第19話
「………私、どうしたらいいんだろう」
「何が?」
「………?」
その日の夜、台所のテーブルに並ぶ夕飯を前に、冴ちゃんが言った。
今日の夕飯ハンバーグ。実くんお手製のコーンスープや人参のグラッセ、マッシュポテトにサラダもある。
僕と実くんはもう椅子に座っていて、冴ちゃんは立ったまま。
ご飯だよーの実くんの声に、部屋からふらっと来て、ご飯を見つめてこの世の終わりみたいな顔をしていた。
「今辰さんとラインしてたんだけど………」
「うん」
「辰さん、どうやら私が毎日ご飯の準備してると思ってるらしくて………」
「え」
「………あ」
力なくそう言ったあと、冴ちゃんは椅子に座った。
そして実くんコレクションの大きいお皿に乗るハンバーグを見て項垂れる。どうしたらいいのって、また言った。
「辰さん、早く冴華さんの手料理が毎日食べたいですって言ってるの」
「冴ちゃん、辰さんに家事が壊滅的にできないって言ってないの?」
「………苦手とは言ってある」
「………」
「………」
「やだもうっ‼︎ふたりしてそんな顔しないで‼︎苦手ってことはちゃんと言ってあるの‼︎でもこないだご飯を持って帰ってもらったら、辰さんすごい美味しかったって、冴華さん苦手なんて言って全然じゃないですかって‼︎」
「………そこでちゃんと言えば良かったんじゃないの?」
「そうなんだけど‼︎そうなんだけど‼︎そうなんだけどーーーーーっ‼︎」
うわーんって泣き真似をする冴ちゃんを放置して、実くんが食べよって手を合わせた。
冴ちゃんが実くんつめたーいって言っているのも、実くんはスルー。
僕もいただきますって手を合わせて、ふたりより明らかに小さいハンバーグを箸で小さく切って食べた。
「そこはもう、子どもじゃないんだからさあ」
「………そうなんだけどさ」
「だいたい、自分を偽って結婚したところで、だよ。そんなのでうまく行くはずないよね?」
「………そうなんだけどさ」
「それに、辰さんそんな人なの?冴ちゃんが家事できないからって、冴ちゃんに幻滅するような人?」
「それは絶対違う‼︎」
「なら、正直に言っても大丈夫でしょ」
「………そうなんだけどさ」
「つまんない見栄やプライドは持ってるだけしんどいよ」
「………」
ぐうの音も出ないって、こういうことを言うんだろうなっていう繰り広げられる母と子の攻防。
冴ちゃんはううって泣き真似をしてから、手を合わせてスープを一口。
そしてやだ今日も美味しいって、にっこり。
冴ちゃんは感情の忙しい人だなあっていつも思っていて、今日もまた思った。
「早めに言わないと、どんどん言い辛くなるよ」
「………ソウデスネ」
「まあでも、これからは冴ちゃんがやるんでしょ?」
「え?何を?」
「家事だよ、家事。辰さんと結婚するなら、そうでしょ?」
「………え?」
「え?」
「………?」
僕たち3人の頭の上に、それぞれクエスチョンマークが乗った。
「私と辰さんが結婚したら、実くんは家事やってくれないの?」
「………冴ちゃん?」
「はい」
「冴ちゃんと辰さんが結婚したら、どこに住むつもり?普通に考えて、ここじゃないでしょ?辰さんが今住んでいるところか、新たなところ。そこで辰さんとお腹の子と、まだ未成年の明くんと宗くんで住む。そう考えるのが普通でしょ」
「え?」
「………え?」
「………」
「えええええっ⁉︎」
「えええええっ⁉︎」
美味しい夕飯を前に、冴ちゃんと僕の叫び声が響いた。
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