第9話
コンテナを開けた作業員が無数の槍によってくし刺しにされたのを合図に、他のコンテナが勝手に開放された。
それは中にいた白い汎用型のアンドロイドたちの仕業だ。おそらく内側から鍵を開けられるよう細工がしてあったのだろう。
「違法アンドロイドか!?」
誰かが驚嘆の声を上げるが、目の前で
コンテナからは次々に武装した同じ種類の白いアンドロイドたちが出てくる。その中にはサソリのような多脚型が混じっており、ハサミ部分の針で作業員を貫いたのはこいつだろう。
暴力制御装置が外されたアンドロイドたちは思い思いに近くの作業員やボックスハンターたちに襲い掛かってきたのだった。
「物陰に隠れろ!」
それでもボックスハンターたちは
俺やハシコも近くの箱やコンテナの陰に隠れ、周囲の様子を確認する。
「大きいのが1体、それ以外のアンドロイドタイプは20体くらいか。ハシコ、応援の要請はできるか?」
「ダメ、電波妨害されている。たぶんあのドローンのどれかに妨害装置が組み込まれてるはず」
「完全な自律型ってわけか。ったく。面倒かけやがる」
俺は物陰から少し身を乗り出し、拳銃の照準を近くの違法アンドロイドに合わす。
しかし相手に射撃許可のマーキングをする前に、他の違法アンドロイドたちが射撃を開始した。
「おっと!」
俺は寸前で身を引くも、額に弾が掠りスムージースキンが破れる。
チェーンの弱点である3秒ほどの照準の必要性は、やはりこのような状況の乱戦では大きな足かせだった。
他のハンターたちも俺のように敵側の隙のない射撃によって苦戦しており、中には果敢に警棒やスタンロッドで応戦している者もいる。しかし肉薄戦闘は無傷で済むはずがない。
「下がれ! 下がれ!」
俺たちは違法アンドロイドたちをけん制しながらじりじりと出入り口へ後退する。
だが工場の出入り口に近づくと、先回りしていた他の違法アンドロイドたちが行く手を遮ったのだった。
「円陣を組め! 囲まれてるぞ!」
俺たちは荷物を崩すなどをして即席の防衛線を張る。
逃げられない以上、今の状態で迎え撃つしかない。それにこれだけの銃撃戦だ。周りの市民が警察に通報してくれているはずだろう。
それまで違法アンドロイドたちの攻撃を耐えねばならない点を除けば、これが最善手だった。
「ハシコ! ドローンは使えるか!?」
「今セッティングが終わった。任せておいて」
ハシコは気だるげに答えると、操作している四足歩行型ドローンのミートが全身を震わせた。
基本的にアンドロイドは自分の判断で射撃や暴力を行えないが、半自律兵器の場合は別だ。
発射許可は人間の指示が必要だが、照準アシストや目標の補足はAIが勝手にやってくれるため、射撃の素人でも簡単に標的へ弾を命中させられる。
ハシコは腕輪型の端末から照射された球形のホログラムを両手で操り、俺には理解できない操作方法でミートを動かした。
ミートは俺たちと一緒に隠れていた物陰から出ると、背中に装着されていた2門の射撃装置を起動させ、射撃を開始する。
ミートの射撃は正確で、まず近くの違法アンドロイドがマシンガン並みの連射を受けて木っ端みじんに破壊された。
「……鎮圧用の対人兵器のはずだよな?」
「そうだけどちょっとカスタムした。大丈夫。たぶん後で直す」
ミートの活躍はすさまじく、猟犬のように駆けまわりながら俺たちの陣地の周りを沿うように次々と違法アンドロイドを撃滅していく。
そのおかげで向こうにも隙ができ、他のハンターたちが応戦を始めた。
この調子なら多勢の違法アンドロイド相手に制圧できる。そう思った矢先にサソリタイプのロボットがこちらへ追い付いてきた。
「ミート!」
ハシコがミートをサソリタイプに向かわせる。
サソリタイプは両腕の針でミートを突き刺そうとするも、ミートの華麗な跳躍ですべて外れた。
ミートはサソリタイプの正面に立って視覚用カメラを狙い、銃口が火を噴いた。
「――なっ!?」
サソリタイプは射撃を受ける寸前、顔を隠すようにカメラを守る。するとミートの射撃はことごとく重厚な装甲によって阻まれて無傷だった。
そしてサソリタイプは両腕を守りに使う代わりに正面へ反り返った尻尾をこちらへ向けた。
その尻尾には針の代わりに砲口のような穴が開いていたのだった。
「全員伏せろ!」
案の定、サソリタイプの尻尾は大口径の射撃装置だった。それも発射したのは放物線を描く弾、グレネード弾だ。
俺のようにすぐ気づいた者たちは頭を引っ込めるか、地に伏せる。
ただし何人かのハンターたちは視野外の攻撃に対応できず、無防備な身体を晒していた。
――ボンッ!
サソリタイプのグレネード弾は俺たちの防御陣地の中で炸裂した。
グレネード弾は爆発だけではなく、その衝撃で内蔵していた鉄片を周囲にまき散らし、見境なしに破壊と殺戮を行った。
特に身を乗り出していた者たちは爆発によって生じた破片により、身体の様々な場所が食い破かれていた。
「ああああああ! 畜生! 畜生! 腕が!」
「くっそ! いてえ! 血が、血が止まらねえ!」
「おい、そいつはほっとけ! もう助からない!」
壊滅に等しい防御陣地の中は阿鼻叫喚に包まれる。
ある者は喘ぎながらもなくなった自分の片足を探し、ある者は血だまりの中でぶつぶつと何かを呟いている。
無傷でないにしても軽症のハンターたちは、傍の重傷者の手当てに当たっている。それでもおそらくその半数はもう手遅れだろう。
俺はちょうど物陰にいたおかげでスムージースキンが少し剥げた程度で済み、後ろにいたハシコも無事だった。
「……ったく。人の命を雑草みたいに刈り取りやがって。だから機械は嫌いだ」
俺はハシコが立ち上がるのに手を貸した後、防御陣地の壁を飛び越えてサソリタイプに
「お前に命の尊さって奴を勉強させてやる。なにせ、俺は死ねないクロガネだからな」
サソリタイプは俺の言葉に応えるように、両腕の針と砲身を俺に向けた。
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