第15話
「うっわぁ〜。くら〜い。めちゃくちゃくら〜い。ちょっと〜、やだ、電気ついてる〜?ってぐらい暗いんだけど〜」
「………」
「………」
「………」
「ちっ。無言かよ。無視かよ、全員で。ありえねぇっつの、せっかく来たのにっ」
「………」
「………」
「………」
「え、ちょっと本当にナニ。ご馳走を前にナニ。ナニナニ何なの?玄関カギ開いてたし」
まるで自分の家のように、居間兼冴ちゃんの寝る部屋に入って来て、冴ちゃんと実くんと僕を見てあおちゃんが言った。
辰さんたちが帰ったあと、テーブルの上のご飯もそのままに、僕たちは3人でどよんって凹んでいた。
あおちゃん。保育園のときから仲良しの幼馴染み。
これで3月の夜の外を歩くなんて絶対に寒いってぐらいのミニスカートから、細い足がすらっと伸びてて、その足が豪快にあぐらをかいて僕の前にどすんって座った。
「どったの?みんなして」
「………あおちゃん、パンツ見えてる」
「そんなの今さらじゃね?明くんもう何回もあおの裸見てるじゃん。一緒に風呂だって入るし一緒に寝てるし。パンツなんか見たって萌えないでしょ」
「その恰好でのパンツは脳へのダメージが大きいんだよ」
「脳へのダメージって………あお泣いちゃうよ?」
「………ダメージだって、絶対」
あおちゃんはちって小さい舌打ちをしてから、サラサラの長い髪を頭からむしり取った。
ぱさって音を立てて、頭の形の髪の毛が落ちる。
むしり取った髪の毛の下から出て来たのは、今むしり取った髪の毛のせいで変なクセのついた短い髪。お化粧はしているけど、一応通常モードのあおちゃん。
そう。あおちゃんは、れっきとした男子。
なのにかつら………ウィッグって言えっていつも怒られる。どっちだっていいと思う僕はいつもかつらって言っていて、やっぱり怒られる。あおちゃんは男子なのに、こうやって長い長い毛のかつらをつけている。
それは休みの日や学校から帰るとだいたいいつもで、かつらと共に今流行っているというかわいい女の子の服を着たり、スカートを履いて外を闊歩している。
何故ならそれが、女の子の子の恰好をすることが、あおちゃんの趣味だから。
あおちゃんにはひとつ年上の
保育園年長までをごく普通に女の子の服や物で過ごして、さすがに小学校では………ってことであおちゃんのお母さんが男の子の服を買って来た。
あおちゃんはその日、せっかく買ってきてくれた男の子の服をはさみで切り刻んで家出をした。同じマンション、2階のあおちゃんの家から1階のうちへと。『男の服なんか着たくない』って大泣きをして。
だからと言って、あおちゃんの中身が、心が女の子かって言えば、あおちゃんは普通に男子だと思う。
………しかもわりと口が悪くてやんちゃな部類の。
ずっと実くんと同じ合気道教室に通っているから、小さいのに強いし。
あおちゃんは、本人曰く単にかわいいものが好きだから、女の子の服を着ているらしい。
しかも昔から小柄で、今も156センチと小さい上に顔も女の子みたいで、いいのか悪いのか周りも本人もかわいいものが似合うと思っている。だからやめる機会を失ったのかもしれない。今もまだ似合っているからやめられないのかもしれない。
昔はよく男子にからかわれていた。
でも僕は、そういうことに参加はしなかった。
しなかったことに残念ながら感動エピはなくて、単に僕が小さい頃から虚弱軟弱なせいでみんなと同じようにできないことが多すぎて、めそめそしてばかりでそれどころじゃなかっただけだったりする。
特に何も言わない僕に、あおちゃんはいつの間にか、気づいたら常に側に居る存在になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます