第40話
何故こうやって政宗ブラザーズとうちでご飯を食べているかというと、入学式が終わって解散後に門のところで偶然会ったから。
実くんと僕と、あおちゃんとあおちゃんのお母さん。
4人で歩いていたところで、遭遇した。
政さんはすごく驚いていた。何故キミたちがここに居る⁉︎って。
やっぱり政さんも知らなかったんだ。知らなかったのは僕たちだけじゃなかった。
実くんと僕は、宗くんが新入生代表の挨拶をしていたから、そこまでは驚かなかった。
ただ、遭遇するとは思っていなかったから、それに少しだけ。
宗くんは………その時はよく分からない反応だった。ほんの少しだけ、目を見張ったような、そうでもないような。
そこで、門のところで、宗くんと僕が同じ高校ってことを聞いていたかどうかとか、そういう話していた。政さんと実くんが。
その間にあおちゃんたちは用事があるって帰って行った。
ふたりの話を聞く限り、どうやら宗くんも僕と一緒だということは知らなかったらしい。
じゃあ辰さんと冴ちゃんだけが知っていた?さすがにあのふたりは知ってるよね?いやでもあのふたり何気に今浮かれ過ぎていて、すべて後手後手だぞ、なんて。
政さんと実くん。
2回も火花が散るような険悪ムードになっていたのに、意外と普通に、親しげに話しているんだなって見ていたときだった。
『………腹減った』
宗くんの一言と、きゅるるるるるるるって聞こえたお腹の爆音。
宗くんから実くんへの、全力の『お腹すきました』な、眼差し。
『………うち来る?』
帰り道、ごめんね明くん、変なことになっちゃってって謝った実くんに、何故誘ったのか聞いたら。
『あんな捨てられた子犬みたいな目でボクを見ながら腹減ったなんて言われたら………』
そして今に至るというわけだった。
「うまいっ」
「それはどうも」
コンロの魚焼きグリルで少し表面を焼いてあたためた実くんお手製のロールパンを、大きな口で半分ぐらいかじった政さんが、もごもごしながら言った。
宗くんは両手でロールパンを持って、無言でほっぺたを膨らませて食べている。
「キミは本当に料理が上手なんだな」
「………それもどうも。でも政さん。喋るならちゃんと飲み込んでから喋った方がいいですよ。アナタただでさえ食べこぼしが多いんだから」
「………そっ、それはすまぬ。気をつけてはいるんだが、どうしてもぼろぼろとだな………」
「だから飲み込んでからですって。そうだな、政さんと宗くんには、ビニール製のランチョンマットがあった方がいいかもですね」
「………そうだな。そうかもしれん」
「怒ってるとか嫌味とかじゃなくて、その方が片付けやすいってことです。はい、どうぞ、おしぼり。口元拭いて下さい。ほら、宗くんもね」
「………何から何まで、かたじけない」
「………あっ…ありがとう………ございます」
どことなく、何となく、政さんと宗くんの世話を焼く実くんが、嬉しそうな気がした。
僕にはそう見えて、そうなのかなって僕は思った。
趣味が家事で、夢が結婚の実くん。
普段はどうしたって、実くんのその高い家事スキル、お世話焼きスキルは冴ちゃんと僕、時々あおちゃんやあおちゃん一家だけにしか発揮されないから。
「しかし残念だ」
「何がですか?」
「もしキミが女性なら、キミはまさに俺の理想の奥さんなのに」
「………っ」
実くんの、今の今まで柔らかかった表情が、政さんの言葉で一瞬にして凍りついた。
明らかに実くんは、言葉を失った。
「キミ、彼女は居ないのかい?これだけ色々できる彼氏なら、彼女は今すぐにでも結婚したいだろうに」
実くんの変化に気づかず、言葉を続ける政さん。
………悪くない。政さんは何も悪くない。
でも、だからと言って実くんが悪いわけでももちろんない。
政さんはただ知らないだけで、実くんはただ………。ただ。
恋愛の対象が、女の人じゃ、ないだけ。
「政」
まだまだ、知らないが故の政さんの言葉が続いて行こうとしていたのを、何を思ったのか宗くんが止めた。
止めた理由は分からない。でも良かった。ありがたかった。ほっとした。
実くんと僕では、どうしても、止められないから。
「宗よ。何だ?」
「帰るぞ」
「え」
宗くんのパンはまだお皿に残っていた。なのに、帰るぞって。
宗くんはパンを片手にひとつずつ持って立ち上がった。そして、がばって急に、実くんに深々と頭を下げた。
「宗くん?」
「政がわりっ………ご、ごめん、なさい。こいつ本当に人を見るのが苦手で」
「むっ…宗⁉︎」
「悪気はない。それは俺は保証する。でも………ごめんなさい」
僕は宗くんと実くんを交互に見て、どういうこと?ってなっていた。
宗くんは何故。何で実くんに、ごめんなさいなんて。
「………ううん。いいんだ。宗くんが謝ることじゃないし。………けど、ありがとう。宗くんは優しいね」
「………っ」
そう言って実くんは目を伏せて、どこか悲しそうに笑った。それに宗くんは顔を赤くした。
………何故か、何か、ふたりがお互いを理解しあっているように見えて、僕の胸の奥が、ちくんって痛んだ。
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