第235話 いちゃいちゃオーバーフロー
突如切り替わった俺たちを祝うイルミネーションは、展望デッキが下に降りるころには元のライトアップに戻っていた。そりゃ俺たち以外が見てもなんのことかわからないだろうし――だけど、ほんの数分の為にいったいいくらのお金が消えていったのだろうかと気になってしまう。
「ま、まぁあの人たち好きでやったんだろうし、今度あったらお礼を言っておくぐらいはしておこうか。たぶん、うちの生徒会が主体になって動いてるだろうし」
「…………(コクコク)」
勝手にされたことだけど、小日向も喜んでいるし、俺もしっかりとスマホで写真を撮らせてもらったからな。
しっかりと恋人繋ぎで握った俺の手をぶんぶんと振りながら歩く小日向は、誰がどうみても楽しそう。すれ違うたびに微笑ましい視線を向けてくるエメパのお客さんたちに、逐一会釈しながら俺たちはエメパをあとにした。
晴れてカップルになったわけだけど、いままでとの違い、やっぱりあんまりわからないなぁ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
公共交通機関を使ってマンションに帰宅し、ひとまずお互いお風呂に入った。
先に俺がパパッと風呂を済ませ、小日向がお風呂に入っている間に、俺は親父に帰宅した旨を伝えるついでに、年末のことについて話したり、小日向が彼女になったことを報告したりした。
親父は喜んでくれたけれど、まったく驚いた雰囲気は無かった。「ようやくか」みたいな感じだったし、やはり俺たちが付き合うことは周囲からみたらもはや確定事項だったのだろう。遠く離れた親父ですらそうなのだから、クラスメイトや友人たちは言わずもがなといったところだな。
「あがった」
風呂から上がってきた小日向は、頭にタオルを乗せた状態でリビングにやってきた。身に着けているのはいつも通りのうさぎの着ぐるみパジャマ。俺はジャージだけど、彼女に合わせてクマさんの着ぐるみとか着たほうがいいのだろうか。
まぁそれはのちのち考えるとしよう。
「はいはい、こっちおいで」
こたつの前であぐらをかいていた俺が手招きをすると、小日向は小走りで俺の元に駆け寄ってきて、慣れた様子で足の間にお尻をおろす。そしてテーブルの上に置いてあったドライヤーを手に取り、俺に手渡してきた。スイッチを入れて、小日向の頭を乾かしていく。
うん……当たり前のようにやっているけど、これって仲が良いカップルがしそうな行動だよな。付き合う前からやってる俺たちって……やっぱり異常か?
パタパタと小日向の髪を左手で擦りながら、右手に持つドライヤーで乾かしていく。後頭部がある程度乾いてきたので、前部分を乾かそうと手の位置を変えたところで、小日向がもぞもぞと姿勢を変え始めた。俺は電源を切って、小日向をジッと見つめる。
「…………この状態で乾かせと?」
「…………(コクコク)」
「恥ずかしくない?」
「智樹好き」
「それは答えになってるのかぁ……?」
小日向は向きを百八十度変えて、俺と向き合うように座っている。足を俺の腰に回して固定し、両手は俺の肩に乗せている。
たしかにこの向きのほうが前髪とか乾かしやすいけどさぁ……お互いに見つめ合いながら髪を乾かすとか、どこのバカップルだ。しかも小日向は唇を尖らせてキスをせがむように目を瞑った。
「ちゅー」
しかもポーズだけに飽き足らず、声まで追加してきた。くっ……こんな可愛い生き物の要求を断ることができる人類が果たしてこの世にいるのだろうか? いやいない。
顔が熱くなるのを感じながら、俺は触れるぐらいの軽いキスを小日向の唇におみまいする。お返しと言わんばかりに三回キスを返された。相変わらずである。
しかし、なんで身体の一部が接触するだけで、なんでこんなに緊張するのだろうか。顔と顔が近いから? 不思議だ。
そんなことを考えつつも、俺は小日向の頭を乾かし終えた。
終わったぞと口にしながら彼女の頭をポンと叩くと、すぐさま俺に抱き着いてくる。
「今夜は離れない」
「このコアラ状態で寝ろってか? っていうか、そう言う時って『今夜は寝かせない』みたいに言うもんじゃない?」
「安心して寝ちゃう」
「さいですか……まぁとりあえず、まだ十時前だし、あったかい飲み物でも飲む?」
「…………(コクコク)」
「オッケー。じゃあキッチン行くから、ちょっとこの手と足を解いてくれる?」
「やだ」
「もしかして、ずっと寝るまで離れないつもり……? この状態だとさすがに飲み物用意するの難しいんだけど」
「おんぶ」
「まぁそれならできないこともない……けど」
付き合う前からこれ以上ないぐらいいちゃいちゃしていると思っていたけど、付き合ったらこうなるのかぁ。可愛くて仕方がないと思ってしまう時点で、俺の負けなんだろうな。
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