってさ、そもそもボクが生粋の、ごりっごりの同性愛者だからだよ」

「………え?」

「………実くん」

「これについては何年も前に冴ちゃんと明くんにカミングアウトして、受け入れてもらってるからね。だから反対なんてしない。できない。ボクがオッケーで明くんがダメなんて、それこそ間違ってるよね」

「………」

「これは、あおちゃんだって何となく知ってたでしょ?何年か前にボクのデート現場見てるし」

「え、実、恋人いるの?」

「いないよ。そのとき一緒に居たのは、お互いフリーだからって何回か会って付き合うかどうするか考えただけの人」

「へえ。付き合ったの?」

「ううん。付き合わなかったよ。身体の相性はすごく良かったんだけどね」

「え?」

「ん?」



 流れる話のまま、さらっと実くんが実くんらしかぬことを言った。



 ………身体の相性ってことは、付き合っていないのに、そういう行為をしたってこと?実くんが?



「ボクは明くんが思ってるよりずっと、悪いお兄ちゃんだよ」



 びっくりしている僕に実くんはそう言って、ふふって笑った。

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