第124話

 そんなに驚くことだろうか。



 宗くんと僕が最後までしてしまったことを確認して、座り込むあおちゃんを見てぼんやり思った。



 確かに、同性で兄弟、という点に関しては、普通ではない、驚くべきことなんだけれど。



 この人と思う人と、気持ちを重ねただけ。

 言葉では足りない、この人だという気持ちを身体で。

 それがたまたま宗くんで、それがたまたま僕なだけ。



「………あおちゃん」



 呼んだ僕の声に、あおちゃんの肩がぴくりと動いた。



 今日は珍しく、ヒラヒラの女の子女の子した服じゃない。かつらもない。あおちゃんなあおちゃん。



「明、先に服着ろ」

「………あ、うん」



 宗くんが床に散らばる僕の服を拾ってくれて、僕は倦怠感が残る身体を何とか動かして服を着た。



 熱や体調がイマイチのときの怠さはものすごく不快なのに、この怠さは宗くんの気持ちが残っているようで心地いい。気持ちいい。



 ………ようで、じゃない、か。



 残っている。だから心地いい。気持ちいい。



 身体中に、僕の全部に、僕の中、奥の奥まで、宗くんの気持ちが残っている。



「明?」



 ベッドからおりて下着を履いて、ズボンを履いて、立っているのが少しつらくてベッドの端に座った。

 そしてアンダーシャツを着て、シャツのボタンをとめている途中で手が止まっていた僕を、宗くんが心配そうに呼んだ。



「ごめん、やり過ぎたな。俺」

「………やり過ぎたって」



 僕の横に座って、僕のほっぺたに触れる宗くん。

 ツッコミを入れるあおちゃん。



「ううん、違うよ」

「でも明、昨日より怠そう」

「………昨日もやったのか」

「大丈夫」

「大丈夫じゃねぇって。やっぱ3日連続はなしだな」

「………は?3日連続?サル?」

「なしじゃないよ、全然。宗くんの気持ちが僕の身体に残ってるのが嬉しくて、それが心地良くて、気持ち良くて、ちょっと浸ってただけ」

「………なしじゃねぇって、正気か」

「俺の気持ち?」

「………うん。身体中に残ってる。奥の奥まで残ってる。脈打ってる。宗くんの気持ちが。そう思って」

「………明」



 合間合間に聞こえるあおちゃんのツッコミが気になった。

 でも、敢えてそこはスルーをした。



 僕が宗くんと、どんな気持ちで身体を繋げたのかが伝わればいいと、思って。



「宗くんの目からも、聞こえる」

「目?」

「僕って思ってくれているって」

「………うん。明っていつも、思ってる」

「宗くんの身体からも聞こえる」

「身体?」

「宗くんと身体を重ねると、繋げると、より聞こえてくる。伝わってくる。僕って」

「………うん。明って思って、してる」

「それが残ってるこの倦怠感が、僕はすごく………好き」



 僕はまだ途中だったボタンを最後までとめてから、自分の身体をぎゅっと抱き締めた。



 虚弱で軟弱で、大嫌いでしかなかった僕。僕の身体、なのに。



 宗くんは、僕の言葉に少し驚いたような顔をして、それから素早く一瞬、僕の唇に宗くんの唇を乗せた。



「アイツ居なかったらもう一回脱がせてたな」

「………え?」



 あおちゃんが、居なかったら。



「どんだけしても足りない。もっと明に、明って刻み込みたい」

「………やっぱサルだ」



 つぶやいたあおちゃんに聞こえないように、僕は宗くんの耳元で言った。



「また明日、ね?」



 明日また、冴ちゃんが居なかったら。

 明日また、実くんが居なかったら。



 また明日、僕に宗くんを。宗くんの気持ちを。



「………やべぇってまじで」



 思わずって感じに僕を抱き締めた宗くんの、いつもより濃いにおいに、僕は目を閉じた。



 ここ。

 ほら、ここ。



 僕はここで。



「いつまでも完全シカトでいちゃってんじゃねぇ‼︎」



 あおちゃん。



 あおちゃんにもいつか、こんな人が現れるよ。

 あおちゃんが望めば。

 あおちゃんが諦めなければ。



 こっちを見て怒っているあおちゃんに、僕はそう、思った。

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