第240話 年明けプリクラ
こんな新年早々、俺たち以外にプリクラを撮りに来るやつなんているのかなぁと思っていたが、予想以上にゲームセンターは賑わっていて、俺と明日香の目指すプリクラ機周辺も結構な人が集まっていた。見た感じカップルはいなくて、女性同士ばかりである。気まずい。
俺も明日香もプリクラに関してはあまり詳しくないので、適当に空いたところに入った。
二人でお金を出し合って百円玉を投入し、選ばれた撮影モードは『カップル用』。そういえば以前撮った時はどうだったかなぁと思っていると、スピーカーから「二人で大きなハートを作ろう!」という指示が聞こえてきて、画面にはお手本の写真が映し出された。
「お、おう……初手から恥ずかしい内容だなぁ」
頬を掻きながら視線を右斜め下へと移動させると、そこにはふすふすと鼻を鳴らしながら映像の通りに手を構える明日香の姿があった。準備万端である。
というか身長差があるから、俺としてはなかなかきつい体勢になりそうだ。腰がぐにゃりと曲がってしまう。
「こ、これでいいかな?」
「…………(コクコク)」
明日香と手を合わせ、了承してもらってから数秒後、スピーカーからカウントダウンが聞こえてきて、シャッターが切られた。うん、これで恥ずかしがっていてはいけない。これはまだ一枚目。序の口なのである。
で、次に機械から要求されたのはハグのポーズ。お互い正面から抱き合って、頬をくっつけてカメラ目線――という内容だった。
普段からやっていることとはいえ、誰かに指示をされてやるとなると少し恥ずかしい。
これが『少し』で済んでしまうあたり、俺もかなり鍛えられてきたよな。
「ほれ、どうぞ」
そう言いながら明日香を迎え入れるべく両手を広げると、彼女は俺の胸に飛び込んで頭突きをしたのち、こちらをキラキラした目で見上げてくる。
あぁ……俺が屈まないと頬っぺたをくっつけるのは難しいか。
「これぐらいでいい?」
問いかけながら、腰をかがめる。
すると彼女は、頬をくっつけるのではなく自らの唇を俺の頬に押し付けてきた。
ま、まぁそれでもいいんだけど……やはりどうしても顔が熱くなってしまうな。クールな男子でありたいので、あまり感づかれたくはない。
パシャリとシャッターが切られたので、俺は明日香の背に回した手をほどく。しかし彼女は俺の身体をがっしりと捕まえていて、離す様子はない。
「……明日香さん?」
「ぎゅー」
「次はなんか、俺がおでこにキスするらしいんだけど?」
「唇でいい」
機械から要求されるポーズなど気にもせず、明日香は俺を見上げて唇を突き出し、たらこ状に。可愛い。
「もし待ち受けにするなら、他の人に見られないようにするんだぞ?」
そう言ってみるが、彼女は頷くことも首を振ることもせずに、ただただ唇を突き出している。以前の俺ならば「そういうのは付き合ってから~」と話を濁すこともできたのだけど……まぁ無理だよな。
「しょうがないなぁ」
愛されていることを実感――だけど恥ずかしいから表情は苦笑い。
そんな状態で、俺は明日香の唇に自らの唇をくっつけた。
「もう一回」
顔を離し、さて次はどうしようかと考えていたら、まさかのアンコールの要求が飛び出してきた。それは構わないけど、同じような絵面になっちゃうぞ?
「明日香がそれでいいなら俺は構わないけど……」
「いい」
明日香は短く返答し、再度唇をこちらに向けて尖らせてくる。
結局――七枚撮影したうちの五枚は、明日香とのキスショットになってしまった。ちなみに最後の一枚は、二人で並んでピースをしただけの、いたって平凡なプリクラとなったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
プリクラを撮り終わると、俺たちはゲームセンターから離れ、果実ジュース専門店で飲み物を飲みながら休憩をすることにした。
店内と通路を隔てる壁はなく、店内で談笑しているのはほとんど女子ばかり、一組だけカップルがいるようだが――ってあれ?
「あれ? 智樹と小日向?」
「――ん!? けほっ――ほ、ほんとだ! 二人も来てたの!?」
どうやら俺が気付くと同時に、あちらも俺たちのことに気付いたらしい。
俺と明日香が付き合い始めたあとに会ってはいるけど、年が明けてからは初めて会う。
四人でそれぞれ「あけましておめでとう。今年もよろしく」と挨拶を交わす。一名に関しては口頭ではなくスマホだが。やはりまだ人前で平然としゃべるほどではないらしい。
明日香が喋らないことに関しては、特にトラウマなどがあるわけではなく生まれつきの性格によるものなので、遮る壁こそないが、習慣を変えるのはなかなか難しいだろう。
その後俺たちは、四人でテーブルを囲み和気藹々と近況報告をしたのち、四人で再度プリクラを撮りに行ったのだった。
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