第46話

「じゃ、じゃあ、これも」



 どきどきに気づかれないよう、必死に平静を装って、僕は保冷バッグからもうひとつおにぎりを出した。



 今日はあおちゃんだけじゃなくて鴉山くんとかーくんもお昼一緒だからって、多く持って来たから。

 いつもはあおちゃんのデザート用を含めて3個。今日はその倍の6個。

 だから2個あげたところで4個も残っていれば全然。



「………いいのか?」

「うん、いいよ。僕のもちゃんとあるし」

「………いつも食った気しねぇから、嬉しい」



 相変わらず宗くんは、ほとんど目を合わせてはくれない。チラッと一瞬こっちを見る程度。

 でも、嬉しい、なんて目を伏せて照れた笑みで言うから。



「え?あ、う、うん」



 む、宗くんが笑った………って、僕は密かに、でも大きな衝撃を受けた。



 宗くんはいつも、怒ったような顔をしている。

 特に僕にはそうだと思う。ジロって睨むように見たり、舌打ちとか。

 下から僕を見上げる目が三白眼に見えるから、どうしたって少しキツい感じに見えるけど、カッコいい部類の顔なだけに、笑うと破壊力がすごい。僕的にレアだったから余計にその衝撃もすごくて、何だか意味の分からない返事になって焦った。



「あ、あのっ………」

「………?」

「体調が悪いときはできないんだけど、いいときだけで良かったら僕、宗くんのおにぎりも作ってこようか?」



 ってもう、さっきから僕は一体何を言っているんだろう。何をやっているんだろう。



「………」



 ほら、いきなりすぎて宗くんがびっくりしている。戸惑っている。



 当たり前だよ。僕の記憶に宗くんは何故か居ないけれど、保育園時代から久しぶりの再会後、僕たちはまだまともに話したことはない。なのにおにぎり、とか。



「あ、ごめんね。余計なお世話………だよね」



 実くんが前に言っていた、『あんな捨てられた子犬みたいな目でボクを見ながら腹減ったなんて言われたら………』って言葉の意味が、すごく分かるような気がする。



 きゅるるるるるるるって爆音のお腹に顔を赤くして、お腹すいたようって目でチラ見。

 普段が普段なだけに、そんなの。



「………食う」

「え?」

「食いたい」

「ええ⁉︎」

「明のおにぎり。俺食いたい」

「………っ‼︎」



 僕には宗くんが分からない。理解できない。

 でも。



「………あ、じゃああのっ………毎日は無理かもだけどっ………」

「ありがとう。すげぇ嬉しい」



 宗くんの笑顔は眩しい。宗くんの笑顔はかわいい。



 それだけはすごくすごく、よく、分かった。



「ねぇ、ふたりって名字一緒だけど、兄弟なの?」

「………えっ⁉︎」



 僕が宗くんの笑顔にやられていた時だった。

 横から、多分だけど、同じクラスの女の子がストレートに聞いてきた。



 びっくりして頭が真っ白になって、ただただ驚く僕の耳に。



「そうだけど?」



 肯定する宗くん。



「ってことは双子?似てないね」



 言うだけ言って去って行く女の子と、それをチラッと横目で見て、じゃあって一瞬だけ僕をぎゅってハグして去って行く宗くん。



 ………え?



 僕はというと。



「明くん………大丈夫?」



 頭が全然、何もかもに追いつかなくて。



 情け無いことに僕は、へなへなとその場にしゃがみ込んでいた。

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