第16話

 そして現在。あおちゃんが女の子の服でこの辺りを歩くのはごく普通の光景。

 中にはあおちゃんを本気で女の子だと思っている人もいたりする。

 あおちゃんって分かっても、それに対して何かを言う同級生も上級生も下級生も今では居なくなった。

 何故ならあおちゃんが強すぎてこわすぎるから。それにもう、あおちゃんのそれがになったから。あと………っていう風潮も重なって。



 そんなあおちゃんが中学の3年間で学ランを着たのはほんの数えるほど。絶対に制服じゃないとダメっていうときだけだった。

 あおちゃんは毎日憂鬱な顔をしながら、体操服をちょっと着崩して、ちょっと普通じゃなくして、体操服だから全然おしゃれではないんだけれど、それでも学校の体操服にしてはおしゃれにして、学校に通った。






 今、時刻は夜の9時10分。

 こんな時間なのにあおちゃんがここに居るのは、保育園からの長い付き合いと、家がマンションの1階2階の距離だからということで、そんなに珍しいことではなかった。

 僕は先に寝ても、あおちゃんは帰らず実くんや冴ちゃんと僕には分からない美容の話で盛り上がっていたりもする。



 そんな、もはや家族同然のあおちゃんが、クセのついた髪の毛をほぐすみたいに豪快に掻き回している。かわいい女の子の服で。

 しかもそのスカートの下が、ものすごく普通に男子のボクサーパンツだから、僕の頭はいつもダメージを受ける。



 ………ダメージだよ。ダメージ。見た目かわいい女の子が男のパンツって。

 でもそうか。僕の認識では男でしかないあおちゃんが女の子のを履いていたら、それはそれでどうしていいのか分からないかもしれない。



「で、みんなしてどったの?」



 お皿の上のエビフライを、タルタルソース経由でぱくってつまんだあおちゃんが、不思議そうに聞いた。






「何かあおがちょっと来ない間にすごいことになってたんだねぇ。びっくりだわ」



 あおちゃんが来てくれたことによって、ちょっと復活した実くんが、ご飯をあたため直してくれて、僕は別メニューではあったけど、あおちゃんを含む4人で遅い夕飯を食べた。



 あおちゃんは小さいのによく食べる子で、今日も多分自分の家でちゃんと食べているはず。

 にも関わらず、実くんは何も言わず聞かずあおちゃんの分のご飯とお味噌汁を大盛りでよそって、あおちゃんはそれを普通に僕たちの倍ぐらいの勢いで食べて、普通におかわりをしている。



 その大量の食べたものは、その小さい身体のどこに入っていくのかと、いつも不思議に思う。

 僕はあおちゃんより背が20センチ以上高い。

 なのに食べるご飯の量はあおちゃんの半分以下。三分の一ぐらい。そして体重はそんなに変わらない。

 あおちゃんが太らない謎と、僕のガリガリ具合。

 今も僕は中華粥をゆっくりとちびちび食べていた。



 あたため直してもらっている間に、冴ちゃんと僕とで色々説明をして、ご飯を食べながらふうんってあおちゃん。



「冴ちゃん、おめでたおめでとね」

「うん。ありがと、あおちゃん」



 にっこり笑うあおちゃんに、にっこり笑う冴ちゃん。

 でも冴ちゃんはすぐにお茶碗を置いてうううって身体をよじった。



「やってしまったわ………。せっかくの顔合わせに………」

「冴ちゃん、ご、ごめんなさい。僕のせいで」

「ううん。明くんは悪くないの。これは完全に私の責任」

「違うでしょ。ボクでしょ。ボクが政さんを一番怒らせたんだよ」



 3人で言って、3人で顔を見合わせて、そして3人で。



「ごめんねー」

「ごめんなさい」

「ごめん」



 深々と頭を下げ合った。

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