第67話

「それともうひとつ、お話がありまして」



 そこに流れるふんわりとした空気に、浮かべる笑みを濃くしてから、辰さんは続けた。



「今ね、うちの病院兼住宅を移設建て替え計画中なんですが、どうでしょう、実くんと明くんも、新しいところに一緒に住んではもらえないでしょうか」

「………え」

「移設するんですか?」

「はい。うちはぼくの父親が建てた病院なので、もう随分古いんです。前々から話も出ていました。今駐車場になっているところに建てれば長く休むこともなく移設できるって」

「………そう、ですね」

「1階が病院、2階がリビングダイニングと水回りとぼくと冴華さんの寝室。3階に宗と明くんといずれ双子が使う部屋。でも双子が部屋を使うようになるまで、まだ10年は先。だからそれまで、実くんに使って欲しいというのがぼくと冴華さんの正直な気持ちです」

「………ボクに?」

「はい。実くんに」

「………」

「一度考えてもらえないでしょうか」



 冴ちゃんのお腹の赤ちゃん………辰さんとの双子ちゃんが生まれるんだから、このままここで、僕たち3人で暮らすことはできない。

 それは分かっていた。

 近いうちにその話が出るだろうとも思っていた。

 それでも、考えているのと実際聞くとでは違って、心臓がすごくどきどきした。

 しかも話のスケールが思っていたよりも大きい。



 辰さんの病院の移設建て替え。病院兼住宅。3階建て。



 実くんが返事に困って、黙る。

 僕は………僕が一緒に住むのはやっぱり、決定事項、だよね?って。



「あ、あの、父上?」

「はい?何でしょう?」

「建て替えの話と、宗と明くんは分かります。まだ高校生ですから一緒に住むのは当然でしょう。しかし………何故彼も?そして俺は何故そこに呼ばれないのでしょう?」



 恐る恐る、という言葉がすごくぴったりな感じで、辰さんと実くんの間に政さんが割って入って聞いた。

 辰さんがそんな政さんに、やれやれとでもいうようにひとつ、ため息。



「冴華さんは16年ぶりの出産です」

「だ、だから?」

「ブランクがある上に40代。しかも生まれてくる子は双子で、冴華さんは家事が苦手。実くんに側に居てもらって、色々助けてもらった方が冴華さんもぼくたちもありがたいに決まっているでしょう?」

「………確かにそうですが、では何故俺にはお声がかからないのでしょう?」

「何故って、政は家事全般役立たずでしょう?しかも冴華さんを詐欺師呼ばわりしたから、知りませんよ」

「ええ⁉︎」

「ぼくが見そめた愛する人を詐欺師だなんて。しかも謝罪なしの上にまだ疑っている。そんな無礼者を居住スペースに入れるなんて、ぼくはしません」

「………辰さん♡」

「そんな………」



 きっぱりと言い切った辰さんに、冴ちゃんと実くんで分かれた、正反対の反応。



 実くんはというと。



 母子手帳に視線を落として、考え込んでいるようだった。

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