第245話 怖がり?小日向さん


~~作者前書き~~


小日向さん二巻の書影が発表されましたね!

まだの方は、スニーカー文庫さんの公式ツイッターから見られます!

会長はきっと耐えられなかっただろうなぁ……


~~~~~~~~~




 頭の上に人差し指で角を作ったりしていた明日香は、一限目の授業が終わる頃にはすっかり機嫌を戻していた。というのも、俺が「そういえばあのチョコの話って」と切り出した瞬間に、吹けない口笛をぷすーぷすーと吹いてごまかし初め、すっかり俺への怒りを忘れてしまったようだ。たぶん、彼女も俺が冗談で言っていたことを理解していたのだろう。


 結局、その後はバレンタインの話など欠片も喋ることなく、放課後を迎えた。

 本日は俺の家に景一、冴島、明日香といういつものメンバーが集まり、普通に遊ぶつもり。


 やはり一人暮らしをしている同級生がいるというのはありがたい――とは冴島談。

 外に出かけるとどうしてもお金が掛かってしまうから、飲み物代ぐらいしか掛からずに皆で遊べるのは大変ありがたいとのこと。


「なにしようか?」


 家に集まったはいいものの、何をするかはまだ決めていない。

 帰宅中はずっと、最近はまっている飲み物という話題で盛り上がっていたからなぁ。


 ちなみに、俺と明日香はお互いの好みを言い当てて、景一カップルにニヤニヤされた。

 それはいいとして。


「別に何もしなくてもいいけどなぁ」


「私も~。なんだかこの家にも慣れちゃって、自分の家みたいにくつろいじゃうんだよねぇ。――あっ、でもちゃんと親しき中にも礼儀ありだから! 失礼なことはしないよ!」


「智樹はあまりそういうの気にしないと思うぞ~」


 景一と冴島はそんな会話をしながら、こたつに足を入れる。

 景一も口ではあんなことを言っているが、こいつ自体失礼なことをするような奴ではないからなぁ。きちんと一線を引いているというか……「トイレ貸してくれ」って声を掛けたりするし。俺としては、景一ならば別に好きに使って構わないと思っているのだけど。


「これはまた礼儀とかとは別物だしな」


「…………?」


「いや、なんでもないよ。ありがとな」


「…………(コクコク)」


 何か指示するまでもなく、明日香は冷蔵庫から麦茶の入ったペットボトルを取り出していた。俺がキッチンに向かってコップを用意し始めたのを見て、次に必要なモノを理解しているのだろう。


 麦茶をコップに注ぎ、トレーにそれらを乗せたところで、明日香はキッチンの奥に行って俺を手招き。なんだろうかと思い、首を傾げながら近づいていくと、両頬を手で挟まれ、キス。


「あ、あのな明日香。いま景一たちがいるんだぞ?」


 小声でそう言うが、いたずらっ子のニヤリとした表情を浮かべる明日香からは、微塵も反省の色が見えない。


「禁断の恋」


「これを禁断の恋とは言わない気がするなぁ……」


 ふすふすと楽しそうにする明日香は、一度俺の胸に頭突きすると、コップの乗ったトレーをもって景一たちの元へ向かった。残された俺は特に用事もなく冷蔵庫を開けて、火照った顔を冷やしてからリビングに戻ることにしたのだった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ホラー映画を見ることになった。いまから見はじめると、夜の七時頃には終わるぐらいか。

 俺は唐突な演出にビックリすることはあっても、幽霊みたいなものに恐怖はあまり感じないから平気。景一も俺と似たような感じだ。


 で、冴島はたぶん苦手。「べべべ別に平気だよ!」と言って、景一にからかわれていた。

 そして明日香。こちらは不明。


 というのも、スマホで俺に『怖いけど見たい』という文章を見て、すぐさま俺に抱き着いてきたのだ。ホラー映画を俺に抱き着く口実として利用していそうな気がしなくもない。


「結構怖いやつみたいだけど、冴島、本当に平気か?」


「う、うん! 大丈夫だよ!」


 明らかに虚勢なんだよなぁ。

 本当に大丈夫だろうかと苦笑して、冴島の相方に目を向けてみると、景一は肩をすくめて諦めたような表情を浮かべていた。じゃ、まぁ見るとしよう。途中リタイアも可ということで。


『私にも聞いて』


 うずうずと身体を動かしながら、鼻息荒く明日香がスマホを見せてくる。どう見ても平気そうだ。ホラーを怖がっている気配が微塵もない。


「……小日向は平気か?」


『怖い。でも智樹がいてくれたら平気』


「……隣にいますとも」


「…………(コクコク)」


 満足そうに頷いた明日香は、いそいそと俺の足の間のスペースを確保して、俺の手を自らのお腹に回す。

 せめてDVDをセットしてからにしてくれませんかねぇ?


 しかしアレだな……この一見すれば恥ずかしい行動に対して、俺は以前より羞恥心を感じなくなった。そのおかげで、他をからかう余裕ができる。


「冴島も怖いだろうからさ、景一も俺たちと同じようにしたらいいんじゃないか? な、明日香もそう思うだろ?」


 いつものお返しで思いっきりニヤニヤしてやった。


「開き直りやがったぞこいつ……」


「……ちょ、ちょっと恥ずかしいよね」


 景一は俺にジト目を向けながら、そして冴島はチラチラと景一の反応を窺いながら口にする。ほー、なるほどなるほど。そういう感じね。


「なぁ明日香。冴島たちもするべきだよな?」


「…………(コクコク)」


「「うっ……」」


 俺に言われるだけならまだしも、明日香の意見には逆らい難かったようで……景一たちは顔を真っ赤にしながらホラー映画を見るはめになったのだった。


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