第20話

「浮かれる気持ちも分かるけど、ちゃんとするところはちゃんとしないと、あちこちに迷惑だしボクも迷惑だし、面倒が増えるだけでしょ?」

「………はい」

「………すみません」



 夕飯のあと、お風呂から出たら台所で実くんがお説教をしていた。冴ちゃんと辰さんに。



 何故辰さんが居るのかと言うと、ご飯の最中に電話がかかって来たから。辰さんから。



 基本、お互いにお互いの家族と家に居る時間には電話はしないらしい。夕飯時は特に。

 言われてみれば、冴ちゃんが家で誰かと電話しているところは、仕事以外ではあまり見たことがないかもしれない。夕飯時は特に。

 でも、それはあくまでも基本。多少の例外もありつつ、大事なことや緊急事態は何時でもかける。というのがふたりのルールらしく、今日の辰さんからの電話はその例外の夕飯時。



 そこからの、今。

 ふたりは台所で、実くんにお説教をされている。



 お説教の理由は書類だった。

 僕と宗くんの、それぞれの入学先に出す必要書類。

 その期限が3月末なのにふたりともまだ書いていなくて、書いていないだけなら早く書けば済むことなんだけれど、そう言えば結婚問題があるって辰さんが気づいて、慌てて冴ちゃんに電話をしたらしい。

 単にふたりが結婚するだけならいい。さっき実くんから出た住むところ問題もとりあえずはいい。

 ふたりの結婚の何が問題かって、家族欄をどう書くかと、それも最悪の最悪置いておいて、最大の問題は僕の………名字。



 山田のままで行くのか、高校入学っていうちょうどいいタイミングだから鍔田にするのか。

 辰さん一家はとりあえず家族構成以外変わらないし、うちだと冴ちゃんは結婚する本人だし、実くんは成人しているから問題ないと言えば問題ない。

 だから本当に僕だけ。

 その僕だけの問題をどうするつもりなのか、どうしようとしているのか、赤ちゃんができて浮かれているのは分かるけど、ちゃんと話し合っているのか。



 ………つまりそういうお説教。



 実くんの向かいの椅子でふたりして項垂れているから、ふたりして完全に忘れていたんだろうというか、頭になかったんだろうっていうのが僕の予想で、それは多分あたり。僕も言われるまでまったく気にもしていなかった。



「明くんも座って」

「うん。………あの、辰さん、こんばんは」

「こんばんは、明くん。遅くにすみません」



 ぺこりと律儀に頭浮かれ下げる辰さんに、僕も頭を下げてから座った。



「明くん寒くない?大丈夫?」

「うん。大丈夫」

「寒くなる前に言ってね」

「うん。ありがとう」



 実くんがここまで心配してくれるのは、過保護だからではなく、ここまで心配されるぐらい、僕の身体が虚弱軟弱だから。

 多分大丈夫だとは実くんも僕も思っている。

 暖房もついているし、カーディガンを羽織っているし、自作の靴下もはいている。髪の毛もきちんとかわかしたから、よっぽど。

 っていう僕たちの予想を裏切って、よく風邪をひくから実くんがここまで心配してくれる。

 話が長引きそうなら、部屋から毛布でも持ってこよう。僕にできるのは、あとはそれぐらいだ。



 そして始まった、いつふたりが入籍するのかと、僕の名字をどうするか問題で、僕は。



「明くん。ぼくの家族になってもらえませんか?」



 辰さんから、プロポーズみたいな言葉をもらった。

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