第238話 神様はKCCなのかもしれない
手水舎で手を清め、まずはお参り。
人の数はそこまで多くないので、一人二人待てばすぐに俺たちの順番がやってきた。
お賽銭をして、二礼二拍手一礼の流れに従い、俺と明日香はお祈りをする。
来年も――いや、この先ずっと、明日香が幸せに過ごせますように。
そんな風に俺が願った理由は、彼女が幸せであるということは、たぶん俺も副次的に幸せなんじゃないだろうかと思ったからだ。もしくは彼女の幸せの一部に、俺の幸せが入っている可能性も信じたい。
お祈りを終えたら、次はおみくじだ。俺も明日香も、それぞれ昨日は別の神社に行っていたが、どちらもまだおみくじは引いていない。チャットで連絡を取り合って、今日一緒に引こうと約束していたのだ。
だがその前に、明日香がどんなことを考えていたのか気になったので、俺は内容を聞いてみることにした。
「明日香は何を神様にお願いしたんだ?」
「智樹が幸せになれるようにって」
「……そ、そうか。自分のことは?」
「智樹が幸せなら私も幸せ」
なんてこった……明日香、俺の考えとほぼ一致してないか? というか完全に一致だろう。これは相思相愛のカップルと言わざるを得ないな、うむ(惚気)。
非常に心が温かくなる言葉を聞くことができたので、俺も笑いながら「実は俺も明日香とまったく同じことを願ったんだ。明日香が幸せに過ごせますようにって」というと、明日香は一瞬ポカンとした表情を浮かべたのち、飛びつくように俺の胸に抱き着いてきた。
もちろん、頭突きとグリグリ込みの抱き着きである。
恥ずかしい気持ちよりも微笑ましい気持ちとか嬉しい気持ちが勝ってしまっている――たぶん世間で言う『バカップル』と呼ばれる人たちは、今の俺のような心境なのだろう。
「どうどう……とりあえずおみくじ引こうぜ」
「…………(コクコク)」
頷く明日香の手を引いて、大量のおみくじの入った木箱へ近づく。オーソドックスなおみくじから、恋愛に重きをおいたようなおみくじ、それから、金色の小さな兎付きの物など種類は様々だ。
そういえば今年は兎年か――明日香にぴったりだ。
「どれを引く?」
聞いてみると、明日香は唇に人差し指をあてて少し悩んだ末、兎付きのおみくじを選択。てっきり恋愛のやつを選ぶと思っていたから、彼女がこれを選んだ理由を聞いてみた。
「恋愛はいいの?」
「知ってるから」
「ん? 知ってるって、おみくじの内容?」
ふむ……これはいったいどういうことだろうか? 意味が分からん。
知ってるとは言っても、この木箱に入っているおみくじの内容を全て把握しているとかじゃないだろうし……。
「私と智樹は大吉」
混乱する俺に、ふんすーと強い鼻息を吐いて明日香はそう言った。
あぁなるほど……「神様に言われずともそんなことは知っている」って意味ね。まぁここで『凶』なんか出したら嫌な空気になりそうだし、引かないほうが利口だな。
結局、俺は一番安い普通のおみくじを引き、結果は大吉。
どうやら明日香のほうも大吉だったようで、ぴょこぴょこと跳ねて喜びを全身で表現していた。とてつもなく可愛い。
脇に移動して、二人でそのおみくじの詳細を確認する。
明日香はああ言っていたけど、やっぱり初めて彼女ができた俺としては『恋愛』の項目は気になってしまうわけで――紙を広げて最初に確認したのはその場所だった。
『今が最上 迷うべからず』
ほうほう……神様もわかってるじゃないか。
あまり占いとかを信じるタイプではないが、これは信用することにしよう。明日香が最上であることは、誰に言われるまでもなく俺が一番わかっているのだ。
で、熱心におみくじの内容を見ている明日香に目を向けると、彼女は俺を見上げ、おみくじの一部を指さしながらふすふすと鼻息を鳴らした。
彼女が小さく細い指で指し示す場所――項目は『結婚』だった。
『近し 積極的に動くが吉』
うん……とても嬉しいことが書かれているというのは理解できるが、これ以上明日香を積極的に動かそうとしなくてもいいんじゃないですかねぇ神様。
ただでさえ明日香は俺に対して暴走気味なのに、神様は「もっと……もっとだ!」とまるでKCCみたいなことを言っているらしい。
「あはは……結婚はまだちょっと早いん――んぅ!?」
キスされた。もちろん俺の発言が封じられたことからわかるように、唇に。
俺の顔を両手でしっかりと挟み、逃れられないようにしてからのキス。明日香の手は徐々に俺の頬から後頭部に移動し、俺を自身の唇に押し付ける力を強くしていった。
「――ぷはっ……あ、あのね明日香さん? 人目、人目があるからね? もう少し自重しない?」
「結婚したい」
「それは俺も同じ気持ちだけどさ……場所と周囲の状況は考えようね?」
「神様、積極的に動けって言った」
神様……明日香に言質とられちゃってますよ。
そしてその影響が俺に来るんですから、おみくじの結果は計画的にお願いします。
~~作者あとがき~~
……慣れないんすよ。
一年以上「小日向」って呼んでたから癖で小日向って呼んじゃう(゚∀゚)
※追記
作者都合になりますが、更新頻度が現在の『三日に一度』から『週一連載』へと変更になります。曜日は水曜日を予定しておりますので、次回は二十九日です!
お待たせしてしまうことになりますが、なにとぞご了承くださいませ(o*。_。)oペコッ
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