第125話
「ただいまー」
怒っているあおちゃんを立たせて冴ちゃんの寝る部屋兼居間に移動して、何か話さないといけないんだろうけど、何を?って困っての沈黙。
そこに宗くんのお腹の爆音が鳴り響いたタイミングで、実くんが帰って来た。
もうそんな時間だったのか。
宗くんとの時間は、驚くほど、飛ぶように、早い。
「あれ?ご飯まだなの?あおちゃんそろそろ来ると思って、ちゃんとあおちゃんの分も用意してあるよ?」
実くんがおかえりなさいを言う僕たちが居る部屋を覗いて不思議そうに首を傾げた。
「………何だよ、そろそろって」
「何って、あおちゃんが明くんと口をきかないで3日以上持ったことなんてないでしょ」
「んなことねぇし」
「んなことあるよ。ボクのついでにみんなのご飯あっためていい?それとも後の方がいい?」
ぎゅるるるるるるるる…
『ご飯』のワードにか、単に限界か、宗くんのお腹が元気よくすぐに食べるって返事をして、とりあえず僕たちは、ご飯を食べることにした。
「明は座ってろ」
実くんの手伝いをするつもりで立ち上がろうとした僕を、宗くんが制した。俺がやるって。
「え?明くん調子悪い?」
それを聞いていた実くんが台所からまたこっちを覗いて、顔色は悪くないねって。
「全然、大丈夫だよ?」
全然………は、少し言い過ぎかもしれない。
身体は確かに怠いし重いし、あちこち筋肉痛。
でもそれは体調が悪いから、ではなく、宗くんと………だから。
ただ、それで怠いというのはあっても、それで怠いというだけで、不思議なことに今年の夏はいつもの夏に比べて遥かに楽だった。
なのに宗くんは強引にいいからって僕を座らせて、何やればいい?って実くんを台所に促した。
「宗くんはすごく思いやりのある旦那さまだよね」
「………っ」
実くんは僕に向かって小さくそう言って、ふふって笑った。
思いやりのある、旦那さま。
実くんの言葉に、思わず握った、たろちゃんネックレス………というか、指輪。
この指輪の裏側には、アルファベットで宗くんと僕の名前が刻まれている。
そう、これはれっきとした、正真正銘の結婚指輪で、同じものを宗くんも持っている。
だから法律で認められないとかは置いておいても、僕たちの気持ち的に間違いではない。
でも、旦那さまって。
改めて言われると………恥ずかしいというか、くすぐったいというか。
ちなみに宗くんも指輪は指に、はめていない。
宗くんは剣道をやるからどうしてもはめられなくて、僕が作ったミサンガと一緒に、僕が作ったお守り袋に入れていつも持ち歩いている。
「………何が旦那だよ」
僕の横で、まだ不貞腐れているあおちゃんが、機嫌の悪い声でボソリと呟いた。
あおちゃんの家も、うちと同じでお父さんは居ない。
うちは死別。あおちゃんの家は離婚。
離婚の原因が何かまでは知らない。僕が知っている限りの最初から、あおちゃんの家にお父さんは居ない。見たことがない。
そのことと、あおちゃんが恋愛系の話を避ける傾向があることに、もしかしたら関係があるのかもしれない。
多分、あおちゃんは実くんのことが好きなのに、他のことならほぼ何でも知っているあおちゃんの、そのことだけ僕は知らない。
「僕の旦那さまだよ、宗くんは」
「………は?」
僕の言葉に、あおちゃんの空気が瞬時に凍った。
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