第126話

「あほらしいとか思わねぇの?高校生にもなってなんて」

「ごっこ遊び?」

「夫婦ごっこだろ。どう見たって」

「ごっこじゃないよ」

「知らねぇの?明くん。日本の法律じゃ16で結婚はできねぇんだよ。しかも男同士の結婚もできねぇ。何年経っても不可能。どっちも不可能。どこまで行っても不可能。んなのじゃなきゃ何だっつーんだ」



 テーブルに頬杖をついて、面倒くさそうに言っているあおちゃんが、あおちゃんのはずなのにすごくかわいくなかった。



 あおちゃんは、女の子の服を着て着飾るとかなりの美少女になる。

 そうしなくたってぱっと見女の子の、整った顔をしている。



 僕はそもそも、一番身近に居るお兄ちゃんの実くんが身内贔屓を外したとしてもキレイな人。

 さらに最近では光くんや光一さん、天ちゃんさんっていう別次元レベルの容姿の人が僕のまわりにあらわれた。



 でもあおちゃんは、そんな人たちの中でも、ひけを取らないぐらい普通にかわいい。



 ………はずなんだけど。



 あおちゃんは、まだぶつぶつ何かを言っている。



 気づいているのかいないのか。

 ぶつぶつ言えば言うほど、かわいくなくなっていることに。



「うっわ、あおちゃん、どうしたの?すっごいおブスになってるけど。もしかしてまだやきもち焼いてる?」

「はあ⁉︎おブスって何だよ実くん‼︎あおはいつもいつでもかわいいに決まってるだろ⁉︎」

「いやごめん、今のあおちゃんはびっくりするぐらいおブスだよ」



 どうやら今日のあおちゃんがかわいくないと思ったのは、僕だけではなかったらしい。



 お昼ご飯を運んで来てくれた実くんが、僕が思ったことと同じことを言っていて、少し驚きつつも、やっぱりそうだよねって思った。



「何だよそれ‼︎顔なんかいつも同じだろ⁉︎しかもやきもちって何だよ‼︎」

「だって、やきもちでしょ?明くんが宗くんにとられちゃったから」

「はあ⁉︎だから何言ってんだよ⁉︎とられたも何も、そもそも明くんはあおのもんじゃねぇ‼︎」

「うん、まあ、多少の語弊はあるけど、でも、やきもちでしょ?」

「ちげーよ‼︎」



 実くんと宗くんでご飯を運んで来てくれて、実くんはあおちゃんの横に、宗くんは僕の横に座って、食べよって言った実くんに宗くんは張り切って、あおちゃんは渋々手を合わせた。

 僕もいただきますって手を合わせて、でも、箸を持つ前に宗くんを見た。



 宗くんはいつも、ぴんと背筋を伸ばしてしっかりと手を合わせる。



 光くんもそう。

 光くんは宗くんよりもっとで、長く長く手を合わせてからやっと箸を持つ。



 それを見ると、食べものを、食べることを大事にしているんだなって、いつも思う。見習わないとって、思う。そして僕は。



 宗くんのそれを見るのが、好きだったりする。



 僕が見ていることに気づいた宗くんが、ん?って首を傾げた。

 僕はううんって首を振って、箸に手を伸ばした。



 僕のまわりには顔面偏差値が異常に高い人ばかりだけど、僕には宗くんが一番。



 って思ったことは、宗くんとふたりきりになったときに伝えよう。



「やきもちじゃなきゃ何なの?」



 あおちゃんの不機嫌は空腹もあったのかもしれない。



 しばらくそれぞれが黙々と食べた後、実くんがあおちゃんに聞いた。

 あおちゃんはイヤそうに顔をしかめて、それから唐揚げを口に突っ込んだ。



 ………あおちゃんが好きなやつ。



 今日あたりあおちゃんが来ると予想して、あおちゃんの好物を用意してくれている実くんはさすが。



「幻想だろ、恋だの愛だのなんて」

「幻想?」

「いつか覚める夢だ。いつか冷める幻。なのにんなのしてどうすんだよ。くだらねぇ」



 ぶつぶつ、ぶつぶつと、不貞腐れた口調で言ってはいるけれど。



 ………本当に本気でそう思っている?



「じゃあ聞くけど」



 黙々と、今日もぼろぼろとこぼしつつご飯を食べていた宗くんが、睨むようにあおちゃんを見て言った。



「………何」

「そんなこと言うってことは、そんなことが言えるぐらいの経験があるってことでいいんだよな?」



 宗くんに聞かれたあおちゃんは、それに答えることができなくて黙った。



「ないのかよ」

「………」

「俺はガキの頃に、明を死ぬまで死ぬほど愛するって決めたんだ。それを今、明としてるんだ。経験も何もないやつが、偉そうに語って反対してんじゃねぇ。黙って引っ込んでろ」



 淡々と言い切った宗くんに、部屋はしんと静かになった。





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