第102話

「………え?」



 時々休んだり早退したり、授業に出られなかったりということがありつつも、何とか無事に1学期を終えた今日は、終業式。



 あっという間だった。すごくすごく、あっという間だった。



 宗くんとはあの日、要らないって言われていたのに僕が勝手におにぎりを作って無理矢理渡してから会っていない。話していない。

 辰さんや政さんはうちに来るのに、宗くんは来ない。学校で見かけることがたまにあるぐらいで、全然。



 ………痩せた気がする。



 見かけたときにそう思った。

 そして心配になった。



 ご飯、どうしているんだろうって。



 夕飯は大丈夫。

 夕飯は実くんが作ったものを食べているって聞いている。

 ただ、朝はパンで、お昼は分からないって。

 お金は渡しているけれど、何を買って食べているかまでは分からないって、辰さんが言っていた。



「ボクも昨日政さんに聞いたんだけど、今度の土日が宗くん、剣道の試合なんだって」



 実くんに通知表を見せて、明くん頑張ったねなんて褒められて、夏休みは編み物三昧?なんて話から、急に。そういえばねって。



「夏の剣道は相当しんどいみたい。宗くん、毎年この時期になると痩せるって」

「………そんな大変な時期に試合なんだね」

「ね。ボクも思った。しかも宗くん、個人戦だけじゃなくて、団体戦にも出るんだって」

「………」



 学校で見かけて、痩せた気がするって思ったのは、気のせいじゃなかった。



 でも、普通に考えたら仕方ないとしか思えない。

 剣道のあの道着。そして防具。暑い時期にあんな格好でやるんだから、バテて食欲が落ちても。



 ………今度の土日。

 今日が木曜日だから、明後日だ。



「土曜日に団体戦で、日曜日に個人戦だって」

「………」



 見に行きたい。応援に行きたい。



 って、すぐに思った。

 ものすごくすぐにすぐ思って、思った自分に驚いた。



 宗くんから、保育園の頃と同じじゃないなら一緒に居ることがツラいって言われているのに。



 冴ちゃんに聞いて、保育園の頃の写真を出してもらった。

 忘れているなら、忘れたままにしておいた方がいいって、写真は冴ちゃんの寝る部屋兼居間の、上の押し入れの奥の奥にしまわれていた。実くんが出してくれた。



 宗くんの部屋にあった写真も、そこにはあった。



 他の写真は俯いていたり、イヤそうにしているのに、宗くんとふたりの写真だけは違った。

 くっつけすぎて潰れているほっぺた。お互いにぎゅうぎゅうに抱きついての満面の笑み。



 この写真を見つけて見ていたら、『これ宗くんなの⁉︎』って、冴ちゃんも実くんも大騒ぎだった。



「辰さんも政さんも土曜日の午前は仕事があるから、終わったら行くんだって。冴ちゃんは1日仕事で、ボクも午前中仕事だから行けるとしたら午後なんだけど………」

「………」

「明くんは、どうする?」



 実くんに聞かれて、僕は。



 行きたい。………でも。



 何て答えたらいいのか分からなくて、黙って俯くことしかできなかった。

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