第27話
見た目は活力を感じないくせに、丸刈りの男たちの動きは獣のように
しかし割って入ったアンドロイドのマリーが丸刈りの男たちを迎え撃つ形で立ちふさがり、抜き身の
そしてマリーは着せ替え人形のように細い手足を
それでも丸刈りの男たちは勢いが弱まる気配もなく、数を減らすどころかどんどん数を増していた。しかもついには俺とノーヘッドの近くにあった通気口や扉からも湧き出始め、このままでは全員完全に包囲されるのも時間の問題だった。
「ジリ貧だ! マリーにスウェルを運ばせて後退してくれ、社長!」
丸刈りの男1体1体は大した脅威ではないが、先ほど飛び掛かってきた倍の数が次々と後に続く。そんな状況では圧倒的に数の不利なこちらの体力が足りず、先に力尽きてしまいそうだ。
「引き際のようだな。
「命令を承認した。対象を保護しつつ
マリーはスウェルを脇に抱えると猫のように高く跳び、あっという間に俺たちの元へ戻ってきた。
「ったく。無事か? スウェル」
俺が、抱えられたスウェルの背中を軽く叩くと、力ない返答が戻ってきた。
「……ごめんなさい。彼らの声をもっと聴こうとしたら気分が悪くなったの」
「謝罪と感謝ならこのアンドロイドにするんだな。それで、何か分かったことはあるか?」
俺は「不本意ながら」と目を細めてマリーを睨みつけたが、マリーの方は無反応だった。
スウェルの方は俺の問いかけに対して腕を組み、うーんと
「たぶんだけど、彼らは特異アンドロイドと似た存在なんだよ」
「たぶん?」
俺にも追いかけてくる正体不明の丸刈りの男たちの狂ったような挙動が特異アンドロイドを連想させるのには気づいていた。だがマリーが攻撃した結果、丸刈りの男たちが生身の肉体を持っていると判明したため、特異アンドロイドの可能性は除外されたかと思っていた。
「奴らは機械なのか? それとも単なる狂人なのか?」
「そんなの私にはわからないよ。私はただボックスから聞こえる声からそう感じただけだよ。別にアンドロイドか人間か見極められるわけじゃないよ」
「おいおい……ったく、そいつは初耳だぞ」
てっきり俺はスウェルのボックスを声として認識する能力を万能だと判断していたが、認識を改める必要がありそうだ。
少し考えれば気づく話だが、スウェル自身はボックスや機械に対して専門的な知識を持っているわけではない。この反応をすればこうであり、ああ動くならそうであると体系的に学習していないわけなので、どれだけプロ顔負けのハッキング能力を持っていたとしても人に伝わるように解析するのは難しいのだ。。
「話し込んでどうしたのだ? 気付いたことがあるなら状況打開のためにも情報を共有して欲しいのだが」
声を小さくして話していたおかげか、前を走るノーヘッドに会話の詳細を聞き取られてはいなかったらしい。
俺は少し思案した後、自分なりにスウェルの言葉を解釈して伝えようと決めた。
「奴らの正体だが、特異アンドロイドと何か関係性があるんじゃないか?」
「それは情報なのか? それとも意見なのかね」
ノーヘッドの言い分は確かに的を射ている。スウェルの感覚をそのまま伝えてもそれは情報にならない。何故なら気温の度数を「暑い」とか「寒い」などと言う人間に信用などないからだ。
「不満も分かるが結構重要なことだぞ。相手を最初っからアンドロイドと決めつけるか、人間と決めつけるかどうかは、そもそも前提が違う可能性があるって発想が必要だからな。いくら10年近く閉鎖されていた場所で人型の相手を見つけても必ずアンドロイドとは限らない。1つずつ確認しておかないとな」
「ふむ、それなら悪くない観点と言えなくもない。だが先ほどマリーに攻撃された奴らを見ただろう? あれはどう見ても肉と血と骨を持っている」
「そうなんだよな……。いや、待てよ」
俺はスウェルの言葉を思い出す。スウェルは確かに丸刈りの男たちから自分にしか聞こえない『ボックスの声』を聞いたと言ったはずだ。
ならば生身の人間の肉体と、ボックスを有しているという2つの要素が出す答えは1つしかない。
「まさか、脳をボックスと融合させた生身の人間なのか……?」
俺は全身の感覚センサ―が捉えるものとは別の寒気を感じ、不安定な非常識を踏み抜いたせいで、身体のバランスを失ったような
「……なるほど。倫理によって惑わされない合理的な解釈に尊敬すら覚えてしまうな」
ノーヘッドはマリーに何やら合図すると、マリーはすぐさま近寄ってきた丸刈りの男の首をはねて器用にキャッチした。
マリーはそのままフルーツに切れ目を入れるかのごとく慣れた手際で生首の頭蓋を割り、内部が露出した状態の頭蓋をノーヘッドに手渡した。
「百聞は一見に如かずとはこのことだな」
ノーヘッドは頭蓋の中身を
「うおっ!?」
俺は走りながらおっかなびっくりな調子で丸刈りの男の頭部を受け取り、生理的嫌悪に
「……嫌な予感ってのは当たるもんだな。ったく」
俺はてらてらと光る鮮血の隙間から特有の金属光沢を見て、そう呟いた。
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