第123話

 宗くんが僕にしたいと、僕としたいと思うことなら、僕は何でも許せると思う。



 いくら何でも展開が早すぎるとか、思わなくもない。思う。



 でも、宗くんは保育園の頃からずっと僕を覚えていてくれていて、しかもずっと僕を好きでいてくれて、だから、僕らのいわゆる思春期って年からも、そういう気持ちが早る、一刻も早く、といのも分かる。



 僕は、というと、小さい頃のことは全然何も覚えていないから、早い。展開が。ものすごく。

 僕は最初、宗くんのことをかなり怖がっていたはずなのに。



 初めて………これも僕的に、宗くんと初めてキスをしてからまだほんの少し。

 4日前に本格的にキスを交わして、3日前に僕の部屋でさらに本格的なキスと、もう一歩進んで、2日前にはもう………で、1日前、つまり昨日も、で、今日も。



 だから早い。

 早すぎる。何もかもが早い。進み具合が。

 しかも僕たちは同性で、今は別に暮らしているけれど、いずれ一緒に住む再婚した親同士の連れ子の兄弟。



 身体と同じく虚弱軟弱な心の僕は、この展開に正直ついて来ていない。

 なのに、僕の中にその僕とは別の僕が居て、その僕が思っている。



 宗くんが僕にしたいって、僕としたいって思うことなら、僕は何でも許せる。

 むしろ………嬉しい。そう、喜んでいる。宗くんがすとんってはまった僕の心が、身体ごと。全身で。僕の全部で。



「寒くないか?」



 重なっている素肌。

 に、文字通り宗くん。



「宗くんがあったかいから………大丈夫」



 僕は、好き以上、大好き以上の目で僕を見下ろしている、何も着ていない宗くんの背中にぎゅっと腕を絡めた。






「はあああああ⁉︎何やってんだよ、お前‼︎お前ら‼︎」

「………っ⁉︎」



 突然の大きな声にびっくりして、目が覚めた。

 僕はいつの間にか寝ていたらしい。



 慢性運動不足の僕に、いくら宗くんが僕を労わりつつくれるからとはいえ、まだ慣れないは僕的にかなりハード。



 終わった後、体力の限界でそのまま寝てしまい、目が覚めた。そう、あおちゃんの絶叫で。



 びっくりして起き上がって、その急激な動きに僕は咳込んだ。



「大丈夫か」



 宗くんがすぐに背中を摩ってくれて、水飲めって、咳がおさまったところにマグカップを渡してくれた。



「………ありがとう」

「ん。ゆっくりな」

「うん」



 言われた通り一口ずつ飲んで、かわききった喉を潤した。

 宗くんはその間、ずっと僕の背中を支えてくれていた。

 何かから………冷えやあおちゃんから、僕を守るみたいに。



 だから僕は安心して。



「ちょっと待て‼︎何なんだこれ‼︎何だその甘い空気は‼︎何だこのな状況は‼︎」

「あ」



 安心して、あおちゃんの存在をすっかり忘れるところだった。



 ………見られた。



 僕は半分布団がかかっているとはいえ、何も着ていなくて、宗くんもGパンだけ。上は何も。

 床には服が散らばり、よく見れば丸められたティッシュも散らばっている。



 何かあったときのために、と、あおちゃんにうちの鍵を預けてあることが裏目に出た。



 どうしようか。



 マグカップを持ったまま思わず見た宗くんは、特に焦った様子もなく、いつもの宗くんだった。

 まるであおちゃんが居ないみたいに、水もういいか?って、いつも僕を見るときにしている、好き以上、大好き以上の目を僕に向けてくれていた。



 だから僕も焦らず、うんって。



「おいこら‼︎堂々とシカトこいて見つめ合ってんじゃねぇ‼︎」

「うるせぇ。静かにしろ、チビ」

「はあ⁉︎何でお前にんなこと言われなきゃいけねぇんだよ⁉︎」

「うるせぇからに決まってる」

「真っ昼間っからんなもん見せられたらうるさくもなるだろ‼︎ちょっと明くん‼︎その恰好ってことは、宗野郎と最後までやっちゃったってことか⁉︎」

「………え?え、と」



 そんなはっきりと聞かれても、怒っているあおちゃんに聞かれても、正直にうんって言ったら、火に油を注ぐだけだよね、と、僕が答えに困っていたら。



「だったら何だ」

「むっ…宗くん………」

「は⁉︎まじで⁉︎最後まで⁉︎やっちゃったのか⁉︎」

「だから、だったら何だよ。見れば分かるだろ」

「お前じゃねぇ‼︎あおは明くんに聞いてんだよ‼︎」



 普通に宗くんは答えているし、あおちゃんは火に油だし。



 どうしたらいいのか。



「明くん‼︎」

「………うん」

「うん⁉︎」

「………うん」

「………まじかよ。明くんが………」

「あ、あおちゃん」



 あおちゃんは力なく言って、へなへなとその場に座り込んだ。







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